小一郎(中/演・仲野太賀)と秀吉(右/演・池松壮亮)に応える竹中半兵衛(左/演・菅田将暉)。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第9回です。前週に小一郎(演・仲野太賀)の許嫁・直(演・白石聖)が急に亡くなりました。ですから、冒頭で食事もとれず10日も寝込んでいるのは小一郎かと思ったのですが、弥助(演・上川周作)でした。いまだ「直ロス」の私ですが、肩透かしを食らわされました……。

編集者A(以下A):当の小一郎は、動き続けることで悲しみを封印しているという設定でした。

I:私は直の死にまだ納得していないのですが、いつまでもそれをいってもしょうがないので、前を向いていきたいと思います。小一郎らの新たなミッションは、竹中半兵衛(演・菅田将暉)の調略ということで、なぜだか、猟師の身なりでの登場になりました。

A:『豊臣兄弟!』の竹中半兵衛は、『三国志抄 諸葛孔明伝』を手に持ち、「三顧の礼」の逸話を念頭に秀吉らに対峙しているかのような展開でした。山城の中に「抜け道」を造り、自在に移動する。「稀代の軍略家」をアピールする演出になっていました。実際に、竹中半兵衛は「今孔明」とも称されたようですし、「三顧の礼」に関してもその上をいく「太閤七度通い」というさらに盛った逸話が「拡散」されるなど「軍師化」が進みました。

I:なるほど。

A:伝半兵衛著ともいわれる『竹中雑記』には、山城の立地についてまとめたり、現代でいう土木工事の要諦についても触れているようですので、そうした史料も駆使して、ああいう場面になっているのだと思われます。

I:『どうする家康』では第32回で小牧山城の堀を利用した「抜け道」が登場していましたから、意外に「抜け道」はたくさんあったのかもしれないですね。

「食うか食われるか」の熱いバトルが始まる

A:さて、織田信長(演・小栗旬)の美濃攻略戦線ですが、斎藤龍興(演・濱田龍臣)の稲葉山城を攻める段になりました。昭和時代の大御所歴史作家の海音寺潮五郎さんが、その著書『武将列伝』の中で、「半兵衛は伝記よりも小説に書いた方がおもしろい人物であろう」と喝破しているのですが、秀吉と小一郎兄弟にしても、竹中半兵衛にしても、江戸期に創作されたエピソードが多くて、過去の「太閤記物大河ドラマ」でも、展開がマチマチなのです。『おんな太閤記』(1981年)では竹中半兵衛のキャスティングはありませんでしたし、『秀吉』(1996年)では古谷一行さんが竹中半兵衛を演じていますが、秀吉は墨俣築城と同時進行で竹中半兵衛を口説いていました。

I:「太閤記物大河ドラマ」以外でも、『軍師官兵衛』(2014年)では、美濃攻めを始めた織田信長(演・江口洋介)に対して、行軍する敵陣を待ち伏せて襲う「十面埋伏の陣」という中国古典由来の戦法を半兵衛(演・谷原章介)が斎藤龍興(演・斉藤悠)に進言して実行していたという場面が描かれていました。その回では「半兵衛が後に黒田官兵衛を軍師に導くことになる」と説明されていたのです。実際に半兵衛が亡くなる第23回までは『官兵衛と半兵衛』がダブル主人公の如く、物語が展開していきました。

A:『軍師官兵衛』は、1996年の『秀吉』で豊臣秀吉を演じた竹中直人さんが、再び秀吉を演じるという「奇策」が大きな話題を呼びました。もとより主人公は黒田官兵衛(演・岡田准一)なので、物語は黒田官兵衛を中心に展開されたのですが、「官兵衛と半兵衛」が物語の中核をなしていたことをご記憶の大河ドラマファンも多いのではないでしょうか。

I:『軍師官兵衛』の記憶が鮮明な大河ドラマファンにとっては、菅田将暉さんという大河ドラマで主演を張ってもおかしくない演者が竹中半兵衛にキャスティングされたということで、『豊臣兄弟!』劇中で再び「官兵衛と半兵衛」の熱い物語が展開されることを期待している人が多いのかもしれません。ちなみに『豊臣兄弟!』で、黒田官兵衛にキャスティングされているのは、今回が大河ドラマデビューになる倉悠貴さん。『豊臣兄弟!』の作者八津弘幸さんが脚本を担当した朝ドラ『おちょやん』にも出演していた気鋭の俳優です。ちょっと期待している私です。

A:「秀吉・小一郎」という主役に対して「官兵衛と半兵衛」がどう絡んでくるのか、食うか食われるかの熱演が繰り広げられるのか? 熱いバトルが見られるかもしれないですね。高橋努さんが演じる蜂須賀小六も印象深いキャラクターですし、お市(演・宮崎あおい)と浅井長政(演・中島歩)の祝言など、期待されるエピソードがてんこ盛りで、大河ドラマファンには目が離せない展開になりそうです。

菅田将暉さん演じる竹中半兵衛の今後が気になる。(C)NHK

52万石と6000石

A:さて、黒田官兵衛孝高といえば、福岡藩藩祖となります。同藩は、52万石の大大名として明治維新まで続きます。2014年には岡田准一さん主演の『軍師官兵衛』として大河ドラマの主役にも「抜擢」されました。一方の竹中半兵衛ですが、子孫は、6000石の旗本交代寄合(途中1000石を分地して5000石)として幕末まで続きます。幕府最末期の慶応3年(1867)には竹中重固(しげかた)が幕府の陸軍奉行になりますから、あるいは来年の大河ドラマ『逆族の幕臣』に登場するかもしれません。

I:52万石と6000石というと、同じ「秀吉の軍師格」としては格差が大きいですね。なぜここまで格差が生じたのでしょうか。

A:竹中半兵衛が30代で亡くなってしまったことが大きいですね。ざっくりいうと、「健康第一」ということになるのでしょう。小一郎を主人公に据えた「豊臣家の物語」の中で、「半兵衛と官兵衛」の軌跡がどのように描かれるのか。小一郎を主人公にすることで、斬新なエピソードが多くて、おもしろく展開しているだけに、気になるところです。

I:ちょっと、蛇足ですが、ただ、私、思うのですが、52万石とはいえ本貫地から遠く離れた九州の地に封じられるのと6000石と大名ではない身分でも故郷に封じられるのとでは、どちらが幸せだったのでしょうか。

A:それはどうでしょうか。機会があったら、黒田家と竹中家の歴史を比較してみたいですね。

大河ドラマの子役の成長

I:ところで、斎藤龍興役の濱田龍臣さんですが、2010年の『龍馬伝』で坂本龍馬の幼年時代を演じたことが話題になっています。

A:感慨深いですよね。あの少年が演者として、ここまで成長するとは。時の流れを実感するきっかけにもなりますし。

I:子役と言えば、秀吉を演じている池松壮亮さんですが、2003年の『ラストサムライ』で、たか(演:小雪)の息子飛源を演じたことが知られています。私は2006年の『新選組!! 土方歳三 最期の一日』で池松さんが演じた市村鉄之助が強く印象に残っているのですよ。

A:市村鉄之助といえば、土方歳三の有名な写真を箱館から武州日野の土方家まで届けたという少年ですね。台詞は多くはなかったのですが、視る人の心に刻まれるシーンでした。あの少年がはるかにアップグレードして秀吉を演じている……。涙を禁じえません。

I:たしか、30年前の『秀吉』で石田佐吉(後の石田三成)を演じたのが当時14歳の小栗旬さんなんですよね。

A:あの利発そうな「少年佐吉」がいまや押しも押されぬ「織田信長」ですからね。

稲葉山からの眺望と信長

稲葉山城を攻略して、勝どきをあげる信長(左からふたり目/演・小栗旬)の家臣団。(C)NHK

I:さて、その信長ですが、第9回のラストで、稲葉山城を攻略して、井口といった地を岐阜と改めることを宣言しました。

A:諸説ありますが、紀元前12世紀の中国「周王朝」の文王が「岐山(現在の陝西省岐山)から起こりて天下を定む」から「岐」の字に、孔子のふるさと曲阜から「阜」をとって 「岐阜」になったといわれています。これは禅僧で、信長にとって、相談役であり、参謀であり、ある意味軍師のようでもあり、その人生、指針にかなり影響を与えたと思われる沢彦宗恩(たくげんそうおん)の案だといわれています。信長が登場する大河ドラマで沢彦宗恩も登場することはほとんどありませんが、1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』では、架空の易者・加納随天(演・平幹二朗)がそれっぽい役割を示していましたが、実際は沢彦宗恩がそうした役割をしていたのだと思われます。火坂雅志さんが『沢彦』(小学館文庫)という小説を上梓しています。

I:火坂さんは、『天地人』の原作者ですね。

A:私は、初めて岐阜城の天守から広大な濃尾平野を望んだ際に、「この景色を見て、信長は天下を意識したに違いない」と感じました。『信長全史』に「岐阜城天守から望む濃尾平野」を掲載したのもそのためです。ですから、第9回に信長とその側近らが一堂に会するシーンは胸熱でした。ある意味、信長と側近たちの「いちばん幸せだった瞬間」なのかもと思ったりしました。

I:あ、それはそうかもしれません。その流れで、小一郎のもとに直が「現れ」ました。「直ロス」の私にとっては、この短い登場にも「涙」です。また、近いうちに池松壮亮さん、仲野太賀さん、白石聖さん、浜辺美波さん(寧々役)が一堂に会する企画があったらいいなと思います。

直(演・白石聖)が再び(回想で)登場。(C)NHK

※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。

●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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