山々を彩った紅葉も、見頃を終えると道に散り、今度は足元から街を彩ります。枯れ葉をさくさく踏み進むと、鮮やかな赤や黄色の葉が季節の移り変わりを教えてくれるようです。また、この季節は次第に日が短くなり、夕方になればすっかり真っ暗に……冬の訪れを感じさせてくれます。
古代から農業中心の生活をしてきた日本にとって、季節の変化はとても重要なものでした。そのため一年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気」で一年を区分していました。季節の変化を感じづらくなった今も、旧暦の二十四節気を軸にすることで、季節を愛でる機会を持つことができるのではないでしょうか。
さて今回は、旧暦の第20番目の節気「小雪」(しょうせつ)について、下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。
目次
小雪とは?
小雪の行事や過ごし方とは?
小雪に旬を迎える食べ物
小雪の季節の花とは
まとめ
小雪とは?
「小雪」とは、11月後半から12月前半にあたる二十四節気の一つです。「小雪」は「雪が降り始める季節」を指す言葉であり、この頃の、積もるか積もらないか程度の雪を「“小”さい“雪”」と表現しています。読み方は「こゆき」ではなく「しょうせつ」ですので注意しましょう。ちなみに「小雪(こゆき)」は気象予報の用語であり、こちらは数時間振り続けても、降水量が1mmに満たない雪のことを指しています。
二十四節気は毎年日付が異なりますが、小雪は例年11月22日〜12月6日になります。2022年の小雪は、11月22日(火)です。また期間としては、次の二十四節気の「大雪」を迎える、12月6日頃までが該当します。2022年は11月22日(火)〜12月6日(火)が小雪の期間です。
この季節には、冷たい風が吹き、雪がちらつく寒さの合間に、春のような陽気が訪れることも。このような日中の暖かな日は「小春日和」と呼ばれます。古くは、小雪にあたる旧暦の十月を「小春」と言っていたことが由来です。春を待ち遠しく思う気持ちが隠れた、風情ある日本語と言えます。なお、3月など実際の春に「小春日和」を使うのは誤用ですので、注意しましょう。
小雪の行事や過ごし方とは?
小雪に含まれる11月23日、現在の「勤労感謝の日」は、全国の神社において「新嘗祭(にいなめさい)」が行われます。新嘗祭とは、天皇陛下が神嘉殿(しんかでん)において新しく収穫した穀物を皇祖をはじめ神々に供え、神恩感謝をされた後、天皇陛下自らもお召し上がりになる祭典のことです。宮中恒例祭典の中でも、最も重要なものになります。
全国の神社はこれにならって御神前に新穀を献上し、収穫を感謝します。『古事記』にも記録されるほどその歴史は古く、古代から現在まで続く歴史ある行事です。
下鴨神社の「新嘗祭」では午前9時から本殿の御扉が開かれ、祭儀が行われます。こうして、先人から続く収穫への感謝の形を現在まで継承しているのです。御所が京都にあった頃の京都の人は、新嘗祭の日は一日中家で慎み、宮中での神事が終わるまで寝床に入らなかったと伝えられています。今を生きる私達も、普段何気なく食べている沢山の食べ物に感謝の気持ちをもって過ごしたいものです。
戦前は「新嘗祭」という祭日でしたが、1948年以降、11月23日は「勤労感謝の日」に制定され、国民の祝日となりました。現在は収穫への感謝に限らず、生産されるもの全般、働いている人々そのものに感謝する日となっています。こうした経緯で、国民が互いに感謝し合う「勤労感謝の日」は、冬の訪れを感じさせる小雪の季節にやってくるのです。
さらに、小雪は落ち葉の時期でもあります。秋に山々を彩った色とりどりの葉が散り、道路一杯に広がる光景は“黄色いじゅうたん”と表現されることも。散り落ちた黄や茶、赤の葉が彩る道を踏みしめながら散策すると、季節の移ろいを足元から楽しむことができるはずです。
小雪に旬を迎える食べ物
小雪の時期に旬を迎える京菓子、野菜・果物、魚(海の幸)をご紹介します。
京菓子
童謡『たきび』の歌詞のように、近所の人や友達と“焚き火”を囲んだという思い出をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんね。今では、田舎でしかその光景を見ることはできなくなりました。
しかし、童謡『たきび』に歌われている光景は、子供の頃の懐かしい思い出として脳裏に残っている方も多いことでしょう。小雪の時期に楽しめる生菓子の一つに『焚き火』があります。その名の通り、落ち葉を集め燃やす“焚き火”を模したものです。下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に、詳しいお話をお聞きしました。
「当店(茶寮宝泉)の『焚き火』は、色づき落ちた葉を箒(ほうき)で集め火をつけ燃やす、あの“焚き火”に見立てた生菓子です。
鎌倉時代後期の書物『貞享版沙石集』には『さて焼火(たきび)なんどして物語せしは』というように焚き火を楽しんでいる様子が書かれています。それから時は過ぎ、昭和の童謡『たきび』でも『かきねの かきねの まがりかど たきびだ たきびだ おちばたき』というように子供たちが焚き火を楽しむ様子が歌われています。今では、キャンプ場くらいでしか楽しめなくなった“焚き火”ですが、“焚き火”には、人の心を落ち着かせる魅力があることは変わらないのでしょうね。
『茶寮宝泉』の『焚き火』は、白餡と米粉などを合わせて、卵の黄身を混ぜて着色します。その生地でこし餡を包みます。その周りに、こし餡を粉々にして乾燥させた“さらし餡”をまぶします。
その後、蒸籠(せいろう)で蒸しあげると、表面にひび割れができます。お茶の葉をのせて、鉄板で天焼きして仕上げます。
こうした作り方をする生菓子を、黄身時雨(きみしぐれ)と言います。ふわっと口溶けのいい食感とお茶の葉のいい香りがします。是非とも味わってみていただきたい、この時期の生菓子ですね」と古田氏。
野菜・果物
小雪に旬を迎える野菜は、ほうれん草です。ビタミン、ミネラルを豊富に含む、代表的な緑黄色野菜であるほうれん草。通年市場に出回っていますが、本来の旬は11~1月の冬とされます。この時期は色も濃く、ビタミンCなど栄養分も増して甘味があるのが特徴です。茹でた後水にさらし過ぎると、せっかくの栄養分が流れ出てしまうため、調理の際には注意しましょう。
また、小雪の頃に美味しい果物は、蜜柑(みかん)です。冬はこたつに入りながら、みかんを食べてまったり……なんて光景が思い起こされます。一般的なみかんと言えば「温州みかん」です。主に関東より南の暖かい地方で栽培され、数多くの種類が存在します。価格も手頃で美味しく、手軽に食べられるのも人気の理由です。
魚(海の幸)
小雪の頃に旬を迎える魚(海の幸)は、ズワイガニです。カニは単に美味しいだけではなく、高タンパクで低脂肪、アミノ酸、ビタミン類、カルシウムなどが含まれています。ズワイガニの「ズワイ」とは、一説には細くまっすぐな枝を表す「楚(すわえ)」という言葉が由来とされます。カニの長い脚を木の枝に見立てつけられたとする説です。そんな脚が特徴的なズワイガニですが、甘い「カニ刺し」や香ばしい「焼きがに」、ダシの効いた「カニすき」など食べ方は様々です。日本の冬を象徴する海の幸の一つと言えるでしょう。
小雪の季節の花とは
小雪、つまり毎年11月22日〜12月6日頃は、雪が降り始め、冬へと向かい始める時期です。ここからは、そんな小雪の訪れを感じさせてくれる植物をいくつかご紹介しましょう。
小雪の季節に咲く花の代表といえば、寒椿です。もともと椿と山茶花が交配された混合種である寒椿は、八重咲の花をつけることが特徴です。花びらが一枚ずつ散る点は山茶花の特性を継いでいますが、花びらの枚数は寒椿の方が多く、非常に丈夫に咲きます。さらに、椿の花びらのようにしっかりとした支えがあるなど、両者の特徴を兼ね備えた季節の花なのです。
まとめ
積もるか積もらないかといったわずかな雪が降り始め、冬の訪れを感じさせる「小雪」。「雪」という字が、これからやってくる寒さを予感させます。ただ、日中は「小春日和」のような暖かい日差しも感じられることも。本格的な冬を目前にした小雪の時期に、厚手のコートや毛布など、冬支度を進めていきましょう。
監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com
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構成/トヨダリコ(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook