「今川義元の舞」はフル尺で見たい!
I:物語は、織田信長(演・岡田准一)と今川義元との戦いのシーンになりました。
A:義元から金の甲冑「金陀美具足」が元康に下賜されました。「金陀美具足」は、静岡市の久能山東照宮に蔵されているものです。
I:なかなかお似合いでした。1月4日に『ニュースウォッチ9』で松本潤さんがインタビューに応じていましたが、松本さんの傍らに「金陀美具足」が置かれていました。
A:さて、前半の見どころのひとつが野村萬斎さん演じる今川義元ではないでしょうか。なんと29年ぶりの大河ドラマ登場です。前回は1994年の『花の乱』の細川勝元役でした。山名宗全役の萬屋錦之助さんとの共演は今振り返ると凄い組み合わせでしたし、何より萬斎さんの所作の美しさが目を引いた作品でした。
A:沓掛城での義元の舞は、圧巻でしたね。事前のインタビューでも萬斎さんがこの舞に言及していましたから注目していましたが、重厚な場面になりました。おそらく収録した舞をややカットしている風でしたので、どこかで「完全版」を見せていただきたいです。
I:私ももっと見たかったです! 桶狭間の舞というと信長の「敦盛」が有名ですが、義元の舞は斬新でした。こういう「斬新」はわくわくしますね。さて、元康率いる岡崎勢は、大高城への兵糧運びを命じられます。
A:もうずいぶん前になりますが、『信長全史』という本を編集した際に、大高城や善照寺砦、鳴海城、丸根砦など関連史跡をめぐり歩きました。桶狭間古戦場近くにある高徳院のご住職にもいろいろご教示いただき、古戦場の古写真などご提供いただいたのを思い出しました。
I:さて、出陣の準備をする元康のもとに義元が現れます。そこで本作の大テーマともいうべきやり取りが行なわれます。
A:〈武をもって治めるは覇道、徳をもって治めるのが王道なり!〉と義元の教えを復唱する元康に対して義元が〈織田信長という男、戦を好みまさに悪しき覇道をゆく者とみるが、そなたはどうじゃ〉と問いかけます。なんだか心に染み入るシーンでした。今川家の重臣である関口家の姫を娶るわけですから、単なる人質という存在ではなく、明らかに義元から目をかけられる存在だったのでしょう。
I:目をかけられているという象徴的な場面が、義元から「金陀美具足」を下賜されるシーン。出陣に際してさっそく着用しますが、敵からみたら目立つという話になります。緩急を入れてこういう笑えるシーンが登場するのもわかりやすくてうれしいです。
A:ここでのやり取り、思わず吹き出しますよね。この時の元康はまだまだ若いですから、「神君」でも「たぬき親父」でもない等身大の元康を描いているものと受け止めましたし、酒井忠次とのやり取りもどこかほっとして、忠次が主君元康を安心させようとしている感じがしました。
颯爽とした信長が登場!
I:さて、元康が大高城への兵糧入れを成功してほっとしているところへ、義元敗死の報がもたらされます。第1回にしてなんとスピーディな展開! いきなり「戦国のジャイアントキリング」が描かれました。
A:ここで元康がとった行動が衝撃的でした。なんと大将自らが戦線離脱。衝撃的な展開でした。海岸線を歩く元康を見て「おお、こんなロケを!」と思いましたが、そこへ騎馬武者がやってきます。
I:誰かと思えば、本多平八郎忠勝(演・山田裕貴)! ものすごく印象的な登場になりました。当欄では「大河ドラマは壮大なるエンターテインメント」であると考えていますが、あの場で平八郎が放った槍が私の心にも突き刺さりました!
A:ほう。いきなり心を鷲掴みにされたわけですね。この平八郎も後に「徳川四天王」になる有力者。がっちり記憶に留めておきましょう。ちなみに劇中に登場している本多忠真(演・波岡一喜)は平八郎忠勝の叔父になります。
I:はい。忠真もしっかり台詞でそのことを説明していました。さて、早くも信長が黒マントをまとって颯爽と登場です。〈俺の白うさぎ〉って……。どんなエピソードがあって〈白うさぎ〉なのか? 興味津々です。そして、第1回にして、松本潤さんの元康に虜になってしまっている私がいます……。
A:え? もう虜ですか? なるほど……。現実の家康も、瞬時に人の心をとらえることのできるキャラクターだったのではないかと思ったりしていますから、さもありなんです。まさに「希代の人たらし」。今後の展開が楽しみです。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり