綺麗な道長(演・柄本佑)。(C)NHK

ライターI(以下I):今回も、國學院大學の竹内正彦教授に『源氏物語』と大河ドラマ『光る君へ』を行き来しながらお話を伺いました。

編集者A(以下A):先生が『光る君へ』で楽しまれているポイントはどこでしょうか。

竹内:やはり、ちょっとしたエピソードや舞台設定が、これは『源氏物語』のあの場面をモチーフにしているのかな、と小ネタを探すのはおもしろいですよね。ただ、そうした小ネタを全部つなぎ合わせても『源氏物語』にはなりません。おそらく、まひろさん(演・吉高由里子)が身近に見聞きしたものを取り込んで『源氏物語』を書いたというようにしたいのだろうとは思いますが。

I:私たち一般視聴者では気づかないことも、『源氏物語』研究者の先生ならすぐに気づくんでしょうね。

竹内:装束や建物、室礼(しつらい)なども注目点ですね。ただ、その再現には相当ご苦労なさっているのではないかと思います。たとえば、国宝『源氏物語絵巻』にしてもその成立は、百数十年後の院政期ですからね。それらを参考にするとしても、紫式部の生きた時代とはやはり違ってきてしまいますし、演出の都合もあるでしょう。それを含めてドラマとして見ればいいのかなと思います。ドラマであるということを忘れてしまうと、あれは違うとか、これはこうあるべきだとか、批判ばかりの見方しかできなくなってしまって、楽しくないですからね。

A:確かにそうですね。これはドラマであるということを忘れてはいけないですね。ただ、『光る君へ』をきっかけにこの時代に興味を持つ人が増えればいいなと思いますし、制作陣もそういうつもりで作っているように思います。

竹内:ドラマを見て、興味を持っていただいた方がいらっしゃれば、ぜひ実際に『源氏物語』を原文で読んで楽しんでもらいたいと思います。現代語訳はどうしても新たな創作というべきものですから。

I:テキストとしておすすめはありますか。

A:ちょうど先生のお部屋に、うち(小学館)から出している新編日本古典文学全集がありますね。

竹内:新編全集はいいですね。ただ、品切れなんですよね。ジャパンナレッジには入っていますけど。学生たちもちょっと困っていて。少し前は、「古典セレクション」といって、新編全集の薄い分刊が出ていて、私も授業でテキストにしていたのですが、それも電子版でしか手に入らなくなってしまって。再販版を出して頂けるとありがたいですね。

A:そうですか。言っておきます。

竹内:ぜひ。ドラマならではということでいえば、女性の名前ですね。前回お話をしたように、女性の本名はわかりません。だから彰子とか定子のことを仮に「しょうし」「ていし」と音読みをしているわけですが、ドラマではすべて訓読みをしています。もちろんそのように読んだという説もありますが、あえて訓読みをすることによって、私たちが慣れ親しんでいる「しょうし」「ていし」ではないんだよ、これはひとつの創作なんだよ、ということなのかなと思います。

A:なるほど。司馬遼太郎の『竜馬がゆく』で、龍馬ではなく、あえて竜馬としていることにも似ていますね。

竹内:はい。視聴者もそのように呼ばれることによって、歴史的事実とは別の世界だとして受け取れるような気がしています。また、藤原道長(演・柄本佑)も非常に「綺麗な道長」ですよね。歴史的に私たちが「知っている」道長は、非常に政治的な計算をする人物ですよね。たとえば、出産のために定子が大進生昌邸に出ていきますが、まさにその日に、道長は宇治に行くんですね。公卿たちに対して、定子か道長、どちらにつくんだということをやるわけです。

I:ドラマではちょうど先週、今週あたりが長徳の変ですが、中関白家が窮地に追いやられるのも、道長の主導ではないように描かれています。詮子(演・吉田羊)や倫子(演・黒木華)の動きがありましたし、一条天皇(演・塩野瑛久)が伊周(演・三浦翔平)はもちろん最愛の定子(演・高畑充希)をも遠ざけています。さらには、検非違使の別当として実資(演・秋山竜次)が容赦なく二条第を捜索したりして、貴子(演・板谷由夏)を追い詰めます。

竹内:長徳の変は、たしかに伊周の自滅という面が否定できませんが、道長がまったく関わらなかったというのはどうでしょう。流された伊周は病気の母を案じて秘かに入京して定子にかくまわれていましたが、道長はそれを生昌の密告によって把握しています。道長は独自の情報網をもっていて、そうした情報をうまく使って時流を動かしていったのではないでしょうか。黒幕は表には出てきませんからね。その後も、定子が敦康親王を生んだ日に彰子を女御にしたりするなど、真綿で首を絞めるように定子を追い込んでいきます。

I:一昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では北条義時(演・小栗旬)が後半どんどんブラックになっていきましたが、今回の道長はどういう展開になるのでしょう。

『源氏物語』の光源氏も晩年はブラックともいえる面を出してきます。次ページに続きます

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