文/藤原邦康

アゴをリラックスさせて魅力的な声に

艶やかで若い声を保つためには喉のコンディションを整えることが大切です。私も以前は顎関節症だったため滑舌が悪く、背骨もゆがんでいたため呼吸も浅く、覇気のない自身の声にコンプレックスを持っていました。幸いアメリカ留学中に、カイロプラクティック治療によって背骨のバランスが整い活力を取り戻すことができました。帰国後は、スクール講師やセミナー講師を務めるようになって、発声や息のコントロールを自ずと意識するようになりました。現在でも決して張りのある声とは言えませんが、以前より声が通るようになったと実感しています。普段の施術において、うつ伏せでリラックスしてまどろむクライアントにも安心感を与える穏やかな声でコンディショニングなどの説明することを心がけています。

言葉遣いや会話の内容など純粋な言語情報は7%しか相手に伝わらない

心理学者のメラビアンによると、人とのコミュニケーションにおいては言葉遣いや会話の内容など純粋な言語情報は7%しか相手に伝わらないそうです。一方、声の調子などの聴覚情報は38%ほど好意や反感に影響します。好感を与えるためには、良い声で話すと良いことが分かります。ちなみに残り55%は視覚情報で、表情を豊かに話せば感情が伝わりやすくなり共感を得やすくなるというわけです。

さて、冬になると喉が乾燥して声が出にくくなりますね。風邪の予防のためにも喉のケアが大事です。ウィルス感染予防のためにも少量の水をこまめに飲み、喉を潤すようにしましょう。また起床後の歯磨きも喉の保護にとって実は重要です。喉の粘膜はタンパク質のバリアで覆われていますが、歯垢の細菌が発する酵素がこのバリアを壊してしまうからです。今、性能の良い加湿器もたくさんありますから上手に利用して喉の潤いを保つように心がけましょう。

ひと言で「喉」というと漠然としていますが、喉仏の後ろの空気の通り道である「喉頭(こうとう)」と、鼻から食道につながる「咽頭(いんとう)」の2部位に区分されます。

前者の「喉頭」は舌の付け根の骨である「舌骨(ぜっこつ)」から喉仏に位置する甲状軟骨や輪状軟骨まで。そこから下、喉頭から肺まで伸びる気管の長さは成人で15cm前後だといわれています。

ここで、音の道について管楽器と管長を比較してみましょう。例えば、トランペットは管の長さが130~140cmだそうです。トロンボーンは伸ばせば低い音、縮めれば高い音になります。管楽器の中でも短いピッコロでも30cmほどで、人間の喉は気管と咽頭を合わせても“楽器”としては短い部類といえるのではないでしょうか。
動物では、キリンの首は2mほどあり(滅多に聞けませんが)遠くまで伝わる低音で鳴くそうです。

人間に話を戻すと、バスケットボール選手など高身長の人は総じて低い声ですね。現在、NBAで活躍中の八村塁選手もよく響くバリトンヴォイスです。逆に、子供が大人に比べてか細く高い声である理由は気道や声帯が短いからだといわれています。(この他、声の高低には体格以外にも声門の下の共鳴のしかたなども影響します。)

よく響く落ち着いた声を保つためには肩をすくめずに首すじを伸ばす

つまり、管長を長く保つことが良い声の第一歩。体格を変えることはできませんが、よく響く落ち着いた声を保つために肩をすくめずに首すじを伸ばしてみましょう。首と、その中に収まっている気管がグーンと伸びるイメージを意識して話してみましょう。

(姿勢によってトロンボーンのように気管を伸び縮みできるわけではありませんが)頸椎を伸展させたほうが喉(上気道内腔)が開きやすくなることは、睡眠時無呼吸症候群の研究によっても判っています。

気分が落ち込むとしょんぼりと猫背になってため息まじりの話し方になりますし、楽しいときは顏が正面を向いて背すじが伸びて声が出しやすくなることをあなたも体験的に理解しているはずです。

後者の咽頭は、鼻の奥の「上咽頭」、舌の奥の「中咽頭」、喉のふた(喉頭蓋)から食道につながる「下咽頭」の3部位に区分されます。筋肉もそれぞれ「上咽頭収縮筋」、舌骨につながる「中咽頭収縮筋」、喉仏につながる「下咽頭収縮筋」の3種類あります。喉の”絞り”を制御していますが嚥下をする時に働き、直接的に発声と関わっているわけではありません。これらの筋肉をリラックスさせると声の通りがよくなります。

特に一番上の上咽頭収縮筋をリラックスさせると鼻腔の奥から響くクリアな声を出すことができます。この上咽頭収縮筋は蝶形骨(棘)という部位から始まっています。以前にもお話しした通り、蝶形骨は咀嚼筋がつながる骨です。蝶形骨にかかる負担も減らすためにアゴをリラックスさせると、上咽頭収縮筋が適度に弛緩して魅力的な声で話すことができます。

ハミングのように鼻の奥を意識して話すと良いですね。女性の場合、とげとげしくない柔らかい声に聞こえます。名司会者の黒柳徹子さんや女優の仲間由起恵さん、タレントのYOUさんなども鼻から響く声で人気を保っていますね。

文/藤原邦康
1970年静岡県浜松市生まれ。カリフォルニア州立大学卒業。米国公認ドクター・オブ・カイロプラクティック。一般社団法人日本整顎協会 理事。カイロプラクティック・オフィス オレア成城 院長。顎関節症に苦しむアゴ難民の救済活動に尽力。噛み合わせと瞬発力の観点からJリーガーや五輪選手などプロアスリートのコンディショニングを行なっている。格闘家や芸能人のクライアントも多数。著書に『自分で治す!顎関節症』(洋泉社)がある。

 

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