浮世絵師、葛飾北斎は、1760(宝暦10)年に、本所割下水(わりげすい/現・墨田区亀沢)で生まれ、およそ90年の長きにわたる生涯のほとんどを現在の墨田区内で過ごしました。美術館の建つ場所には江戸時代、弘前藩津軽家の大名屋敷があり、その藩主からの依頼で北斎は屏風に馬の絵を描いています。
そんな、ゆかりある墨田区両国に、北斎の名を冠した美術館「すみだ北斎美術館」が誕生しました。
建物は、建築界のノーベル賞と呼ばれるプリツカー賞を受賞した妹島和世さんによるもの。斜めにそそり立つ壁とメタリックな外観から一見、圧迫感がありそうにも見えるのですが、内部に足を踏み入れると、ガラスが効果的に用いられることで外光が取り込まれ、開放的です。
コレクションは、1989(平成元)年から墨田区が収集した作品と、浮世絵研究者のピーター・モース氏と楢崎宗重氏から受け継いだコレクションで構成され、その数は約1800点に及びます。
ピーター・モース氏は大森貝塚を発見した考古学者、エドワード・モースの弟の子孫で、北斎の研究をするかたわら、個人のコレクションとしては世界最大級の北斎のコレクションを築きました。この世に数点しかない貴重な作品も含まれています。
コレクションのお披露目となる、開館記念展「北斎の帰還―幻の絵巻と名品コレクション」で最も注目したいのが、北斎が手で描いた肉筆の絵巻「隅田川両岸景色図巻」です。1892(明治25)年に上野で展示された後、欧米で活躍した美術商、林忠正の元に渡り、1902年までパリに存在していたことがわかっていましたが、その後、行方不明となり昨年、再発見されました。じつに、100年以上ぶりのことです。
すみだ北斎美術館主任学芸員、奥田敦子さんは次のように、この絵巻を解説します。
「長さは716cmと、非常に長く、北斎の生涯のなかで最大、最長級の作品になります。隅田川を遡って吉原に向かう様子を描いています。陰影を交えた表現になっていまして、東洋の絵画では見られない洋風の表現を取り入れています。洋風画を研究した北斎らしい絵巻と言えます」。
赤富士の名で知られる「凱風快晴」や、「神奈川沖浪裏」といった、誰もが一度はイメージを目にしたことがある浮世絵版画「冨嶽三十六景」シリーズも、展示替えをしながら紹介されます。このシリーズが大ヒットしたことで、北斎は浮世絵の世界に風景画のジャンルを確立しました。
北斎ゆかりの地である東京で、北斎の作品を常にまとまって見られるのは、すみだ北斎美術館だけ。ぜひお出かけ下さい。
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【開館記念展「北斎の帰還―幻の絵巻と名品コレクション―」】
■会期/2016年11月22日(火)~2017年1月15日(日)
前期:11月22日(火) ~ 12月18日(日)
後期:12月20日(火) ~ 1月15日(日)
※作品保護のため前後期で一部展示替えを行います。また、各期においても途中で一部展示替えを行います。
■会場/すみだ北斎美術館
■住所/東京都墨田区亀沢二丁目7番2号
■電話番号/03-5777-8600(ハローダイヤル)
■料金/一般1200(960)円 大高生900(720)円 65歳以上900(720)円 中学生400(320)円 障がい者400(320)円
※( )内は20名以上の団体料金
※団体は有料のお客様20名以上
※小学生以下は無料
※中学生・高校生・大学生(高専、専門学校、専修学校生含む) は生徒手帳または学生証を
ご提示ください。
※65歳以上の方は年齢を証明できるものをご提示ください。
※身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳などをお持ちの方及びその付添の方1 名まで障がい者料金でご覧いただけます(入館の際は、身体障害者手帳などの提示をお願いします)。
※開館記念展のチケットは、会期中観覧日当日に限り、常設展もご覧になれます。
■開館時間/9時30分~17時30分(入館は閉館の30分前まで)
■休館日/毎週月曜日(祝日・振替休日の場合は翌平日)、年末年始11月28日(月)、12月5日(月)、12月12日(月)、12月19日(月)、12月26日(月)~1月1日(日・祝)、1月10日(火)
■アクセス/都営地下鉄大江戸線「両国駅」A3出口より徒歩約5分
JR総武線「両国駅」東口より徒歩約9分
墨田区内循環バス「すみだ北斎美術館前(津軽家上屋敷跡)停留所」からすぐ
※平成28年11月21日までは「緑町公園(津軽家上屋敷跡)停留所」
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』