文/藤原邦康
頭蓋骨の中心の位置する蝶形骨は顏のシンメトリーや咀嚼筋バランスに大きな影響を与えます。こちらは、アゴの音に悩んでいる当院のクライアントのレントゲン写真(1)ですが、左右で目の高さや顏の輪郭が異なり、鼻中隔も湾曲していることが一目瞭然です。次の写真(2)は、蝶形骨の大まかな位置に筆者がCG着色したものですが、蝶形骨が傾いていることがよく分かりますね。傾きをつくる原因は咀嚼筋の左右一方の過緊張にあります。前回、割り箸を奥歯にはさむことで一時的に蝶形骨バランスを補正する方法について述べたところ、「あまり変化を実感できない」というご相談を受けました。
もし左右どちらに割り箸を挟んでも顔のバランスや体の快適さに変化を感じないのであれば、割り箸の厚みが大きすぎる可能性があります。その場合は、薄いヘラ状態のアイス棒または「舌圧子(ぜつあつし)」などで試してみましょう。眼の小さく見える側にヘラを1枚ずつ重ねて少しずつ厚みを増してチェックしていくことで段階的に細かく確認できます。もし、ヘラを3枚以上挟んでも変化が起こらなければ歯科診療が必要だという可能性があります。かかりつけの歯科医院で不正咬合など歯に問題がないか診断してもらいましょう。もし「歯や咬合には問題がない」と歯医者さんから言われた場合は、頭の位置や咀嚼筋や首回りの筋バランスに支障をきたしているケースが多いです。
この場合は、以前にご案内した整顎エクササイズによって翼突筋を適度にストレッチしてリラックスさせ、同時に頭のポジションを整えることをお勧めします。加えて、今回は独自に開発した簡単なセルフケア「整顎ほおづえ」を紹介します。やり方は以下のとおり、アゴの影響からこわばりが緊張が強くなっている側をみつけて緩めるだけ。3ステップで簡単に誰でも安全にできます。
簡単なセルフケア「整顎ほおづえ」
1. 左右の顎関節を指で軽く押して痛みやコリが強い側をチェックします。顎関節の場所は耳の手前で(側頭骨と下顎骨の間の)窪みがあるポイントです。
2. 同様に、指先やこぶしを使い左右で首すじのコリが強い側を見つけます。左右どちらか一方がピンと突っ張っている傾向が強いです。特に「斜角筋(しゃかくきん)」という筋肉が関わっていますが、この筋肉が過度に緊張すると手や腕につながる神経の束「腕神経叢(わんしんけいそう)」を圧迫してしびれを生じさせることもあります。
3. 「愈府(ゆふ)」というツボをこぶしで押してみて、左右でコリや痛みが強い側を確認します。愈府は第1肋骨と胸骨と鎖骨の間にあるツボで、免疫力に関わっていると言われています。
原則、1~3で左右のこわばりが強く痛く感じる側がすべて一致するはずです。もし、一致しない場合は3の愈府を基準にしてください。
次に「整顎ほおづえ」のやり方です。両手でゲンコツを作り、手首を45度に傾けて猫の手のようにします。口の力を抜いて顔の重みを両こぶしに均等に預けます。
左右どちらか痛い側のアゴのエラのあたりをこぶしで支えて、ほおづえをついてください。次に、反対側の頬をゲンコツで支えます。写真でお分かりいただけるように左右で抑える場所が違い非対称となっていますね。これは左右で偏った蝶形骨のゆがみを補正するためです。上手くできているかの確認方法ですが、正しくできていれば鼻呼吸がしやすくなり顏全体がリラックスしてきます。また、整顎ほおづえの状態のまま口を開け閉めしようとすると正しいパターンでは(こぶしで抑えられているにもかかわらず)口が開きやすくなります。間違ったパターンでは呼吸が浅くなり表情がこわばってくる傾向にあります。
実践方法ですが、お風呂上りや就寝前にたった1分、
けで結構です。一日分の顎関節のこわばりや蝶形骨のゆがみを補正することができます。注意点ですが、長くやり過ぎないこと。そして、万が一、不快感を感じたらすぐに中断することです。なお、一般的な頬づえをつくことはアゴのゆがみを作り顎関節にとって悪影響ですのでご注意ください。
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。