創立150年を迎える東京国立博物館は、日本で最も長い歴史を誇る博物館。数多くの美術品を収蔵する東京国立博物館の中でも、質量ともに最も充実しているのが絵画。そこで、「未来の国宝」候補といえそうな作品をご紹介します。
菱川師宣『見返り美人図』
切手としても有名な一作は、浮世絵というジャンルを確立した名画
誰かに呼び止められたのか、或いは何かに目を奪われたのか……。流行りの着物に身を包んだひとりの女性の一瞬の所作を見事に活写した一作。1948年に切手に採用され、その後の切手ブームで最も人気の高い切手の1枚になったことで、日本美術に興味がない人でも必ず目にしたであろう構図。ある意味で、一般に最も知られた日本美術の絵画が本作であるといっても過言ではないだろう。
描いた菱川師宣(ひしかわもろのぶ)は17世紀前半、安房国保田(あわのくにほた)(現・千葉県鋸南(きよなん)町)で染織品に刺繍や装飾を施す縫箔師(ぬいはくし)の家に生まれる。染織の下絵を描くことで絵に親しみ、やがて当時は開府からまだ間もない新興都市ながらも、活況に満ち溢れていた江戸に出ることになる。
町人の風俗を描き出す
独自の町人文化が芽生え始めていた都市で彼の心を強く惹きつけたのは、自由で開放的な泰平の世の中で現世を享受する町衆たちの姿だった。元来、絵を描くことを得意としていた師宣は大衆向けの版本(はんぽん)の挿絵を手がけるとともに、正統的な「やまと絵」の筆法をはじめ、おそらくは中国絵画に至るまで、あらゆる絵画様式を研究し、独自のスタイルを築いたとされる。
そうした伝統の絵画様式を当世風にアレンジした師宣の絵画は、当時の時代感覚を体現する言葉だった「浮世」になぞらえ、「浮世絵」と呼ばれるようになる。
滑らかな線で生き生きと描かれた師宣の美人像は、当時の人々の心も強く捉え、〈師宣の描く美女こそ江戸女〉と俳句に詠まれるほどの人気を博し、これが浮世絵の始まりともなったのだ。
「サライ美術館」×「東京国立博物館」限定通信販売
東京国立博物館創立150周年限定の高精細複製画を「サライ美術館」読者のためだけに受注製作します。
東京国立博物館監修の「公式複製画」をあなたの元へお届けします。
製作を担当するのは、明治9年(1876)の創業時から印刷業界を牽引する「大日本印刷」(DNP)。同社が長年にわたり培ってきた印刷技術を活用して開発したDNP「高精彩出力技術 プリモアート」を用いて再現します。
その製造工程は以下の通り。まず原画の複写データは、東京国立博物館から提供された公式画像データを使用。そのデータを、長年印刷現場で色調調整を手がけてきた技術者が、DNPが独自に開発した複製画専門のカラーテーブルを使って、コンピュータ上で色を補正。原画の微妙な色調を忠実に再現した上で、印刷へと進みます。
通常、印刷は4色のインキで行なわれているが、「プリモアート」では10種類のインキを用いて印刷が行なわれます。そのため、一般の印刷物に比べて格段に細やかな彩度や色の濃淡などを原画に忠実に再現することができます。
今回はさらに、そうして再現された複製画と額を東博の監修を受けた上で、館長・藤原誠さんの署名入り「東京国立博物館認定書」を付けてお届けします。東博150年の歴史の中で、こうした認定書を発行するのは、今回が初の試みとのこと。ぜひこの機会をお見逃しなく。