日本の気候風土は、この国に特有の文化と慣習をもたらしました。そのことは、二十四節気に執り行われてきた様々な行事や慣わしを知ることで、より実感できるのではないでしょうか。
日本では、1872年に『改暦の詔書』が発せられるまで、千年以上に渡って「太陰太陽暦(以下:旧暦)」が使われてきました。旧暦では、一年を二十四の季節に区分し、更には、その季節区分を七十二もの気候変化で表していました。これは、かつて日本人が5日ごとに季節の変化を意識しながら、季節の移ろいを日々の生活に取り入れていたことを示しています。
それだけ、日本人がこの国の気候風土に感謝をし、愛していたことを物語っているのではないでしょうか? この記事を通して、改めて二十四節気を理解し、より深く日本文化の素晴らしさを感じていただきたいと存じます。
さて今回は、旧暦の第18番目の節気「霜降」(そうこう)について、下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。
目次
霜降とは?
霜降の行事や過ごし方とは?
霜降に旬を迎える食べ物
霜降の季節の花とは
まとめ
霜降とは?
「霜降」とは、10月後半から11月前半にあたる二十四節気の一つです。「霜降」という名称は、漢字の通り「霜(しも)が降りる頃」を意味しています。この時期に気温がぐっと下がることで、空気中の水分が凍って霜となるのです。白く輝く霜が早朝の草木や地面を美しく光らせます。ひとつ前の節気は「寒露(かんろ)」でしたから、「露」が「霜」に変わり、冬の訪れを予感させる節気です。
二十四節気は毎年日付が異なりますが、霜降は例年10月23日〜11月6日になります。2022年の霜降は、10月23日(日)です。また、期間としては、次の二十四節気の「立冬」を迎える、11月6日頃までが該当します。2022年は10月23日(日)〜11月6日(日)が霜降の期間です。暦の上では、秋の最後の節気となり、霜降が過ぎると冬がやってきます。
霜降には朝晩の冷え込みが厳しくなり、日が短くなったことを実感できます。見下ろした地面には白い霜、見上げた木々には色づいた葉が広がる……紅葉の季節です。一般的に紅葉は、朝の最低気温が8度前後を下回る日が続くと始まります。朝晩の冷え込みが増す霜降の時期が、紅葉の時期と重なるのはこのためです。
また、木の葉を巻き上げながら冷たい風が吹く様子も見られます。晩秋から初冬にかけて吹く北よりの強い風は「木枯らし」です。木枯らしは、冬の季節風の走りなので、吹く期間はそれほど長いものではありません。この季節を感じさせてくれる言葉といえるでしょう。
霜降の行事や過ごし方とは?
霜降の季節には、日本各地の鷲(おおとり)神社で「酉の市(とりのいち)」が催されます。これは、毎年11月の酉(とり)の日に行われる開運招福・商売繁盛を願う大きな縁日です。様々な大きさの熊手(くまで)が縁起物とされます。酉の日は12日ごとに巡ってくるため、11月に3度行われる年も。その場合1度目を「一の酉」、2度目を「二の酉」、3度目を「三の酉」と呼び、「一の酉」が霜降に含まれます。
このほかにも、「霜降」の時期には秋の季節を告げるお祭りが日本各地で斎行されます。京都においては、時代祭や鞍馬の火祭、石座(いわくら)の火祭などが執り行われます。
霜降に旬を迎える食べ物
霜降の時期に旬を迎える京菓子、野菜・果物、魚をご紹介します。
京菓子
霜降のある11月の異称というと今日では「霜月」が広く知られていますが、元々はこの月になると霜がしきりに降るから霜降月と呼ばれていたそうです。この他にも、「露ごもりの葉月」、「神楽月」、「雪待月」などという異名があります。
いずれも、忍び寄る冬を感じさせる呼称ばかりです。古人(いにしえびと)の、季節に対する豊かな感性が伝わってきます。
霜降の時期に楽しめる生菓子、「梢の月」も月の異名であるとのこと。下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久氏に、詳しいお話をお聞きしました。
「当店(茶寮宝泉)では、霜降の時期になりますと『梢の秋』を提供いたします。『梢の秋』とは、旧暦9月の異名のひとつです。天保暦以前の定義では、霜降を含む月を9月としていました。ですから、今の暦とは日にちにずれが生じているのですね。『梢の秋』は黄から紅色に染まる楓に見立てています。
『茶寮宝泉』の『梢の秋』は、小麦粉を混ぜて蒸した“こなし”という生地を色粉で染め、中に白餡を包んだものです。楓の木型に押し込み、造形しています。見た目の美しさだけでなく、口に入れた時に餡の上品な甘みが広がるよう仕上げます。
色とりどりに染まり、舞い散る紅葉を思い浮かべながら、生菓子とともに深まる秋を静かに感じる時間を持つのはいかがでしょうか」と古田氏。
野菜・果物
霜降に旬を迎える野菜は、さつまいもです。落ち葉焚きで作る、ほくほくの焼き芋は寒い季節には無性に食べたくなるのではないでしょうか。収穫は8月ごろから始まりますが、2~3か月貯蔵した方が、余分な水分を逃がし、甘みが増した物になるそうです。そのため、旬は10月~1月頃とされます。選ぶ際には、全体にふっくらと太く、ずっしりと重みがあるものがおすすめです。
また、旬を迎える果物としては、りんごが挙げられます。りんごはバラ科リンゴ属の樹木になる果実で、一般に流通しているものはほとんどセイヨウリンゴです。旬のりんごは、やはりそのまま食べるのが一番。皮や皮のすぐ内側に甘みが多いとされているため、綺麗に洗って皮つきのまま食べるのが良いでしょう。
魚
霜降の頃に旬を迎える魚は、秋鮭です。「秋鮭」とは、主に北海道から東北地方で獲れる「白鮭」の中でも、産卵の時期である秋にだけ故郷の川に戻ってくる鮭のことを指します。地域によっては「鮭は秋の味覚」という意味で「秋鮭」のことを「秋味」と呼ぶそうです。
産卵のために戻ってくる秋鮭は、栄養や体脂肪が卵に使われているため脂乗りは控えめ。その分さっぱりとした味わいとなり、身の色は薄く淡いオレンジ色をしています。
霜降の季節の花とは
霜降、つまり毎年10月23日〜11月6日頃は、気温がぐっと下がり、霜が降りる季節です。ここからは、そんな霜降の訪れを感じさせてくれる植物をいくつかご紹介しましょう。
霜降の時期に花を咲かせるのは、シクラメンです。ハート形の葉がたくさん茂っている真ん中から細い茎が伸び、赤やピンクの反り返ったような花をつけます。シクラメンは雨季に花を咲かせ、乾季に休眠するという性質を持っているのが特徴的です。そのため、日本では秋から春にかけて花を咲かせ、夏に休眠させて育てます。
また、紫の実を成らせるムラサキシキブも、霜降の季節の花です。ムラサキシキブは一般的に花ではなく、秋に成る紫色の実が観賞されます。直径3~4cmほどの大きさの光沢がある実が、葉っぱの付け根あたりにまとまってつくのが特徴です。「ムラサキシキブ」という名前は、その美しい様子から源氏物語の作者である“紫式部”に由来しているとされます。
まとめ
草木や地面に霜が輝き、足元が冷える「霜降」の季節。こたつやストーブといった暖房器具が登場する時期かもしれません。少し厚手の靴下や冬物のコートも準備して、早いうちから冬支度を済ませてみてはいかがでしょうか。
監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com
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構成/トヨダリコ(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook