文/藤原邦康
十分な睡眠を取るためには体内時計である概日リズムを正常に保つことが重要です。そして、概日リズムをつかさどる視交叉上核の土台である蝶形骨(ちょうけいこつ)にストレスをかけないこと、そして、蝶形骨にゆがみを生じさせないことが重要であることを前回の記事で述べました。「蝶形骨にストレスをかけない」とはどういうことでしょうか? そして、蝶形骨がゆがんでいるかどうか、どう判断したら良いのでしょうか?
目や鼻の左右差をチェック
蝶形骨は目や鼻の奥にある頭蓋骨の一部です。そして、咀嚼筋の偏った緊張の累積によって蝶形骨にストレスがかかり、それが長く続くと、徐々にゆがみや傾きを生じる可能性があります。蝶形骨が傾いてくると、次第に眼の大きさや位置、鼻孔の大きさに左右差が生まれてきます。つまり、顏の見た目をチェックすると、蝶形骨のゆがみの有無を確認することができます。
女性の場合は化粧の際など、日常的にご自分の顏をよく見ますから、眼の大きさが左右で違うことに気が付きやすいと言えます。男性は女性ほど頻繁に鏡をチェックする機会は少ないと思いますが、健康や正しい睡眠のためにときどき顏のバランスを確認すると良いですね。
鏡でまず確認するのは眼の大きさの左右比較
鏡でまず確認するのは眼の大きさの左右比較です。あまりじっくり見続けるとかえって分からなくなりますから直感を信じてください。
眼が小さく見える側は蝶形骨につながる「翼突筋(よくとつきん)」という筋肉の緊張が強すぎる側です。蝶形骨がこの筋肉により後方に引っ張られると、眼が奥まって見えるため小さい印象になります。つまり、眼が小さい側には、片噛みや食いしばり癖などにより常に力が入っていることが考えられます。片側だけ視力が低下した人や眼の奥に違和感を覚える人も蝶形骨ゆがみが生じているかもしれません。蝶形骨は視神経が通る場所でもあるからです。
次にチェックするのは鼻の穴の左右差
次にチェックするのは鼻の穴の左右差です、翼突筋が過緊張を起こしている側の鼻の穴は反対側よりも大きく見える傾向にあります。鼻にも左右差が生まれるのは、蝶形骨は眼の奥の方で鼻腔につながっているからです。左右どちらかだけ鼻詰まりしやすい人は蝶形骨のゆがみが生じている可能性があります。こういう人は、本来、理想とされる「鼻呼吸」ができず口呼吸の悪癖が生まれやすくなります。特に睡眠時の口呼吸は口が乾き感染症にかかりやすくなるだけでなく、いびきをかきやすくなります。口呼吸では当然、睡眠の質も低下します。
また、蝶形骨にゆがみが起これば「蝶形骨洞」という場所に副鼻腔炎を発症しやすくなります。片側だけ鼻が詰まる人は要注意です。(なお、一方だけ鼻の通りが悪い原因には、他の医学的要素も考えられます。)
整顎エクササイズでセルフケア
対策ですが、蝶形骨のゆがみ以前にもご案内した整顎エクササイズでセルフケアを行なうことをおすすめします。翼突筋を適度にストレッチする効果が期待できます。
傾ける動作や回す動作では、左右でやりづらい側があれば、そちらを重点的にストレッチしてください。ただし、痛みや不快感を誘発してしまう場合にはすぐに中断してください。
何より重要なのは予防です。左蝶形骨にゆがみや傾きを生じさせないためには、左右どちらか一方の片噛み(偏咀嚼)を止め、両側の歯で交互に噛むことを心がけましょう。虫歯があれば歯科治療を受けて均等に噛むことができるように対処します。
食事や会話のとき以外は、「安静空隙(あんせいくうげき)」を保つこと。安静空隙とは上下の歯に1~2mmの隙間のことです。
普段は唇は閉じていても、口の中で歯は当たっていないのが理想です。常に上下の歯が接している「歯列接触癖(TCH)」がある方は、食いしばり癖などによって顎関節および蝶形骨に常に負荷がかかっている状態に陥ります。先述したとおり、口呼吸はよくないですから、あくまでも歯が接しないように心がけて、唇は閉じてください。これだけでも蝶形骨にかかる負担は大幅に減ります。蝶形骨からは喉の奥や背骨、心膜や横隔膜などにも筋膜のつながりがあります。ですから、蝶形骨にかかるストレスが軽減できれば、全身がリラックスし呼吸も深くなり眠りの質も改善します。
文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。