
秋田県湯沢市皆瀬の山間から、世界に誇る時計ブランドが生まれています。その名は「MINASE(ミナセ)」。工房のある「皆瀬」という地名をそのままブランド名にしたこの時計は、大量生産とは一線を画した“工芸品”として、欧米の時計愛好家からも熱い支持を集めています。
文/土田貴史
段付きドリルから始まった時計製造への道
MINASEの母体である協和精工は、1963年に切削工具メーカーとして創業しました。転機となったのは、時計ケース加工を手掛ける顧客からの相談だと言います。「大きさが違う穴を2回の工程ではなく、1回の工程で空けたい」——この要望に応えて開発した「段付きドリル(ステップドリル)」が、同社の運命を変えました。この画期的なドリルにより作業効率が飛躍的に改善され、やがて協和精工は時計ケース製造の世界へと足を踏み入れることになります。

1980年代には国内外の有名時計ブランドにケースを供給するまでに成長。特に研磨加工の技術力は顧客から高く評価され、現在では幻の技術と言われる「ザラツ研磨」を得意とするメーカーとして知られるようになりました。そして2005年、蓄積された技術とノウハウを結集し、自社ブランド「MINASE」が誕生したのです。初心を忘れないため、時計事業を始めるきっかけとなった段付きドリルのフォルムを、現在もロゴマークに採用しています。

MINASEが他の時計ブランドと一線を画すのは、その圧倒的な希少性にあります。年間生産数量はわずか約800本。約20名の熟練職人が手作業で製造する、まさに「ハンドメイドの集合体」です。その美しさの源泉は、「MINASE ISM(ミナセ・イズム)」と呼ばれる4つの独自技術にあります。
歪みのない鏡面を出すための下地処理技術「ザラツ研磨」は、職人の手の感覚だけで行う幻の技術で、MINASEの時計はケース1個で延べ約6〜7時間、ブレスレット1本で延べ約12〜15時間もの研磨時間を要します。日本の伝統工芸品である組木細工をヒントにした特許技術「MORE構造」は、打ち込みピンを使わず、独立したパーツを裏からネジで留めることで永続的なメンテナンスを可能にしました。
また、文字通り、ケースの中にケースがある「ケースインケース構造」は、究極の立体感と時計内部の空間表現を実現するMINASE独自の技術です。さらに「クランピング構造」は、ベゼルとケースの間にガラスを挟み込み、下から締め付けることで防水機能を実現し、ジュエリーの石留め技法からインスピレーションを得た美しい構造となっています。
電鋳技法で生み出された20周年記念作品
ブランド誕生20周年を記念して発売される特別モデルは、人気シリーズ「SEVEN WINDOWS」に「雪平ブラックグラデーションダイアル」を搭載した仕様。世界限定77本という超希少モデルとなります。
最大の見どころは、電鋳という高度な製法で作られた文字盤。まず、雪平模様の原型を製作し、樹脂製の型に転写します。その面に銅メッキを積層させることで、型押しプレス製法では表現しきれない繊細な模様を実現しています。

ディテールへのこだわりも徹底しています。文字盤部のインデックスパーツは仕上げ研磨後にイオンプレーティングでオールブラックに加工し、ブランドシンボルである12時位置のドリルマークのみを銀色に輝かせるため、追加で研磨加工を施しています。
新作は2つのバリエーションで展開されます。レザーストラップモデルは、牛革に皆瀬工場周辺の自然をイメージした波状木目の線を描く「Wavy Grain」パターンの型押し加工を施し、手縫いで1本ずつ仕上げています。一方、メタルブレスレットモデルは、特許取得のMORE構造を採用し、永続的なメンテナンスが可能です。ムーブメントをホールドするインナーケースには「20th Anniversary」の刻印が刻まれ、針には鮮やかなブルーに光る夜光が塗布されています。


購入者全員に、本革パティーヌ仕上げのオリジナルウォッチレザーケースが付属するのも大きな魅力。さらに先行予約者には、MINASEの研磨技術を活かしたシルバーバングルがプレゼントされます。予約は2025年8月22日午前11時から。2k540 K CRAFTWORK JAPAN(店頭)、MINASEホームページ、MINASE正規取扱各店舗で受付され、店頭発売は2025年9月25日の予定です。


「100年後も語れるモノづくり」というコンセプトのもと、20年間歩み続けてきたMINASE。その集大成とも言える20周年限定モデルは、日本の職人技の粋を集めた、まさに“工芸品”としての時計の価値を問いかける一本となっています。


https://minase-watches.com