文/藤原邦康
食事を楽しみ健康寿命を延ばす、舌のエクササイズ
残念ながら、今年も東京都内だけでも17人の高齢者が喉に餅を詰まらせて病院に搬送されました。このうち、お一人は息を引き取られました。不幸な事故を防ぐためにも、前回の口唇力の強化に続き、オーラルフレイル(口腔機能低下)予防ご案内いたします。今回は、舌のエクササイズです。食事を楽しんで健康寿命を延ばすために実践してください。

舌のエクササイズ

口唇力の強化の次は、舌のエクササイズです。通常は上アゴの天井にくっついているのが理想形で、舌が垂れ下がっているのはオーラルフレイルのリスク要因です。

(1)バイトポッピング:上顎に舌が自然に着くように鍛えていきます。まずは口を大きく開きます。そしては上アゴにベロが納まるようにベロを上に向けます。そして、ベロの下のヒモ(舌小帯)をしっかり引っ張るようにするのがコツです。口を開けた状態で舌を吸い上げておいて、下アゴに舌を叩きつけるように「ポンッ」とポップ音を出してみましょう。

(2)舌を尖らせてまっすぐ突き出すように出しましょう。3回から5回行なうことをお勧めします。

(3)舌を下に向けて伸ばしましょう。(ロックバンド「Kiss」のベーシスト、ジーン・シモンズのように)

(4)舌を左右の口角につける動作を交互に繰り返してみましょう。左右一方向に分けて3~5回ずつ行っても、左右往復で交互に3~5回動かしてもいいでしょう。やりづらい側を多めにすると良いです。

応用編:舌と頬を同時に

応用編としては、舌と頬を同時に鍛える方法が挙げられます。頬を舌で内側から横に強く押し出します。外から指をあてて頬を通して舌を内側に押し返すとエクササイズの強度が増します。これらのエクササイズを3分ほど毎日繰り返すことが重要です。

アゴを動かす咀嚼筋について

エクササイズが終わったらアゴを休めてリラックスさせましょう。現代人は前傾姿勢になって食いしばることが多く、上下の歯が無意識に接しているTCH(トゥース・コンタクティング・ハビット)になりがちです。勉強や読書、スマホ操作などが原因ですが、頬や舌のエクササイズによってこの悪習慣を誘発させないために、最後にリラックス体操をしましょう。簡単なのは、座位や立位になってポカン口で20秒から30秒ぐらい天井を見上げること。スマホ操作や読書をして食いしばり癖が起きているなと思ったときなども、休憩の際に目を休めるのと同時に行ないます。ポカン口でしっかり咀嚼筋を緩めてリラックスしましょう。

口を閉じる筋肉は3種類。なぜ、口を開く筋肉は1つだけ!?

咀嚼筋には閉じる筋肉と開ける筋肉があります。閉じる筋肉はこめかみ周辺の側頭筋、頬骨とエラをつなぐ咬筋、口の中を通る内側翼突筋の3種類です。開ける筋肉は耳の手前の外側翼突筋だけです。(悪意など最大開口の際には顎二腹筋という筋肉が働きます。)口を開ける筋肉の種類が少ないのには理由があります。物を食べる時には座位あるいは立位の抗重力位ですね。約1kgほどある下アゴには常に重力がかかっているため、もともと開けやすくなっているのです。ですから、咀嚼筋が衰えると口を閉じていることが困難になります。

よく噛んで、咀嚼ダイエット&認知症予防

ひと口30回!よく噛んで咀嚼筋を鍛えましょう。良く噛むことで、年末年始明けの咀嚼ダイエットにつなげることができます。認知症予防にも効果的です。

口もとをリラックスさせるポカン口エクササイズ

口もとの健康を保ちオーラルフレイル(口腔機能低下)を防ぐためには、アゴを閉じる力だけではなく開く力も重要です。閉める力が強すぎると、しっかり噛むことはできても、口を十分に開くことができなくなって食べこぼしが増える可能性があるからです。スマホ操作や読書などによって猫背や頭部の前傾姿勢が続いたときはポカン口エクササイズをおすすめします。やり方は簡単。口を「ポカン口」のようにして半開きに保ち、首を伸展して天井を見上げて30秒ほど休憩するだけです。

注1)ポカン口でも、口呼吸にならないよう鼻呼吸を保ってください

注2)万が一、アゴや首などの痛み、めまいが出るようなら、すぐに中断してください。

また食いしばり癖があると交感神経優位になってイライラしやすくなりますし、寝つきも悪くなります。歯ぎしり癖があると睡眠が浅くなりますから、疲れが取れにくくなります。

ポカン口エクササイズ応用編

ポカン口のまま、首を横に傾けます。ゆっくり交互に3~5往復すると良いでしょう。咀嚼筋と連動する「斜角筋」という首の筋肉が凝っている現代人は多いです。

同様に、ポカン口で首を回す回旋運動をします。コツは一旦ニュートラル(中立位)にゆっくり戻ってから、反対に向けることです。これも3~5往復程度行なうと良いでしょう。もし左右どちらかやりづらい側があれば余計に一方だけ行ってもいいですね。傾ける動作もやりづらい側を多めにやってあげると首の姿勢バランスが整ってきます。

文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。

 

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