文/藤原邦康
お餅を正しく噛むために
高齢化により食物の誤嚥事故や窒息による死者数が増加し、餅の窒息については特に1月に救急搬送が集中しています。
参照:消費者庁「お正月の餅の窒息に注意」
https://bit.ly/36HxR8D
年末年始を家族と楽しみ、正しく噛んでお餅やおせち料理を美味しく味わうためにも、自宅で簡単にできるアゴこり解消法や舌の正しい使い方をご家族と学びましょう!
お餅の窒息の原因は、オーラルフレイル(口腔機能低下)にあり!
「よくむせる」「食べこぼしをする」「滑舌が悪くなった」など、家族から指摘されるようになったら「オーラルフレイル」の可能性があります。オーラルフレイルとは医学界でも注目されているキーワードで、口腔機能の低下を意味します。進行すると、要介護リスクが高まるともいわれています。会話の機会が減り口を動かさなくなる独居シニアは要注意だといえます。
お餅をうまく飲み込めない理由は?
お餅をうまく飲み込めない理由のひとつは口唇力(唇の力)の低下が挙げられます。唇がうまく閉じられないと食べこぼしをしやすくなり、上手く食事をできなくなります。また、舌の機能低下も考えられます。舌に力が入らないと、食べ物(食塊)をひとまとまりにして奥歯や喉に送りこむことができなくなります。さらに、咀嚼筋が衰えるとしっかり噛むことができなくなり、お餅を細かく噛んでペースト状にし、でんぷんを消化する酵素「アミラーゼ」とかくはんすることができなくなります。特に、粘り気が強いお餅を大きな塊のまま飲み込もうとすると喉につまらせやすくなります。逆に、咀嚼筋が緊張しすぎるのも考えもの…。食いしばり癖が強くてアゴをリラックスできなくなると、口を十分に開けることが困難になり、一度に少量の食べ物しか口に入れられなくなります。当院にご相談される方の中には、キッチンばさみで食べ物を細かく刻んで口に運んでいる方もいらっしゃいます。食事の楽しみが減り、体重が低下して体力の衰えにつながるケースもあります。
まずは良い姿勢。
よく噛んで食事を楽しむためには、まず、座位における良い姿勢を保ちましょう。肩の真上に耳の穴の位置があるのが理想形です。頭や首が前傾して、いわゆる「犬食い」になるのは禁物です。嚥下機能を担う咽頭収縮筋がうまく働かなくなるからです。頭を水平に保ち、ひと口につき30回以上、左右なるべく均等に交互に噛んでから丁寧に飲み込むように心がけましょう。
ちなみに、食事をしていない時は、唇は閉じていても上下の歯が接していないのが正常です。口呼吸は風邪やインフルエンザの感染症リスクを高めますから、鼻呼吸をしてください。家族にシニアがいらっしゃる方は鼻呼吸ができているか確認してみましょう。簡単なチェック方法があります。「深呼吸をしてみて。」と指示を出して、無意識に鼻で深呼吸をすれば問題なし。思わず口で深呼吸をしてしまう場合には、普段から口呼吸をしている可能性が高いといえます。
ここからは、具体的な対策をご案内します。
(1)唇と頬の力を鍛えましょう
まずは口唇力(唇の力)を鍛えましょう。一つ目のエクササイズは、カエルのように頬を膨らますことで頬筋(きょうきん)を鍛えることができます。応用編としては、鼻の下の上唇に空気を貯めてみましょう。同様に、下唇の下にしっかり空気を溜め込んで押し込むようにふくらめます。メリメリ音がするぐらいの気持ちでしっかり空気を入れてみましょう。さらに交互左右に一方の頬だけに空気を貯めます。もし左右どちらかやりづらい側あれば一方だけ多めにしてもいいでしょう。
(2)「ニコッ」と口角を上げましょう。
次に、口角を上げるエクササイズです。歯を「イーッ」と出しながら、口角を引き上げます。「うまく上がってないよ」と家族に指摘される場合やご自身で鏡で見て「口角がうまく上がっていないな」と感じる場合などは、最初は指で引き上げて声を出しながら行うと良いでしょう。
(3)「ウーッ」と唇を突き出しましょう。
「ウーッ」と唇を突き出すようにという感じでしっかり唇を鍛えていきましょう。これらをそれぞれ、1セットにつき3~5回やってみましょう。朝の歯磨きの際に同時に行なうと、朝飯前のウォーミングアップになりますね。
実践 お餅を楽しく食べるために
(1)あらかじめ、小さく切っておきましょう。
(2)水やお茶などを用意して、お餅を食べる前や合間に喉を潤しましょう。
(3)口に入れたままでのお喋りは避けて。
(4)汁物や大根おろしなど水分の多いものと一緒に食べましょう。お雑煮もおすすめです。
(5)舌、頬、アゴを使ってよく噛みましょう。
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。