ネクストジェネレーションの金剛(左/演・坂口健太郎)と万寿(演・金子大地)。

ライターI(以下I):今週描かれた「曽我兄弟」の敵討ち(仇討)ですが、赤穂藩の義士による赤穂事件の顛末が世に広まるまでは、仇討ちといえば「曽我兄弟」というくらい有名な事件だったんですよね。

編集者A(以下A):富士の巻狩りが挙行されたのは建久4年(1193)5月。劇中では触れられていませんが、実はその前から、那須野(現在の栃木県)や信濃(現在の長野県)などで同程度の巻狩りが行なわれていました。2022年も中止になってしまいましたが、栃木県那須塩原市では「巻狩り鍋」や「巻狩り太鼓」などを擁した「巻狩りまつり」を行なっています。再開したら訪れたいですね。

I:この巻狩りは、征夷大将軍に任ぜられた翌年に、鎌倉殿頼朝(演・大泉洋)の権威、威厳を誇示すると同時に鎌倉殿の後継者万寿(演・金子大地)をお披露目するために行なわれたんですよね。今でいう軍事パレードのようなものといったらいいのでしょうか。

A:そもそもが鎌倉殿の権威、威厳を誇示するのが目的ですから、この場で騒動や事件、ましてや謀反が起こるなどもってのほか、ということを大前提に振り返りたいと思います。

I:さて、曽我兄弟の仇討でいえば、明治・大正の歴史学者三浦周行博士のころから「北条時政黒幕説」というのが根強く語られてきました。兄弟の烏帽子親でもありますし、比企家を重用する頼朝に対し、思うところもあったでしょうし。

A:もちろん異論もあって、岡崎義実(演・たかお鷹)ら御家人たちにたまった不満が噴出したという説もあります。今回の脚本はそうしたさまざまな説を巧みに融合してできあがった感がします。前週も説明した通り、伊東祐親(演・浅野和之)の所領横領に端を発した「復讐の連鎖」を軸にして物語は展開されました。

I:その第一幕が、「万寿、鹿を仕留める(鹿騒動)」の段。この巻狩りの回に、万寿=金子大地、金剛=坂口健太郎というフレッシュな俳優陣が初めて登場しました。「小栗義時」「山本義村」の次の世代が早くも登場です。

A:確実に時が刻まれていることを実感します。「世代交代」はこんな感じで粛々と進んで行くんですね。

I:万寿が鹿を仕留めたことに対して、政子(演・小池栄子)が「将軍の子なんだから、そのくらい当たり前」とクールだったというのは『吾妻鏡』にも記されていることですね。本作では、「万寿の鹿」騒動を喜劇調に描いていました。

A:後継者に花を持たせるという手法は、わりと今でも行なわれているのではないでしょうか。「御曹司に恥をかかせる」わけにはいかないと、必ず成功が見込めるプロジェクトを選び、周囲も優秀な人材で固める。そうした「あるある」を今回の「万寿の鹿」騒動がよく伝えてくれていると関心しました。「そんな仕込みがあるわけないじゃないか」と考える人もいるかもしれませんが、鹿を仕留めた万寿を祝した「矢口祝い(矢口餅の儀式)」のシーンが挿入されたことで「仕込み説」にたちまちリアリティを感じるという絶妙な演出でした。

I:劇中でも「武家の男子が初めて獲物を捕まえた時に三色の餅を奉納するという儀式」と紹介されていました。この「矢口祝い」も『吾妻鏡』に詳しく描かれていますね。

A:巻狩りに「万寿のお披露目」という目的も含まれていたわけですから、「矢口祝い」もセレモニーにあらかじめ仕込まれたプログラムだったんでしょう。あれだけのお餅を慌てて仕込むわけにはいかないです。

I:とすれば、万寿はどんな手段を使っても絶対獲物を仕留めなければならなかったというわけですね。喜劇調にしたのではなく、この時代自体が「喜劇」だったように感じてしまいますね。

A:ちなみにこの矢口餅。鳩サブレで有名な鎌倉の豊島屋さんですでに販売されています(笑)。私もいただきましたが、「プチ万寿の気分」を味わえました。

I:『鎌倉殿の13人』にあわせて「矢口餅」を販売するとはさすがですね。

お膳立てされていた万寿の矢口祝い。

すべてを集約した義時の台詞

I:さて、そうした一連のセレモニーが滞りなく行なわれる中、その裏で前代未聞のクーデターが進行していたことになります。工藤祐経(演・坪倉由幸)は第1回から薄汚れた姿で登場していて、伊藤祐親に対して〈土地を返せ〉と叫んでいました。

A:頼朝が祐経に対して〈祐親を殺せ!〉と命じたのも第1回。ずいぶん早く伏線を張るものだと驚きましたが、ようやく回収の段というわけです。

I:頼朝を狙い、それを果たせず、工藤祐経を討った曽我兄弟。兄弟の烏帽子親で敵討ちの相談を受けていた時政(演・坂東彌十郎)は、その裏で進行していた「鎌倉殿暗殺」の動きを知らないという設定でした。

A:裏計画を主導していたのが岡崎義実というのが物語を深いものにしていますね。義実は、旗揚げ前に頼朝から「お前だけが頼りだ」と声がけされた功臣。石橋山の合戦では嫡男の佐奈田義忠を亡くしています。

I:よく反頼朝で声をあげている千葉常胤(演・岡本信人)は、上総広常(演・佐藤浩市)亡き後にその所領の多くを受け継いでいます。畠山重忠(演・中川大志)や稲毛重成(演・村上誠基)は時政の娘をもらい、頼朝とも縁戚関係を結ぶことになりました。和田義盛(演・横田栄司)は侍所別当ですし、そうした中で岡崎義実は不遇といえば不遇。

A:怒りを覚えるのも無理はないですよね。ところで、劇中では登場しませんが、大庭景義という老臣も岡崎に同心していたようですね。伊東祐親と組んでいた大庭景親(演・國村隼)の実兄で、こちらも旗揚げ当初から頼朝に従っていました。物語後半で義時が〈謀反に見せかけた敵討ちか、敵討ちに見せかけた謀反か〉と語っていましたが、この台詞にすべてが集約されますね。事件の真相はいまだに闇の中なのですよ。

謀反に利用された時政(右/演・坂東彌十郎)。

範頼擁立計画はほんとうにあったのか?

I:物語後半には、範頼(演・迫田孝也)とその周辺の慌てぶりもしっかり描かれました。三善康信(演・小林隆)らにそそのかされて、狼狽する範頼、乳母子の千幡が後継者になるのではと色めき立つ実衣(演・宮澤エマ)とそれをたしなめる全成(演・新納慎也)、時政も〈世の中ひっくりかえるぞ〉とそわそわしていました。

A:実際にああいう感じで混乱したのでしょう。頼朝が討たれたのではという噂が伝播したのかもしれませんし、それぞれの思惑が交錯する様子がよく伝わってきました。状況証拠としては、範頼を擁立する動きがあったんでしょうね。

I:さて、曽我兄弟ですが、十郎祐成(演・田邊和也)は、戦闘の中で討ち死に。五郎時致(演・田中俊介)はとらえられます。助命の声もあったようですが、祐経の息子の意見が採用され、処刑されるということになります。

A:後年の赤穂四十七士の討ち入りの際には、時の世論を踏まえたうえで幕閣が評議して、最終的に切腹という処分が下りました。劇中の時代と江戸時代ではやはり社会の成熟度が異なっていたのでしょう。曽我兄弟の敵討ちを「日本三大仇討」と称する向きもありますが、江戸時代とは社会状況が異なりますから、あまり意味のあるくくりではないような気もします。

I:最後に、今週も比企家一押しの比奈(演・堀田真由)が登場しました。ほんとうに可憐で初々しくて、登場するとうっとりしてしまいますね。

A:俳優さんにとっては時代劇の衣装やかつらが似合うか、というのが重要な要素だと思うのですが、比奈役の俳優も時代劇の装いが映える方ですね。一昨年の『麒麟がくる』で帰蝶を演じた川口春奈さんも時代衣装が映えていましたが、その後大ブレイクしました。このふたり、時代劇で共演してくれないかなあと感じています。ところで、今回曽我兄弟によって殺害された工藤祐経ですが、その子孫は九州の地頭職を得て、そのまま土着。その後も薩摩の島津家とたびたび合戦に及び、江戸時代は飫肥藩主となり明治に至ります。途中枝分かれして薩摩藩士になった家系からは、連合艦隊初代司令長官・伊東祐亨を輩出するなど、工藤祐経のDNAは連綿と受け継がれたことを明記しておきたいと思います。

I:今週の富士の巻狩りの回は、静岡県で大規模な野外ロケを敢行して撮影したそうです。

A:『麒麟がくる』『青天を衝け』とコロナ禍の中で、ロケが制限されて来ましたから、ほんとうに感慨深いです。やっぱりロケは臨場感たっぷりでいいですよね(しみじみ)。

I:そのロケにNHKの別番組が密着したそうです(【鎌倉殿の13人 満喫リポート 番外編】で詳報)。

A:大河ドラマファンの心を捉える編集になっているかどうか、チェックしてみたいですね。

浮気心で難を逃れた頼朝(演・大泉洋)。

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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