御籤で決戦の日取りを決める頼朝(演・大泉洋)。

ライターI(以下I):前週に髑髏に背中を押されて打倒平家の挙兵を決意した頼朝(演・大泉洋)ですが、今週第4話では、北条や三浦らの面々が集って御籤(みくじ)を引くシーンがありました。〈挙兵は17日!〉。いよいよわが国最初の武家政権樹立に向けた歴史が動き出します。

編集者A(以下A):北条時政(演・坂東彌十郎)、宗時(演・片岡愛之助)、義時(演・小栗旬)の北条一族。三浦義澄(演・佐藤B作)、義村(演・山本耕史)、和田義盛(演・横田栄司)の三浦一族に、頼朝側近の安達盛長(演・野添義弘)ですか。錚々たる面々です。

I:時政夫人のりく(演・宮沢りえ)の機転なのか御籤とはそもそもそういうものなのか、すべて17日と書かれた籤だったという設定でした。〈日によっては取りやめると言いかねない〉という頼朝の性格を踏まえたと聞けば、妙に納得できます。

A:鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』にも〈ト筮有り〉と挙兵日を占ったことが記されています。画面には映っていませんでしたが、彼らの周囲には、神事をもって頼朝に仕えていた住吉昌長などがいて、彼らが御籤を仕切ったわけです。

I:挙兵は決まりましたが、兵が思ったより集まらない現実が露呈します。

A:〈北条から9人、仁田が4人、加藤5人、あわせて18人〉などと言っていましたね。「挙兵」というと大仰ですが、規模でいうと47人で吉良邸に討ち入った忠臣蔵みたいな感じだったのでしょう。大河ドラマ関連本で注目されている鎌倉歴史文化交流館の学芸員・山本みなみさん著書『史伝 北条義時』には、わかりやすい地図が掲示されていますが、旧韮山町内の狭域での争いです。

I:わが国最初の武家政権も最初は「町内の争い」の規模感でスタートしたんですね。

「誠心誠意嘘をつく」とは?

演技も実力のうち。「頼りじゃ!」と実平を抱きしめる頼朝。

A:さて、土肥実平(演・阿南健治)が〈土地はどうなるのじゃ〉と心配していましたが、土地こそ坂東武士の最大の関心事。

I:そうした不安を抱える坂東武士に対して、頼朝は渋々ながらも懐柔策をとります。実平の手を取った頼朝は〈次郎よう来てくれた、よう来てくれた〉と。対する実平は〈もったいのうございます〉と恐縮します。頼朝は続けて〈これからいうこと誰にも洩らすな。よいか今まで黙っていたがわしが一番頼りにしているのは実はお前なのだ〉と。頼朝のような源氏の棟梁に言われたら、感激しないわけがないっていう場面でした。

A:『吾妻鏡』によれば、頼朝に呼ばれたのは土肥実平、岡崎義実のほかに、 宇佐美助茂、 天野遠景、 佐々木盛綱の面々。〈偏に汝を恃むに依て〉と一人ひとりに言葉をかけたことが記されています。その一方で奮起を促すための〈御計り也〉と「作戦」だったことも正直に暴露しています。

I:劇中でも頼朝は〈嘘も誠心誠意つけば誠になるのだ〉と満足げでした。

A:「誠心誠意嘘をつく」というのは1955年の保守合同前後に活躍した自民党の大物政治家三木武吉の名言と伝えられています。そういう人は同時に「息を吐くように嘘をつき」ますから、部下からすれば厄介ですよね。実はこの場面、1979年の『草燃える』でも印象的に描かれ、当時小学生だった私の記憶に長く残るシーンになりました。

I:ほう。

A:後年、『吾妻鏡』にも記されているエピソードだと知りましたが、社会人になって似たような場面に遭遇しました。いわれた瞬間に「頼朝かよ!」と鼻白んだ記憶があります。そのため「もったいのうございます」とか「一生ついていきます」などいわずに済みましたし、その判断は正解でした。

I:でも「正解」だとわかるのは数年後で、もしかしたら「一生ついていきます」と言ってた方が正解だった可能性もあるわけですよね(笑)。

A:そう。そこが人生の面白いところです。ですから、中世に限らず、人は占いに頼り、気にします。そして自らの指針を歴史の故事に倣おうとするのです。『吾妻鏡』をベースに構築される『鎌倉殿の13人』の時代は、そうした「学び」の宝庫。〈人は甘言を以って人を篭絡しようとする〉――。小中学生の視聴者の皆さんはこの場面を記憶に刻んでほしいと思います。いつかきっと、あなたのもとに「頼朝のような人間」が近づいてくるかもしれません。

I:徳川家康の愛読書のひとつが『吾妻鏡』といわれています。家康が義時らの時代の何に興味を持ったのか推測しながら見るのも楽しいかもしれないですね。

思い出される『草燃える』の松坂慶子さんのシーン

I:安達盛長が山内首藤経俊(演・山口馬木也)のもとを訪ねて、挙兵への協力を要請しました。経俊は第1話で頼朝が起つのを待っているかのような言葉を発していた人物です。頼朝の乳母の子ですから、当時としては身内以上に固い絆で結ばれた関係です。当然頼朝も期待していたと思いますが、〈頼朝は流人ではないか。本気で勝てると思っているのか〉ととんでもない言葉を発していました。

A:〈富士山に犬の糞が喧嘩を売っているようなもんだ〉とまで言っていましたね。〈わしは糞にたかる蠅にはならぬ〉と。その時の経俊の態度を、絶妙かつ印象的に描く最高の台詞ですよね。他言はしないといいながら、〈平家への忠誠を貫き断りました〉と大庭景親(演・國村隼)に注進しました。頼朝の乳母子なんですけどね。

I:さて、八重(演・新垣結衣)がひょんなことから夫の江間次郎(演・芹澤興人)から頼朝の挙兵予定日の17日に山木兼隆(演・木原勝利)が屋敷にいるという情報を掴みました。ターゲットの所在確認が重要なのは本当に忠臣蔵のよう(笑)。父の祐親に頼朝挙兵の情報を漏らしていた八重ですが、山木兼隆の情報を頼朝に伝えようとします。複雑な恋心を感じます。

A:梅の枝に巻いた布が白ければ「今夜会いたい」の合図とは、なかなかに粋な合図。まさか、八重がこのようなことをするとは、誰も思いもしなかったでしょう。この場面、1979年の『草燃える』を見ていたファンの中には「!」ときた人もいたかと思います。『草燃える』では、義時(演・松平健)の想い人で大庭景親の娘茜(あかね)が、義時との逢瀬の際に伊東祐親(演・久米明)側が兵を動かす日の情報を教えてしまうという展開でした。茜役は松坂慶子さんでした。

I:松坂慶子さんに新垣結衣さん! さて、八重さんは今後どういうふうになっていくのでしょうか。

A:伊豆の国市には八重さんゆかりの史跡もあります。伝承と劇中の描写がどう違うのか。これは実際に現地に訪れて体感してほしいです。なんだか、今後あっと驚く展開になるかもしれないと勝手に想像しています。

大鎧の美術にも注目!

I:さて、北条時政役の坂東彌十郎さんの演技が話題になっています。今週の大鎧を着用するシーンも笑わせていただきました(笑)。

A:頼朝の舅らしく、というりくの言はもっともです。みすぼらしくてはだめですよね。

I:りくは、時政のことを「家人」ではなく、「頼朝の父君」という意識であることが露呈しました。りくの後押しで時政が別人のように変身するのか、しないのか。なんか楽しみですね。

A:そして、この時代の大鎧はドラマの中でも見どころのひとつ。例によって美術のスタッフの方々の「お仕事」にも注目しましょう。

大鎧を着てご満悦の時政(演・坂東彌十郎)。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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