子どもの言葉が荒くなった、口をきいてくれなくなった、暴力をふるわれたなど、大人への移行期である思春期の子どもの心は不安定で、突然の変化に戸惑う親は多いと言われています。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』から、どんな子どもにも効く思春期の子育てのコツを学びましょう。
文/土井髙徳
親自身のアンガーコントロールが大切
日曜の午後のひととき、鼻歌を歌いながら編み物をしていた穏やかな時間を過ごしていたあなた。そんなときに1本の電話がかかってきました。近くの交番からです。あなたのお子さんが他人の自転車を無断で乗っていて補導されたという連絡です。
「すぐに来てください」と促す警察官に「はい」と答えたものの、気が動転して考えがまとまりません。すぐ交番に行かないといけないと思いながら、イライラして自分が自分でないような落ち着かない気分です。
さて、こうした場面ではどうしたらいいでしょうか。お子さんを迎えに行ってものの道理を言って聞かせる前に、まずはお母さん自身が怒りの感情をコントロールし、冷静さを取り戻す必要があります。次のような言葉を口に出してみましょう。心で思うより実際に言葉にしてみることがより有効です。
「冷静さを失わない限り、私はこの状況をコントロールできる」
「ことが知れても他人に言いわけする必要はない」
「怒りに支配されてはいけない。今すべきことに集中しよう」
「あわてて結論を出さないようにしよう」
言葉にして繰り返し言っているうちに少し落ち着いてきました。心身ともにリラックスしてきました。
今度は問題解決への取り組む姿勢を言葉にして確認してみましょう。
「怒りは子どもへの愛情があるためで、憎いからではない」
「私は心から子どもを愛している」
「今回の事態の肯定的な面を探してみよう」
「ピンチはチャンス。今回のことは思春期を迎えて難しくなった子どもとの関係を深める絶好の機会だ」
「彼はたぶん私を怒らせたいのだ。でも,そうはいかない。私は冷静に、そして建設的に処理していくぞ」
どうです。落ち着きとともに事態を打開する勇気が湧いてきたでしょう。思春期の子どもと接するには、まずは親自身のアンガーコントロール、怒りの感情の処理が大切です。
【ひと口メモ】
最近、盛んになってきたペアレントトレーニング(親の養育技術トレーニング)の中心は、「怒りの感情統制」です。子どもの適切なコントロールのためには、まず親自身の感情コントロールが先なのです。
そのために、ここで紹介した「自己教示」という技法は有効です。実際に適切な言葉を口にして、自分に言い聞かせて、問題解決の糸口にしようというものです。
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『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』(土井髙德 著)
小学館
土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。里親。「土井ホーム」代表。保護司。学術博士。福岡県青少年育成課講師。北九州市立大学大学院非常勤講師。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。医師や臨床心理士など専門家と連携し、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を受賞。