腰や脚に痛みがあると、なるべく安静にと考えるかもしれませんが、実はそれは逆効果。
無理のない範囲で運動量を維持増進させることが回復への道です。
そのためにもっとも手軽で簡単なのが歩くこと。そのポイントを解説します。
安静にするほど治りにくくなる
腰や脚につらい痛みがあると、どうしても動かず安静にしたくなりますし、病院でそのように指導されることもあるでしょう。
しかし実はそれは逆効果で、安静にすればするほど痛みが悪化したり治りにくくなってしまったりするのです。
腰痛診療ガイドライン2019 では、慢性腰痛に対して運動療法が強く推奨されています。(推奨度1、エビデンスの強さB)
また厚生労働省による『新たな視点に立った 腰痛対策』(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/hojokin/dl/26_14020301-01_02.pdf)では、【(有酸素)運動習慣の効用】として、内因オピオイドの分泌増加や下行性痛覚抑制系の賦活、全身的かつ軽微な慢性炎症の抑制、などがとりあげられています。
簡単に言えば、運動療法やウォーキングなどの有酸素運動を習慣的に行うことなどで、痛みを軽減することができる、ということなのです。
2か月のウォーキングで坐骨神経痛が改善したケース
Tさん(40代、男性)は、ある朝起きた時に右脚に強い痛みを感じました。
病院に行くと『椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛』という診断……。鎮痛剤を処方され、薬を飲んで様子を見ることになりました。
しばらくは歩くのもつらいほどの激痛が続きました。3~4か月で少しずつ痛みは治まってきましたが、なかなかよくなりません。
歩く時やずっと座っているとお尻の奥やふくらはぎが痛みます。
なかなか治らないこの痛みを何とかしたいと、筆者の腰痛トレーニング研究所(https://www.re-studio.jp/index.html)を訪ねてこられました。
お身体を拝見すると、腰から足を中心に全身の筋肉がカッチコチにこり固まっています。
お仕事内容や生活習慣をうかがうと、デスクワークでほぼ1日座りっぱなし、運動はほとんどしないとのこと。
また趣味と副業を兼ねて、帰宅してからも1日2~3時間はPCに向かうことが多く、さらに土日のお休みも長時間PC作業をすることが多いとのことでした。
これほど極端な座りっぱなし=運動不足では、全身カッチコチに固まるのも無理はありません。
私は、『ヘルニアはあると思いますが、痛みはこのこり固まった筋肉が原因です。施術で筋肉をほぐしながら、少しずつ運動することで筋肉を柔らかくしていくのが痛みを治すのに有効です。』と説明し、ご自身でもできるストレッチやインナーマッスルトレーニングなどを指導しました。
さらにTさんは、指導されたエクササイズの他に、自発的にウォーキングを始めることにしました。
目標はなんと1日1万歩!
会社の帰りには最寄り駅ではなく、少し遠くの駅まで歩き、自宅の最寄り駅からも家まで歩いたそうです。また土日も1時間以上のウォーキングを行いました。
筆者はそのことを全く知らなかったのですが、ウォーキング開始から1か月程度の時点では、まだ症状に大きな変化はありませんでした。
しかし2か月後くらいには歩いた時や座りっぱなしの時の痛みがかなり減り、日常での痛みはほとんどなくなったとの報告をうかがいました。
そこではじめてウォーキングをしていたことを知ったのです。
身体を触らせていただくと、あれほどカッチコチに固まっていた腰やお尻、脚の筋肉がとても柔らかくなっています。
2か月間1日1万歩のウォーキングをしたことで、身体が大きく変化したのです!
運動の効果が出るには時間がかかる
筋力トレーニングなどもそうですが、一般的に運動の効果があらわれてくるには2~3か月の時間が必要です。
運動で身体に負荷をかけると、筋肉や心肺機能などがそれに応じて生理的な変化をおこします。
代謝によって細胞レベルで変化がすすんでいくわけですが、その変化(強化)には2~3か月程度が必要なのです。
今回のTさんのケースは、2か月間ウォーキングを続けたことで順調に変化(強化)がおこり、症状の軽減につながったと考えられます。
せっかく運動をはじめても1~2か月程度でやめてしまうと、変化しはじめた細胞は元に戻ってしまいます。
すぐに変化や効果を感じなくても、根気よく運動を続けることで必ず効果が出てきますから、少なくとも2~3か月は頑張ってみましょう。
効果的な歩き方
腰痛や坐骨神経痛を改善するためにウォーキングをおこなう場合、歩き方や身体の使い方を意識すると、より運動効果が高まります。
筆者が指導している歩き方をご紹介します。
自宅で出来る!腰痛トレーニングDVD(https://www.re-studio.jp/dvd.html)より
ポイント1:立った状態で軽く下腹を引っ込めるように締め、恥骨を引き上げるようにする
ポイント2:足の親指に5割、残りの4本指に5割くらいのイメージで、やや足先に体重をかける
かかとに体重をかけすぎず、足の指で軽く踏ん張るようにします。
このようにお腹に力を入れ、足の指に重心をかけるようにして歩きだします。
ポイント3:やや大股で後ろ脚の指で地面を蹴るように使う
やや大股というのは、いつも歩くときの歩幅より3~5cm程度大股で歩くようなイメージです。
前足の、とくに踵を普段より2~3cmほど踏み出すように意識すると、自然と後ろ足は大きくけり出すことになり、足の指が使われます。
そうすると後ろ足の裏が見えるような歩き方になります。
ポイント4:自分のみぞおちあたりから脚が伸びているイメージで歩く
みぞおち、つまりお腹から脚を動かすようにイメージすると、体幹の腹筋群や背筋群、殿筋などよりたくさんの筋肉が使われるため、運動効果が高まります。
どれくらい歩いたら良いか?
Tさんは1日1万歩のウォーキングをおこないましたが、「いきなり1万歩はとても歩けない」という方も多いと思います。
まずは自分が1日平均どれくらい歩いているかをチェックしてみましょう。最近ではスマートフォンのアプリなどでも歩数がわかります。
そしてその平均歩数から、プラス1000歩を目標に歩数を増やしてみるといいでしょう。
1000歩というのは、時間にするとおおよそ10分くらいです。
それを1~2週間程度続けてみて、大丈夫そうであればまた1000歩(10分)歩く時間を増やしていく。
それを繰り返して1日8000~1万歩程度を目標にしてみましょう。
普段ほとんど歩いていない方は、まず1000歩からはじめてみてください。
歩くと痛みがある場合(間欠性跛行など)
ウォーキングをしたいのはやまやまだけれども、そもそも歩くと痛みやしびれが出たり、時々休まないと歩けなくなる『間欠性跛行(かんけつせいはこう)』などの症状をお持ちの方もいらっしゃると思います。
多少の痛みやしびれがあっても、歩くとかえって調子が良くなったり、歩いても症状がさほど悪化しないようであれば、ウォーキングに取り組んでみてください。
歩くことでとても痛くなる、痛みが悪化する、間欠性跛行がおこる、という方は、まずはある程度歩くことができるように、他のエクササイズをしたり治療をする必要があります。
以下の記事が参考になるかもしれませんので、良ければご覧ください。
腰痛に効くツボはココ! 中殿筋をテニスボールでゆるめて腰痛改善【川口陽海の腰痛改善教室 第87回】(https://serai.jp/health/1069105)
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ヘルニア・脊柱菅狭窄症|テニスボールで脚の痛みやしびれを改善する方法【川口陽海の腰痛改善教室 第78回】(https://serai.jp/health/1050575)
拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。
文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html