リーダー必見の書 『貞観政要』
I:この時の疫病は大宰府から発して、徐々に都まで上ってきたようです。疫病の規模としては、房前、麻呂、武智麻呂、宇合の藤原四兄弟が亡くなって、奈良の大仏建立のきっかけになったともいわれる天平9年(737)の疫病以来の大規模な流行になったといわれています。
A:印象的だったのは、関白道隆(演・井浦新)と一条天皇のやりとりです。道隆は、疫病について「下々の者しかかからぬものゆえ、我々にはかかわりございませぬ」と楽観視したように描かれます。それに対して、一条天皇は、唐の『貞観政要』を例にとり、「隋が滅びたのは、兵の備えを怠ったからではない。民をおろそかにし、徳による政を行なわなかったからであると書いてある。朕はそのようになりとうはない」と心情を吐露するのです。
I:『貞観政要』は唐の第二代太宗皇帝(598~649)の言行をまとめたもので、「帝王学の書」と呼ばれるものですね。日本にはまさにこの一条天皇の頃にはすでにしっかりとした写本が存在していたようです。
A:毎年大河ドラマを楽しんでおられる方の中にはお気づきの方もいらっしゃると思いますが、『鎌倉殿の13人』(2022年)では金剛(後の北条泰時/演・坂口健太郎)が『貞観政要』を読むシーンが描かれました(第24回)。後に『御成敗式目』を制定することになる金剛を強く印象づける場面になりました。そして、昨年の『どうする家康』主人公の徳川家康(演・松本潤)もまた『貞観政要』の熱心な読者だったことが知られています。
I:家康は活字本まで刊行させたそうですね。
A:はい。東京大学の山内昌之名誉教授は『春秋左氏伝』とともに『貞観政要』は現代でもリーダー必読の書であると推奨しています。ということで、一条天皇は日本史の中でも早い時期に『貞観政要』に触れた為政者になるかと思います。劇中場面の数年後になる寛弘3年(1006)には博学の学者大江匡衡(まさひら)による『貞観政要』の講義を受けたと記録されているくらいです。
I:大江匡衡といえば、源倫子のサロンでおなじみの赤染衛門(演・凰稀かなめ)の夫ですね。
【次回以降、見逃したくない歴史的事件が描かれる。次ページに続きます】