ふと木々を眺めると、紅葉が見頃を迎え、次第に落ち葉が舞い始める季節になりました。木枯らしが吹き、初雪の知らせが聞こえてくる晩秋から初冬への移り変わりは、ほんの少し、もの悲しい雰囲気も漂うものです。しかし、こうした自然の変化も、意識しなければつい見逃してしまいそうになります。

古来より日本人は一年を七十二の“候”に区分して、季節のうつろいを楽しんできました。季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、旧暦の二十四節気を軸にして季節を愛でる機会を持つことで、「季節感」の衰えを防げられるのではないでしょうか?

さて今回は、旧暦の第19番目の節気「立冬」(りっとう)について、下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。

目次
立冬とは?
立冬の行事や過ごし方とは?
立冬に旬を迎える食べ物
立冬の季節の花とは
まとめ

立冬とは?

「立冬」とは、11月前半から11月後半にあたる二十四節気の一つです。「冬が立つ」と書く「立冬」は、冬の始まりを示しています。「立」の字には“新しい季節になる”という意味があり、立春、立夏、立秋と並んで、季節の大きな節目です。立冬から2月初旬の立春の前日までが、暦のうえでの「冬」になります。

二十四節気は毎年日付が異なりますが、立冬は、例年11月8日〜11月21日になります。2022年の立冬は、11月7日(月)です。また期間としては、次の二十四節気の「小雪」を迎える、11月22日頃までが該当します。2022年は11月7日(月)〜11月21日(月)が立冬の期間です。

朝夕がぐっと冷え込み、日中の陽射しも弱まって来て、冬が近いことを感じさせる頃。冷たい空気が頬に当たると、秋が去っていく気配を感じます。木枯らしが吹き、木々の葉が落ちる中、はやいところでは初雪の知らせが届き始めることも。これからやってくる真冬に備えて、冬の準備を始める「こたつ開き」の時期でもあります。

しかし、同時に紅葉も見頃を迎える季節のため、秋らしさを感じるかもしれません。鮮やかに黄葉する銀杏、紅葉の美しさなどが観る人を楽しませてくれます。本格的な寒さになる前に、秋と冬の境目を楽しむことも立冬の醍醐味といえるのではないでしょうか。

立冬の行事や過ごし方とは?

立冬の期間である11月15日には、七五三が行われます。数えの年齢で、男の子は3歳と5歳、女の子は3歳と7歳の時に、神社に詣でる日本の習慣の一つです。この文化は子どもが無事に育ちにくかった江戸時代に始まり、我が子が無事に育ったことを神さまに感謝する意味合いがあります。着物や袴姿で千歳あめを手に持ってお参りをする子どもの姿は、古くから続く親の愛の現れともいえますね。

京都では12月中旬ごろまで、各神社にて「御火焚(おひたき)」(お火焚祭、お火焚き祭など)が執り行われます。元々は旧暦11月8日を中心に斎行されました。御火焚は、宮中の内侍所(ないしどころ)の御神楽(みかぐら)や、京都の民家の風習として行われていたものです。

しかし、火事を防ぐため、火を扱わなくなり、各家庭での御火焚は江戸時代末期には絶えたとのこと。古くは「おほたき」と呼ばれ(江戸時代に入ってから「おひたき」)、新穀や御神酒がお供えされ、御神前の浄火を松明などに移して、護摩木などに灯されます。そして、神楽などが奉納されます。祖霊の御霊を慰めるため、または農作物収穫の感謝のためと考えられています。

立冬の日、下鴨神社では、神様が冬服にお召し替えになられる更衣祭(ころもがえまつり・こういさい)が斎行されます。

立冬に旬を迎える食べ物

立冬の時期に旬を迎える京菓子、野菜・果物、魚(海の幸)をご紹介します。

京菓子

「秋日和」

秋の味覚というと何を思い浮かべられるでしょうか? 松茸、秋刀魚、秋鮭、さつまいも……など、数多く挙げられますが、中でも栗は幅広い調理法で楽しめる秋の味覚です。

栗飯、栗きんとん、栗羊羹、甘露煮、マロングラッセ、モンブラン……など、和洋問わず、用途が極めて広い栗。古来より村祭りや祝事、正月料理などと密接なつながりを持ってきました。

立冬の時期に楽しめる生菓子、「秋日和」にも栗が使用されます。下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に、詳しいお話をお聞きしました。

「当店(茶寮宝泉)では、立冬の時期になりますと『秋日和』を提供いたします。『秋日和』は、実りの時期を迎えた毬栗(いがぐり)が裂けて、栗が顔を覗かせた姿に見立てた生菓子です。こうした状態を『栗が笑(え)む』といいます。

『茶寮宝泉』の『秋日和』は、白餡を緑色に染めて、籐の通しでそぼろ状にします。細長い箸で餡玉にそのそぼろをつけて、上部に甘露煮にした丹波栗をのせます。この菓子は、栗が収穫されるこの時期にしか作れないものです。栗の美味しさを引き立てるために、餡はあっさりとした甘さに仕上げています。

秋の実りの豊潤な味わいをご堪能いただけたら幸いです」と古田氏。

社長の古田泰久氏。「茶寮宝泉」の店内にて。

野菜・果物

立冬に旬を迎える野菜は、ゴボウです。煮物などに加えてお節料理にも使われるゴボウですが、食用にするのは、世界でも日本と台湾だけといわれています。ゴボウは、食物繊維が豊富に含まれているため、血糖値やコレステロール値を低下させるのに効果的です。選ぶ際には、まっすぐでヒゲ根が少なく、ひびやしわがないものを選びましょう。

また、旬を迎える果物としては、洋梨が挙げられます。瑞々しくシャリシャリしている和梨に対して、洋梨はねっとりと甘く、香りも非常に芳醇です。洋梨は追熟が必要な果物なので、収穫されてから2週間から1か月後に食べ頃を迎えます。追熟は常温で行い、豊かな香りが立つ5日目が食べ頃の目安です。自分好みの熟し具合を探してみるのも、いいかもしれません。

魚(海の幸)

立冬の頃に旬を迎える魚(海の幸)は、牡蠣です。牡蠣は、アミノ酸や亜鉛に代表されるミネラルなどを豊富に含んでおり、貧血の改善に効果があります。その栄養価の高さが「海のミルク」と呼ばれるゆえんです。この季節には各地に牡蠣小屋が開店し、直火で焼いて食べる「牡蠣焼き」が見られます。

立冬の季節の花とは

立冬、つまり毎年11月8日〜11月21日頃は、日中の陽射しも弱まって来て、冬が近いことを感じさせる頃です。ここからは、そんな立冬の訪れを感じさせてくれる植物をいくつかご紹介しましょう。

立冬の時期に花を咲かせるのは、山茶花(さざんか)です。山茶花は照緑樹で、椿にそっくりですが、山茶花の葉の方がやや小さく、ギザギザしている場合が多いです。一番大きな違いは花の散り方です。椿が花ごと落ちるのに対して、山茶花は花びらがバラバラと一枚ずつ落ちます。開花時期である立冬ならその見分けがつきやすいでしょう。

また、立冬は水仙(すいせん)の花が咲き、よい香りを放つ頃。水仙はほのかな甘い香りを放つ草花として昔から親しまれ、天然香料として香水に使われています。「水仙」という名も、きれいな花の姿と芳香がまるで「仙人」のようだと捉えられたことが由来だそう。

しかし、毒を持っているという一面も。水仙は、葉がニラに似ていて、球根がタマネギと似ているとされています。これらと間違えて食べると、場合によっては死に至ることもあるため注意が必要です。

まとめ

「冬立つ」というその文字通り、冬の始まりを告げる「立冬」。ぽかぽかと陽気な日中でも風は冷たく、朝晩になると一段と寒さを増します。また、気温の低下から、風邪やインフルエンザが流行り出す時期でもあります。寒さ予防に加えて、体調管理も気をつけて過ごしましょう。

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/トヨダリコ(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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