本物の線路の上で、自らの手で蒸気機関車を動かす。乗車して鉄道史が体感できるとっておきの場所を案内。
三笠鉄道村は、明治15年(1882)に開業した官営幌内鉄道の終点・幌内駅の跡地で、炭鉱と蒸気機関車の歴史を次世代に伝える施設である。機関士の指導の下、出発から停止まで、蒸気機関車を自分の手で本格的に動かすことができるのは、全国でもここだけ。かつて、炭鉱から石炭を運び出す拠点となった歴史的な場所で、実際に運転を体験してみた。
「生き物に近い」と体感
梯子を登り運転室へ入った瞬間、サウナのような熱気が襲ってくる。たくさん並ぶレバーや配管を前にすると、事前に受けた学科講習の内容がすっかり頭から飛んでしまった。指導する河原井光則機関士の「はい、やってみて」の声に、ブレーキ圧力を確認し、周囲の安全を確認。いよいよ自分で運転する。
「逆転機を手前に引いて」「ブレーキ緩めて、加減弁を下げて」「はい、ここでドレーン切って(シリンダーに溜まった水を排水すること)」河原井さんから矢継ぎ早に指示が飛ぶ。指示通りに作業するので精一杯だ。450mほど進んでゆっくり停車すると、バック運転で戻る。
操作自体は、マニュアルの自動車の運転に近い。ギア(逆転機)を入れてブレーキペダルから足を離し(ブレーキ弁の解放)、アクセルを踏めば(加減弁の操作)機関車は動きだす。もっとも、マニュアル車以上に生き物に近い。散歩に行きたくて走り出しそうな犬を手綱で押さえているような感覚がある。
官営幌内鉄道は、後に国鉄幌内線となり沿線から石炭を運び日本のエネルギー需要を支え続けた。だが、石炭産業の斜陽化にともない、昭和62年(1987)、岩見沢〜三笠〜幌内間と三笠〜幾春別間が廃止、2年後、幌内炭鉱も閉山された。三笠鉄道村で指導する機関士は元国鉄マンが多く、SL華やかなりし頃の話を聞くため、毎年訪れる常連もいるという。
札幌市電の前身で、本物の馬が牽く馬車鉄道に乗車体験できる『北海道開拓の村』(札幌市)もあわせて訪ねたい。
三笠鉄道記念館
北海道三笠市幌内町2丁目287 電話:01267・3・1123
営業時間:9時〜17時
定休日:月曜(祝日の場合は翌平日)、10月16日〜4月15日は冬期休館
料金:530円
交通:JR函館本線岩見沢駅から中央バス幾春別町行きに乗車、「三笠市民会館」下車、三笠市
営バス幌内線に乗り換え「鉄道記念館」下車。
本物の馬が牽く馬車鉄道で札幌市電の前身を体感する
北海道開拓の村
北海道札幌市厚別区厚別町小野幌50-1
電話:011・898・2692
営業時間:9時〜16時30分(5月〜9月は9時〜17時)、入場は閉場の30分前まで休日:月曜(祝日の場合は翌平日、ただし、さっぽろ雪まつり期間の月曜は開村)、12月29日〜1月3日
料金::800円
交通:JR千歳線新札幌駅よりバスで「開拓の村」下車すぐ
取材・文/西村海香 撮影/杉崎行恭(※杉崎の「崎」は正しくは「たつさき」)
※この記事は『サライ』本誌2022年11月号より転載しました。