萩の花

長かった夏の暑さも落ち着きを見せ始め、次第に秋の深まりを感じる季節となりました。ふとした時に日の短さを感じ、季節の移り変わりに気づくこともあるのではないでしょうか。

古代から農業中心の生活をしてきた日本にとって、季節の変化はとても重要なものでした。そのため一年を春夏秋冬の4つの季節に分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気」で一年を区分していました。季節の変化を感じづらくなった今も、旧暦の二十四節気を軸にすることで、季節を愛でる機会を持つことができるのではないでしょうか。

そこで今回は、旧暦の第16番目の節気「秋分」について紐解きます。

目次
秋分とは?
秋分の行事や過ごし方とは?
秋分の日と春分の日の違いとは?
秋分に旬を迎える食べ物
秋分の季節の花とは
まとめ

秋分とは?

「秋分(しゅうぶん)」とは、9月後半から10月前半にあたる二十四節気の一つです。「秋を分ける」と書くように、暦の上では秋を6つに分けたうちの中間、4番目の節気にあたります。「春分」と同様、太陽が真東から昇り真西に沈むため、昼の明るい時間と夜の暗い時間の長さがほぼ同じになる日です。この日を境に夜の時間の方が長くなり、次第に秋が深まっていきます。

二十四節気は毎年日付が異なりますが、秋分は例年9月23日〜10月7日になります。2022年の秋分は、9月23日(金)です。期間としては、次の二十四節気の「寒露」を迎える、10月7日頃までが該当します。2022年は9月23日(金)〜10月8日(土)が秋分の期間です。

また、秋分の日を中心とした一週間が秋のお彼岸です。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉が示すように、秋分の頃には日中の暑さも和らぎ始めます。空には秋雲が広がり、野には薄の穂が顔を出す……そんな本格的な秋が訪れる季節です。

秋分の行事や過ごし方とは?

「お彼岸(おひがん)」は春と秋にあり、春分の日と秋分の日を中日(ちゅうにち)とした前後3日間の一週間のことです。お彼岸には、先祖を供養するためにお墓参りをする習わしがあります。二十四節気「秋分」の初日は「秋分の日」という国民の祝日であり、この日の目的は「祖先を敬い、亡くなった人を偲ぶこと」です。

“お彼岸”は日本独特の風習で、その歴史は古く、平安時代から存在していたといわれています。お彼岸の名の由来は、仏教において「先祖のいる悟りの世界」を彼岸と呼んだことです。また「彼岸」に対して、今私たちが生きている世界は「此岸(しがん)」と呼ばれます。

昼と夜の長さがほぼ同じになる秋分の日は、彼岸と此岸の距離が最も近く、祖先との交流に相応しい日と考えられてきました。そのため現在も先祖を敬い、感謝を伝える日として、この日にお墓参りに行ったり仏壇に手を合わせたりするなど、先祖の供養をしています。

お墓参り

秋分の日と春分の日の違いとは?

秋分の日も春分の日も、太陽が真東から上がって真西に沈み、昼と夜の時間がほぼ同じになるという点は変わりません。その大きな違いは季節です。秋分の日は、これから昼が短くなる、秋から冬への始まりの日にあたります。対して春分の日は、これから昼が長くなる、春から夏の始まりの日です。

また、秋分の日の目的が「祖先をうやまい、亡くなった人々を偲ぶこと」であるのに対して、春分の日の目的は「自然をたたえ、生物をいつくしむこと」とされます。どちらも季節の変わり目ではありますが、春は五穀豊穣を祈り、秋は収穫に感謝するという違いがみられます。

秋分に旬を迎える食べ物

秋分の時期に旬を迎える野菜・果物、魚、京菓子をご紹介します。

京菓子

おはぎ

その昔、甘い菓子は高貴な人のみが口にできるものであったようです。その大きな理由としては、日本古来の甘味料(甘葛<あまずら>、水飴など)は、希少なもので一般庶民の手には届かないものだったからだと考えられます。

日本への砂糖の渡来は、奈良時代に鑑真(がんじん)が黒糖を持ってきたのが最初だといわれています。製糖法が伝わったのは、慶長年間(1596~1615)。やがて江戸中期になると、庶民の間でも甘味料を入手しやすくなりました。そうした時代背景から、徐々に庶民的な菓子が生まれ、広く親しまれるようになりました。その代表的な菓子が、牡丹餅(ぼたもち)です。天保(1830~1844)の頃になりますと、種類も増えて「三色牡丹餅」で人気を集める店もあったようです。

今では、春秋のお彼岸の頃になりますと、和菓子店の店頭には牡丹餅が並びます。いつの頃からか定かではありませんが、春は「牡丹餅」、秋は「御萩(おはぎ)」と呼ばれるようになりました。

そのいわれについて、下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏にお話をうかがいました。

「秋の彼岸のお供え物といえば『おはぎ』です。これは、春分の日にお供えされる『牡丹餅』と同じものになります。どうしたものか、同じ食べ物なのに季節によってその呼び名が異なります。それには、さまざまな説がございます。形や色を、牡丹や萩に見立てたという説や、春には牡丹が咲くことから『牡丹餅』と呼び、秋は萩が咲く季節ですの『御萩』と呼ぶという説があります。後者の方が昔の日本人の季節に対する細やかな感性がうかがえるようで、私は好きですね。

『茶寮宝泉』の『おはぎ』は、餅米と米を別々に水につけます。この時、塩を少々振るのがポイントです。それを蒸篭に入れ、蒸し上がったらほどほどに潰して、粒餡、こし餡、きな粉で包み仕上げます。

『茶寮宝泉』では『三色おはぎ』として持ち帰り限定で販売しております。一口大のサイズにしておりますので、それぞれの味や口当たりの違い、風味を余すことなく楽しんでいただきたいですね」と古田氏。

社長の古田泰久氏。「茶寮宝泉」の玄関前にて。

野菜・果物

秋分に旬を迎える野菜は松茸(まつたけ)です。香りや味わいが良く、高価であることから「茸の王様」のような存在感を放ちます。松茸ごはんにするときは、加熱しすぎると香りが飛んでしまうため、炊き上がる直前に入れるのが良いでしょう。他にも土瓶蒸しや焼き物など、旬の香りを楽しみながら食べられます。

また、旬を迎える果物としては、栗が挙げられます。甘さは控えめで栄養豊富な栗は、秋の味覚には欠かせない食べ物の一つです。栗はブナ科クリ属の落葉樹になる果実の総称で、縄文時代の遺跡から出土しているほど、歴史の古いことでも知られています。旬の栗を栗ご飯や甘露煮などで楽しみましょう。

秋分の頃に旬を迎える魚は、鯖(さば)です。秋から冬にかけての鯖は脂がのり、非常に美味しい時期になります。味わい方も、塩焼き、みそ煮、しめ鯖、刺身などバリエーションが豊富です。

ちなみに「鯖」の字の右側にあたる「靑」という漢字は、「青」の旧字体になります。そのため「さば」の漢字表記を「円」を使用する「靑」としても、「月」を使用する「青」のどちらを使用しても間違いではありません。ただ、厳密には旧字体の「靑」を使用した場合が、正しい漢字と言えます。

秋分の季節の花とは

秋分、つまり毎年9月23日〜10月7日頃は、段々と日が短くなり、秋へと向かい始める時期です。ここからは、そんな秋分の訪れを感じさせてくれる植物をいくつかご紹介しましょう。

秋分の季節に咲く花の代表といえば、赤く独特な雰囲気を纏う、「彼岸花」です。墓地や田んぼの周り、あぜ道でよく見られます。「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」とも呼ばれる鮮やかな赤色の花は、1週間ほど咲くと、やがて葉になり、冬・春を経て、枯れます。

彼岸花

また、秋分は金木犀(きんもくせい)が花をつける季節でもあります。花が日光に当たり金色に光ることから、その名がつきました。オレンジ色の小花をいっぱいにつけた姿、そして漂う甘い香りは秋の風物詩となっています。

まとめ

“秋”を“分”けると書いて「秋分」。この日を境に段々と日が短くなり、長かった夏の終わりと秋の深まりを感じさせてくれます。暑さが和らぎ、出かけやすい気候になるこの季節には、先祖への感謝を込めてお墓参りをしてみてはいかがでしょうか。

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/トヨダリコ(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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