関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者・敏恵さん(仮名・60歳)は「定年退職後の夫が、外出を続けているんです」と私たちの事務所にいらっしゃいました。
夫を愛しているのに家に帰ってこない
敏恵さんは専業主婦歴35年。パートなどをしながら、2人の息子を育て上げた“お母さん”です。ふっくらとした体格で優しく明るい雰囲気で健康的。栗色に染められた髪やピンク色のネイルがキュートです。
「主人のことを疑いたくなかったんですけれど、何か事件に巻き込まれていたらどうしようかと思って。息子たちには孫もいますし、心配なんです」とおっしゃいました。周囲の人に惜しみなく愛を与えるような口調に、思わず「こんなお母さんだったら、子供は幸せなんだろうな」と想像してしまいました。
調査対象は、5歳年上の夫。半年前に65歳で定年退職したのに、家にほとんどおらず、外に出ていると言います。
「主人は60歳のときに、勤務していた大手商社を退職したのですが、その後も関連会社に出向して、忙しく過ごしていました。仕事のことはわからないのですが、かなり重要なことをしているらしく、コロナの間も、アメリカやカナダなどに行きまくっていたんです」
その間の空港の送り迎えなども、敏恵さんが行っていたそう。当然家事も育児も完璧。
「私の時代は、良妻賢母がいいと教育されましたしね。嫁ぐときに母から“恥ずかしくない妻でいなさい”と言われ、いつお客様が来てもおかしくないように、環境を整えていました。主人は私がいてくれるから仕事に邁進できると、いつも感謝の言葉をくれるんです。結婚生活こそ35年ですが、実際に一緒に過ごした時間を計算すると10年にも満たないんじゃないかしら。主人は土日も仕事が入ることも多かったですし、私が子供たちの野球などにも付き合っていました。家族旅行はたくさん行きましたが、私と二人で一緒に行ったのは新婚旅行のみ」
夫を愛している敏恵さんは、定年になることを待っていたという。
「結婚して1年で、立て続けに息子2人が生まれ、新婚時代もろくになかったんです。育児が終わってホッと一息ついても、主人は多忙のまま。コロナ禍に主人の父と母を見送って、やっと主人と2人きりになれると思っても、まだ出かけている。最近は私に顔を合わせないようにしているようにも感じるんです。こんなに愛しているのに」
【「定年後に会社を立ち上げるなら、私に相談するはず」次のページに続きます】