ライターI(以下I):今週は武田信玄(演・阿部寛)と徳川家康(演・松本潤)との攻防がメインで、武田方に人質となっていた家康異父弟の存在がクローズアップされる回になりました。
編集者A(以下A):松平源三郎勝俊(演・長尾謙杜)と聞いて、どんな人物かピンとくるのは、相当な歴史通かコアな松平ファンかと思われます。恥ずかしながら私も徳川家康の異父弟ということくらいの知識しかありませんでした。劇中ではダイレクトに武田に人質として送られたという設定になっていました。
I:家康異父弟では、四国の松山藩主となった、久松長家と於大の方の四男定勝の系統が有名なんですよね。NHKアナウンサーだった松平定知さんも定勝の流れです。それだけに源三郎勝俊がクローズアップされるのは、斬新だなと思いました。
A:劇中では、実母の於大(演・松嶋菜々子)のもとに届いた書状が発端となり、服部半蔵(演・山田孝之)を呼び出して源三郎の奪還作戦が始まります。なんだか、要塞のようなところで過酷な人質生活を送っている様子が描かれました。
I:物語序盤で織田方の人質になっていた竹千代(後の家康)が、四方を竹柵で囲まれた場所で総合格闘技を想起させる戦いに挑む場面がありましたから、世界観が共有されてはいるようですね。ただ、あの場面を見ると、戦国時代の人質って「ああいう扱いなんだ」と思われてしまうかもしれません。
A:そういう設定だと割り切ればいいのではないでしょうか。そして、この場面を見て、「戦国時代の人質の待遇」について深掘りしてみようという若者だったり、「俺だったらこんな演出はしない。いつか大河の演出を変えてやる」という若者が出てきたらいいなと思いました。
女忍び同士の争い
I:源三郎奪還のために服部半蔵傘下の「軍団」が登場しました。女忍びの大鼠(演・松本まりか)も参戦していて、信玄側近の千代(演・古川琴音)と立ち回りをしました。
A:絵面(えづら)としては、本当に興味深いシーンになりました。もっともっと見たいという視聴者も多いのではないでしょうか。以前も言及しましたが、甲冑姿のお田鶴の方(演・関水渚)もキリッとしていましたし、女性キャスト陣を集約したスピンオフ企画をBSでやってくれないだろうかと思ったりします。「服部半蔵外伝」だったり「家臣団外伝」だったり、そのほかにもやってほしいネタは山ほどあります(笑)。
I:あ、それ面白いかもしれませんね。ムロツヨシさんの藤吉郎と信長(演・岡田准一)との出会いなんかも見たいです! BSには時代劇枠があるわけですから、企画段階から、「BS外伝」を予定しちゃえばいいですよね。
A:「外伝の評価の方が高い!」となってしまうリスクはありますが、なんか、そういう「お祭り感」のある新企画で大河ファンをわくわくさせてほしいです。
I:私はやっぱり「服部半蔵外伝」を希望します。山田孝之さん演じる服部半蔵が毎回、自分は忍びではなく武士……ともじもじと言うのがけっこうツボなんですよ(笑)。
信長と家康を取り巻く危機的状況
A:さて、本作は各回ひとりの人物を照射していくスタイルなので、歴史のダイナミズムにあまり触れない感じになっています。金ヶ崎の戦い、姉川の合戦の元亀元年からの3年間は、俗にいう「信長包囲網」が展開されていた時期。信長、家康を取り巻く緊迫した情勢をもっと表現してほしいという人も多いでしょう。1973年の大河ドラマ『国盗り物語』で、伊丹十三さん演じる将軍足利義昭が台詞で簡潔に説明しています。以下、引用しますので、『どうする家康』現在地の背景として脳内で変換してほしいです。
信長は倒れるぞ。わしの合図ひとつで摂津石山の本願寺が立ち上がる。それを中国の毛利が後押しをする。と同時に北方から越前兵が攻めてくる。越後の上杉、甲斐の武田も信長を倒すことで意見がひとつになった。近江の叡山もわしに力を貸す。
I:〈北方から越前兵が攻めてくる〉というのが金ヶ崎、姉川の合戦対応ですかね。〈甲斐の武田も信長を倒すことで意見がひとつになった〉というのが、『どうする家康』の現在地ですね。
A:元亀元年には家康も独自に上杉謙信と同盟を結びました。その際に交わされた起請文が山形県米沢市の上杉博物館に蔵されています。劇中では、謙信への書状を持った使いが殺されてその書状が信玄のもとに届けられました。
I:いよいよ信玄と家康の激突が間近になり、緊迫してきました。家康の表情もキリッとしてきましたね。
A:そもそも信長の養女が武田勝頼(演・眞栄田郷敦)に嫁ぐなど、当初は武田・織田は同盟を交わしていました。そこから何がどうなってこんがらがって対立したのか、概要を知ると『どうする家康』がもっと楽しめると思います。
I:「手前みそですが、図版や写真が豊富な『信長全史』を手に取ってほしいです」ということが言いたいのですね。
A:(低頭する)。
【体調不良を押して出陣する武田信玄。次ページに続きます】