130万人以上の動員を記録した第46回東京モーターショー2019も終了し、クルマロス!? になっている方もいらっしゃるのではないでしょうか? そんなクルマ好きのために今回、モーターショーより少し前に行われたデザインの祭典「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2019(東京ミッドタウンデザインタッチ2019)」の模様をレポートします。そこから見えてきた新しいクルマのデザインとは?

会場には、ソウルレッドクリスタルメタリックのMAZDA CX-30が佇む。

会場には、ソウルレッドクリスタルメタリックのMAZDA CX-30が佇む。

「光に包まれたクルマ」

会場に佇むのは、1台の赤いSUV。遠くから眺めるその姿は美しく、それが、マツダが誇る魂動デザインの賜物であることは一見して分かります。しかし、近づいてみると、停まっているのに動いているかのような感覚が…… これは、ビジュアルデザインスタジオ「WOW」チーフクリエイティブディレクターの於保浩介(おほ こうすけ)氏のディレクションのもと、制作された映像と共にMAZDA CX-30に彩る光の移ろいを表現するという展示だったのです。

「映り込みと移ろい」

ひと昔まえ、雑誌やカタログの撮影において、クルマの“映り込み”は「余計なもの」として敬遠される存在でした。しかし、今回の展示はその真逆をつくようなもの。その意図はどこにあるのでしょうか?

答えは10月19日、マツダデザインを統括する前田育男常務執行役員と於保氏のトークセッションの中にありました。実は、マツダとWOWのコラボレーションは今回が初めてではなく、2016年のオートモービルカウンシルから始まり、以降2017年の東京モーターショーや北米のディーラーイベントなどで共にステージを作りあげてきたとのこと。

二人のもつイメージは最初からうまく噛み合っていたという。

二人のもつイメージは最初からうまく噛み合っていたという。

「僕らがやらなければならない仕事は、止まっている車にどうやって躍動感を出すかということ。映像作品というよりは空間をつくるというイメージでやった仕事でした」(於保氏)

そして前田常務は次のように語ります。「走る姿がかっこいいのがいいクルマ。そのクルマが停まっているときにもかっこよく見せることは簡単なことではない」と。

なるほど、クルマは走ってなんぼ。しかし、よく考えれば、我々が目にするクルマは必ずしも走っている姿とは限らないのです。特に、オーナーにとっては、停まっている自分のクルマの姿こそ、我が息子・娘、はたまた相棒の姿。それだけ停まっている姿は重要なのです。言い換えれば、“佇まいの美しいクルマ”こそ、上質なクルマの条件といっても過言ではないはず。

魂動デザインはクルマに命を与えるという。確かに近くに寄ると生命感がある。

魂動デザインはクルマに命を与えるという。確かに近くに寄ると生命感がある。

今回、光の映り込みと移ろいを受け、その佇まいの美しさを印象つけたクルマはMAZDA CX-30。シンプルでありながら繊細な面は、複雑なキャラクターラインに頼ることなく、削ぎ落とす美学で生み出されたもの。だからこそ成り立つ今回の展示企画はマツダのデザイン哲学、“魂動デザイン”の真骨頂と言えそうです。

「日本の景色を作るのはクルマ」

お二人の話は、さらに深く展開します。「街中を走るクルマは街並みを構成する一つの要素でもある」。「その意味において、クルマのデザインは多くの責任を背負っている」。という前田常務の主張に於保氏も大きく賛同。様式を整えることで様々なものが計画的に収まっているヨーロッパの街並みに比べ、日本の街並みが混沌としたものになっていることは否めないもの。一概にどちらがいいか悪いかをはかるのは難しいかもしれませんが、ここのプロダクトを超えた“都市規模でのデザイン”“デザインの調和”という概念があるかないかでは、我々が暮らす街並み、ひいては我々の生き方までが大きく変わってしまうことを感じさせられるトークセッションとなりました。

日本のデザインはターニングポイントを迎えていると前田常務は言う。

日本のデザインはターニングポイントを迎えていると前田常務は言う。

「魂動デザインが向かう先」

「内燃機関からEVへの動力の変化・自動運転技術の進化など、自動車産業を取り巻く環境の変化がデザインにどのような影響を及ぼすか?」という質問を前田常務に投げかけた際の答えが印象的だったので、最後にお伝えしたいと思います。

「最も危惧するのは、シェアリングなどのクルマのサブスクリプション化が進んでいくことです」(前田常務)。

てっきり、安全・環境対応のためにデザインが制約される問題……といった趣旨を想像していたため、この返答には不意を打たれたのでした。

そして、その言葉はデザインに関わる人間の魂を感じるものでした。「所有することはデザインの意味合いに強く影響します。特に、愛されるデザインというものを想定するとき、それが“誰かに所有されるものである”ということは非常に大事なことなのです」(前田常務)。

決して、シェアリングという世の中の流れを否定する発言ではないものの、デザインに真摯に向かい合う人間としての矜持を感じる言葉。それは、「デザインとはただただ環境や状況に適応すればいいということではなく、人間と同じで理屈ではないもの、感情をもったイキモノであるのだ」という示唆に富んだもの。その後、改めて会場に佇むCX-30を目にしたときに、いまにも動き出しそうなイキモノに見えてきたのは決して偶然ではないのかもしれません。

MAZDA CX-30は愛されるためにデザインされたとも言える。

MAZDA CX-30は愛されるためにデザインされたとも言える。

ぜひ、自分のクルマ、街を走るクルマ、停まっているクルマに、改めてよく目を向けてみてください。あなたがそこに感じるものはなんですか?

 

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