比叡山焼き討ちの功績で坂本城主となった光秀(演・長谷川博己)。

今週放映の第36話を含めて残り9話となった「麒麟がくる」。交通の要衝・坂本城を築城し、順風満帆の光秀に、信長をとるか将軍義昭につくかの選択が迫られる――。

* * *

ライターI(以下I):今週の『麒麟がくる』は、冒頭、光秀(演・長谷川博己)が三条西実澄(演・石橋蓮司)に連れられて参内しました。正親町天皇(演・坂東玉三郎)に拝謁するのかと思いきや……。

編集者A(以下A):廊下で待たされていましたね。視聴者の中には、帝は、東庵先生(演・堺正章)とは碁を打っているのに、光秀とは直接会わないのか?と感じた人もいたかもしれません。

I:光秀はこのときはまだ昇殿を許される身分ではありませんから、帝への拝謁はなりませぬということなんでしょうかね。じゃあ東庵先生はどうなんだと感じるのは自然だと思いますが、そういう設定なのでしょう。しかし、〈今日は庭に珍しき鳥が舞い降りております〉とか、ほんとうに朝廷というところは、まどろっこしい(笑)。その部分に焦点をあてようということなのかもしれません。

A:正親町天皇の父帝後奈良天皇、そのまた父帝の後柏原天皇の時代は、日本史上、朝廷がもっとも貧しかった時代ともいわれています。正親町天皇の時代になって織田信長(演・染谷将太)の支援でなんとか持ち直していた感じです。東庵先生のモデルとみられる実在の曲直瀬道三は、正親町天皇の診察もしていますから、そんなに厳密だったわけでもないのかもしれないとも思います。

I:30年前の『太平記』(脚本が『麒麟がくる』と同じ池端俊策氏)では、足利尊氏(演・真田広之)が後醍醐天皇(演・片岡孝夫/現・仁左衛門)のおわす都を〈美しき都〉と憧憬する姿が強調されていました。今回の帝も同様に信長や光秀の憧憬の対象になっている印象です。前話でも「室町は美しきところ」と父から聞いたと光秀がいっていましたしね。

A:まあ、何はともあれ、光秀は廊下で漢詩を聞くことになります。〈水を渡り 復水を渡り 花を看 還花を看る 春風 江上の路 覚えず 君が家に到る〉。日本でいえば室町幕府初期の時代の明で詠まれた高啓の「胡隠君を尋ぬ(こいんくんをたずぬ)」ですね。

I:今週は文学部の授業か!って思っちゃいました。光秀が坂本城の天主(天守)に煕子(演・木村文乃)を案内した際にもこんなシーンがありました。光秀は〈そなたと子供たちを船に乗せ、月見にこぎ出していくのだ〉といい、〈湖の上で子供たちに古き歌を教える〉と言い出します。

A:そこで、光秀と煕子は〈月は船  星は白波 雲は海 いかに漕ぐらん 桂男 ただ一人して~〉とハモっていました。まるで文学部国文学科卒の同級生カップルのようで微笑ましかったですね。後白河法皇が編纂した『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』に収録されている今様をハモるとは……(笑)。

I:三重大学の藤田達生教授の『明智光秀伝』には、光秀の豊かな教養についても頁を割いていますが、光秀は京の公家とも対等に文化交流できたようですね。

A:正親町天皇に気にいられたという設定も現実的ということなんですよね。

以前帰蝶が言っていた「十兵衛はどこまでも十兵衛」の意味

打倒信長(演・染谷将太)のため挙兵した将軍義昭(演・滝藤賢一)。

I:ところで今週は将軍義昭(演・滝藤賢一)が画策した〈信長包囲網〉が描かれました。

A:その中で印象に残ったのは、二条城で剣術に励んでいた義昭に、光秀が手合わせに応じたシーンでした。もともと横綱と序の口くらいの力量の違いがあったはずです。本来ならば、多少忖度して、それなりに手合わせをするところですが、光秀は容赦なく対応しました。真剣に対峙したと評価するか、大人げないとみるかですね。私は「光秀融通がきかないな」と感じましたが、義昭にイラついていたのですかね?

I:私は、光秀が誠実に対応した、と思って見ていました。真剣に腕を磨こうと頑張っている将軍に対し、手加減は無礼であると。将軍自身が己の力量を知るためにも、ちゃんと対応してあげないといけないと思ったのだと。光秀らしい実直さを表現した場面だったと思います。

A:さて、後半戦が開始してから第30話に登場したっきりの帰蝶(演・川口春奈)ですが、今週も台詞の中での登場でした。〈十兵衛はどこまでも十兵衛〉という帰蝶の言葉を信長に言わせていました。剣術シーンなど、まさに〈十兵衛はどこまでも十兵衛〉でした。しかし、台詞内での登場だけでは、帰蝶ファンがしょんぼりしてしまいますよね。

I:信長と対峙する光秀はいつも辛口です。信長に対してもほかの武将らとは異なり真剣に向き合っている風です。今週のやり取りでは、信長が義昭に喜んでもらおうと鵠(くぐい・ハクチョウの古名)を贈ろうとしていました。まだ事態を楽観している様子でしたね。

A:『麒麟がくる』では、信長は常に〈褒められたい〉と思っていて、承認欲求が強い側面が強調されていますが、将軍へのご機嫌伺いのために籠の鳥を贈り物として選ぶのは、ちょっと皮肉めいていましたね。まあ、鷹をはじめ鳥はよく贈答に使われたようですが。

I:なるほど。

鵠(白鳥)で将軍の機嫌を取ろうとする信長(演・染谷将太)。

A:ところで今回は、三方ヶ原の合戦で徳川家康が武田信玄(演・石橋凌)に大敗したことが報告されました。光秀が直接絡んでいませんから、さらっと流されたのはしょうがないですね。そんな中、駒(演・門脇麦)のもとに将軍義昭の書き付けが届きます。

I:駒が芳仁丸を元手に献上した大金を、鉄砲を買うために使いたいと言ってきたわけです。衝撃的な場面でした。駒にとってはショックだったと思いますが、義昭のメンタルがそれだけ破壊されてしまっていたのでしょう。

A:その後の光秀と義昭のやり取りは、今週も名場面でした。〈この鵠は来るのが遅かった〉として〈わしは信長との戦を覚悟したのじゃ〉と義昭が光秀に告げました。

I:朝倉、浅井も動いて信長を挟み撃ちするといっていました。〈信長の命運は尽きた〉という台詞も飛び出しました。

A:武田信玄もすでに信長を討つべく出陣しています。信長最大の危機です。しかし、ついこの前までは対信長の戦略は摂津晴門(演・片岡鶴太郎)が仕切っていました。その摂津を追放したあと、誰が信長包囲網を主導していたのでしょうか。摂津追放の後に義昭が主導することになったという設定なのでしょうか。

I:罵詈雑言ばかりの17条もの書き付けをよこしたと吠えていましたし、諸国の大名に御内書を発給していたことも触れられていましたから、摂津追放後は義昭自ら信長包囲網に関わったということなんだと思います。

A:長谷川博己さん、滝藤賢一さんともに熱量たっぷりで見応え充分でした。ここで光秀は義昭と訣別します。光秀が涙を流す場面は圧巻でした。

I:私は長谷川さんの涙の演技に感極まりました。いったいクライマックスに向けてどういうストーリーが紡がれるのか気になってしょうがありません。

A:今回、光秀は義昭と袂を分かったのですが、重大な伏線と思われる台詞が義昭の口から発せられました。

I:〈十兵衛は鳥じゃ、籠から出た鳥じゃ。また飛んで戻ってくるかもしれん〉ですよね。御所でも〈舞い降りた鳥〉と表現されていましたが、義昭から発せられた台詞は本当に重要かもしれません。クライマックスの本能寺の変がどういう展開になるのか推測できますね。今まで描かれた本能寺の変の中で、一番切ないものになるんじゃないかと予感しています。

A:ところで、脚本の池端俊策さんが12月4日、よみうりホールで行なわれた「明智光秀 新発見!」というシンポジウムに登壇されて興味深い話をされていました。ネタバレになるのでここでは触れませんが、驚いたのは脚本の脱稿が12月2日だったという発言でした。

I: 本当にびっくりしました。ぎりぎりの進行なんですね。

武田信玄(演・石橋凌)も上洛戦を開始。

●ライターI 月刊『サライ』ライター。2020年2月号の明智光秀特集の取材を担当。猫が好き。
●編集者A 月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の「半島をゆく」を担当。初めて通しで視聴した大河ドラマは『草燃える』(79年)。NHKオンデマンドで過去の大河ドラマを夜中に視聴するのが楽しみ。 編集を担当した『明智光秀伝 本能寺の変に至る派閥力学』(藤田達生著)も好評発売中。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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