文・写真/杉﨑行恭
オーストラリアを代表する長距離列車「インディアンパシフィック」。列車名を直訳すると「インド洋太平洋号」、つまりオーストラリア大陸を太平洋からインド洋まで連絡する寝台列車だ。走行距離は4532km、3泊4日、約65時間かけて走破する。今回はその乗車体験記をお届けしよう。
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太平洋側の始発はシドニーセントラル・ステーション、1906年建築のクラシックスタイルの駅舎は必見だ。
「インディアンパシフィック」は同駅の2番線と3番線に停車する。つまりホーム両側に同じ列車が停っているのだ。というのも、列車は長大な26両編成なので、ホームの長さが足らないために、分割して入線していたのだ。
ちなみに今回乗った列車の全長はなんと615mもある。このなかに発電車2両、乗務員車2両、手荷物車1両も含まれる。
さて、シドニーを午後に発車した「インディアンパシフィック」はオーストラリア東部のブルーマウンテン山脈を越え、翌日午後にワインで知られるアデレードに到着する。アデレードは列車を運行するグレートサザンレイルウェイの本拠地で、ここからダーウィンまで南北に連絡する長距離列車「ザ・ガン」も運行している。
今回はアデレードで24両編成となり、先頭に小山のようなディーゼル・エレクトリック機関車が重連で連結。これより「インディアンパシフィック」は、オーストラリア大陸の中央に広がるナラボー平原を真一文字に横断するのだ。
夏には気温が最大48度にもなる過酷な乾燥地帯だが、空調のきいた列車は快適そのもの。ツイン&ダブルの個室があるプラチナクラスと、2段ベッド個室のゴールドクラスが基本の寝台列車には豪華な食堂車と、誰もがくつろげるラウンジカーも連結される。
さて3日目の朝、車内放送で「世界最長の直線区間に入った」とアナウンスがあった。車窓にはナラボー平原の地平線があるのみ。遠くはゆっくり、近くは流れるようにソルトブッシュという茂みが動く。
感動的というか退屈というか、永遠につづくような殺風景さがブレックファーストを食べても、ビールを飲んでも続いている。
その日の午後にクックという原野の駅に停車。外に出るとアウトバックの乾いた風と、容赦ない小バエの大群に襲われた。こんなところに線路を建設した先人の苦労がしのばれる。蒸気機関車の頃は、このクックで水の補給をしたという。かつては大陸横断列車の積み荷の半分が機関車を走らせる水だったという。
時刻はこのクックで30分繰り上がり、25分ほど走ったところで西オーストラリア州に入る。
約11時間をかけて直線区間を走破した頃はすでに天空に南十字星がまたたいていた。あの惑星探査衛星「はやぶさ」が帰還したのもこのナラボー平原だったことを思い出した。
翌日の午後、「インディアンパシフィック」は終着の東パース駅に到着。
体格のいいオージーの列車らしく、万事大造りの車内で食っちゃ寝していただけなのに、大事業を成し遂げたような感動を覚えた。
【一度は乗りたいオーストラリア横断列車】
インディアンパシフィック
シドニー、パース間を週2往復運転
電話:0066−3361−2151(予約専用ダイヤル)
運行会社グレート・サザン・レイルのWebサイトはこちら
http://www.gsr-japan.com/new/trains/the_indian_pacific/index.html
文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。