ライターI(以下I):第28話では冒頭から権力者の突然の死による代替わりには混乱がつきもの、ということが描かれました。
編集者A(以下A):所領をめぐる大谷太郎と次郎の争いごとが評議されましたが、北条時政(演・坂東彌十郎)と比企能員(演・佐藤二郎)が、実情を知らぬまま、それぞれの知己に肩入れして揉めるという展開でした。
I:梶原景時(演・中村獅童)が〈方々、誼(よしみ)を重んじ、便宜を図るのは、政の妨げになるので、以後やめていただきたい〉と断じます。これはこれで正論なのですが、坂東武士的には煙たくってしょうがないのでしょう。
A:しかも梶原景時は、新たな鎌倉殿となっても、引き続き「筆頭側用人」のような立ち居振る舞いですしね。代替わりの際の人事ってやっぱり難しいですよね。
I:さて、頼朝(演・大泉洋)と政子(演・小池栄子)の次女三幡(演・太田結乃)が亡くなりました。長女の大姫(演・南沙良)に続いて入内を画策したものの、大姫同様、若くして亡くなりました。長女大姫、夫頼朝、そして三幡。政子にとって身内の不幸が続きます。
A:尼将軍として後世に名を遺した政子ですが、家庭人としては「悲劇の人」だったような気がします。当時のことゆえ、政子の心情を書き留めた史料は皆無で、そこは想像するしかないのですが……。
I:当事者の日記、手記が大事なんだなあと実感させられます。劇中の時代は貴族や僧侶の日記などが貴重な史料になるんですよね。政子たちの父の時政は子供たちに古典などを読ませて勉強させていたようなので、政子もかなりの教養があったと思うのですが、さすがに日記は残さなかった。
A:鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』も編纂者の思惑で捻じ曲げられている個所が多いという指摘もあります。それは、研究者の方々が九条兼実(演・田中直樹)の日記『玉葉(ぎょくよう)』や藤原定家の日記『明月記』、兼実の弟慈円の『愚管抄』、さらには『猪熊関白記』などの史料の記載と丁寧に比較、検証することで導かれたものです。
I:そういう意味では、情報が洪水のようにあふれている現代で、後世の比較、検証を可能にする当事者の「生の声」がしっかり記録されているかどうか気になりますね。同じ事象を取材しても「朝日」「読売」「毎日」「産経」で論調が真逆のこともありますし、後世のために当事者がしっかり記録を残してほしいです。あ、すみません。脱線しちゃいましたね(笑)。
「このバカ息子めっ!」という仰天エピソード
I:頼家(演・金子大地)がこともあろうに頼朝の側近として長年仕えて来た安達盛長(演・野添義弘)の嫡男景盛(演・新名基浩)の妻ゆう(演・大部恵理子)に懸想して略奪しようとします。頼朝の骨壺を運ぶ役に任ぜられるほど信頼厚かった安達家嫡男の妻を寝取るとは言語道断です。私は怒りしか感じません。ほんとうに「このバカ息子っ!」ってエピソードですよね。
A:このエピソードは、『吾妻鏡』にも書かれているのですが、いくらなんでも鎌倉殿がそんなことするか? という思いを捨てきれないんですよね。「頼家暗愚史観」があるとすれば、このエピソードはその典型例。頼家は暗愚だったと強調したい人たちがいたのでしょう。
I:(やや冷静になって)確かにそうなのですが、それにしてもひどいエピソードです。『記紀』の時代から、暗愚誘導、残酷誘導のエピソードはありますが、頼家のエピソードは実際にあったような気がします。
A:まあ、ストーリーとしては、めちゃくちゃ面白いですよね。頼家からすれば、「父上だって同じようなことをしていたのでは?」 という思いだったかもしれませんし。そして、さらに面白いのは、本作ではこのエピソードの処理を巡って、頼家と景時の間に亀裂が生じたことです。
I:景時失脚は、頼家にとってもダメージだったりするわけですから、「頼家、それじゃあオウンゴールだよ……」って感じで悲しくなっちゃいました。
A:筋立てとしては、ほんとうに絶妙な感じになりました。それだけに、「頼家の女性好きを狙って、すべて仕組まれた事件なのかも」と一瞬思ってしまいましたね。
I:あ、それはあるかもしれないですね。
【坂東武士のサラブレッドと梶原景時。梶原一族はどうなるのか? 次ページに続きます】