ライターI(以下I):『光る君へ』第34回で、とりわけ印象に残ったのは、中宮彰子(演・見上愛)と敦康親王(演・渡邉櫂)のまるで姉弟のような睦まじい様子を描いた場面です。実の母である皇后定子(演・高畑充希)が亡くなって、中宮彰子のもとで育てられる敦康親王が安息の場を得ていることに、なんだかうるうるしてきました。『源氏物語』の「桐壷」帖で描かれる藤壺と光源氏のモデルが中宮彰子と敦康親王だといわれるわけですが、劇中でも中宮彰子と敦康親王の仲の良い姿が描かれました。
編集者A(以下A):実際にこのふたりは仲がよかったようですからね。ただ、道長(演・柄本佑)とすれば、敦康親王を中宮彰子のもとで養育することは、彰子が皇子を生むまでの「保険」のようなもの。
I:それでも実際に起居をともにすれば情がわこうというもの。劇中でも表敬訪問した伯父の伊周(演・三浦翔平)を忌避している様子でした。
雲太、和二、京三
I:中宮彰子の住まう藤壺に敦康親王の伯父である伊周が訪ねてきた場面ですね。前段で伊周の息子道雅(演・福崎那由他)が一条天皇の蔵人に任ぜられる場面があって、中関白家も復権か、という流れの中での藤壺参入です。伊周は、敦康親王に『口遊(くちずさみ)』を持参してきました。
A:『口遊』は、藤原為光(演・阪田マサノブ)が嫡男である藤原誠信(斉信の同母兄)のために源為憲に命じて書かせた貴族子弟向けの児童書です。ですから、ほぼ同時代の書ということになります。『口遊』で有名なのが、大きな建築物を紹介する「雲太、和二、京三(うんた、わに、きょうさん)」の記述でしょう。
I:出雲太郎(雲太)が出雲大社、大和二郎(和二)が東大寺大仏殿、京三郎(京三)が京の都の大極殿なのですよね。
A:つまり、東大寺大仏殿より出雲大社の方が大きかったという記述で、長らく信ぴょう性に疑問が呈されていました。ところが平成12年~13年の調査によって、出雲大社から巨大な心の御柱が出土して、出雲大社に巨大な建築物があって、『口遊』の記述が真実であったことが証明されました。ちょっと脱線しましたが、伊周が敦康親王に持ってきた『口遊』について紹介しました。
I:それはさておき、敦康親王は、伯父伊周に対してそっぽを向いて、道長のもとに駆け寄ります。敦康親王からみれば道長は大叔父ということになりますが、伊周にとってはショックだったでしょう。完全に道長の思惑通りに展開しているという場面になりました。
【惟規が六位蔵人に転身。次ページに続きます】