ライターI(以下I):前週の第25回では、作者の三谷幸喜さん曰く〈厳かに頼朝を看取る回〉=相模川の架橋落成の日に落馬した源頼朝(演・大泉洋)の一日が描かれました。
編集者A(以下A):頼朝落馬は建久9年の12月27日で亡くなったのは年が明けた建久10年1月13日。落馬から亡くなるまで半月ほど昏睡していたことになります。今週は、頼朝の周囲の人々がそれぞれの思いを抱きながら、半月ほどの日々をどのように過ごし、どのように頼朝を見送ったのかが描かれました。前週は〈人間頼朝〉が丁寧に描かれましたが、今週もまた権力者の死に対峙した人々の〈人間らしい〉部分が丹念に描かれました。
I:焦点は、二代目の鎌倉殿を誰にするのか? という点でした。
A:私たちは「頼朝の後継者は嫡男の頼家(演・金子大地)」という歴史を知っていますから、継承もすんなりいったのでは? と思いがちですが、『鎌倉殿の13人』では、その固定概念を崩してくれました。全成(演・新納慎也)が鎌倉殿候補というのも、それが実際にあったかどうかはともかく面白い視点でした。後年、室町幕府では、僧籍に入っていた義円が籤引きによって第六代将軍足利義教になっていますからおかしくはないわけです。
I:私は、髪を伸ばし始めたという全成が「チクチクする」と言っていた場面が気になりました。「この時代の僧はどのくらいの頻度で剃っていたのだろう」って?
A:え? そこですか?
御台所をめぐる政子と実衣の攻防
I:さて、昏睡状態の頼朝をめぐる人々の動きですが、奇跡を待つ北条一門。景時(演・中村獅童)や重忠(演・中川大志)に頼朝の病状を説明する義時(演・小栗旬)など丁寧に描写されました。義時は比企能員(演・佐藤二郎)にも説明に赴きました。悲報を聞いた能員は〈いよいよ若君の世じゃ〉と「比企の世」がくることに喜びすら感じている印象でした。一方で時政(演・坂東彌十郎)も三浦義澄(演・佐藤B作)に頼朝の容態について相談し、水垢離(みずごり)をするなど、頼朝周囲の人々の動きも慌ただしかったです。全成と実衣(演・宮澤エマ)がすっかりその気になっていたのも印象的でした。
A:「落馬」の受け止め方もさまざま。誰かに討たれたのではないかと疑う比企能員、武家の棟梁が落馬とは情けないと憤る和田義盛(演・横田栄司)。現代的にいうときちんと広報しないと、噂が一人歩きしてかえって情報が錯綜してしまうということを表現していた感もあります。その流れの中で義時が三浦義村(演・山本耕史)に対して、〈この先、若君とつつじ殿の間に男子が生まれたとする。源氏の後継だ〉という重要な台詞を発しました。
I:確かに深い台詞ですね。頼家にはすでにせつ(演・山谷花純)が生んだ一幡がいます。頼家の正室は誰なのかというのは議論が割れているのですが、劇中では頼朝の判断でつつじ(演・北香那)ということになっています。つまり現状正室であるつつじの生んだ男子が後継者になるという認識を示したということになります。
A:第21話で、りく(演・宮沢りえ)と時政との間に生まれた男子がいました。『史伝 北条義時』などでも記述されている通り、北条家の嫡男はその男子(後の政範)だったといわれていて、義時は別家扱い。
I:つまり、義時自身、この段階では、北条家の後継は自分ではなく、りく(演・宮沢りえ)の生んだ男子であることを首肯しているということですね。
A:史実では北条家内部でも家督をめぐる葛藤があったんだと思います。劇中で今後どう描かれるのか、わくわくしますね。
【北条と比企の対立が顕著になる中で。次ページに続きます】