
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第32回では、御三家の面々が田沼意次(演・渡辺謙)の治世を悪しざまに非難する場面が描かれました。
編集者A(以下A):尾張藩徳川宗睦(演・榎木孝明)、水戸藩徳川治保(演・奥野瑛太)、紀州藩徳川治貞(演・高橋英樹)らが、田沼意次を非難して、松平定信(演・井上祐貴)を老中にしようと画策していたわけです。
I:御三卿に「将軍継嗣のスペア」の座を奪われていたとはいえ、まだまだ「権威」は残っていたということなのでしょうか。
A:この御三家が揃った場面ですが、なかなか深いのですよ。この時点で御三家は田沼を非難していますが、やがて、彼らが支持した新体制にそれぞれの家が翻弄されることになるのです。
I:なるほど。
A:尾張藩の宗睦は吉宗から「宗」の字を授かっていますから、この中では年長になります。治休、治興と男子に恵まれましたが、いずれも20代前半で夭逝しています。その後の養子も亡くなり、一橋治済(演・生田斗真)の次男治国の息子の斉朝を養子に入れてから尾張家は、歯車が狂います。後に斉朝は隠居させられ、その後に立て続けに将軍家斉の息子が尾張藩主を襲封するようになります。斉朝隠居後に尾張藩主になったのは将軍家斉十九男の斉温(なりはる)。藩主になった時は10歳にもなっていなかったのですが、病弱で21歳で亡くなっています。その後を継いだのが、将軍家斉の十二男斉荘(なりたか)。
I:将軍家斉は、男子だけでも26人。幼くして亡くなった子も多いのですが、成長した後の養子先選びもたいへんだっただろうと思います。尾張藩はターゲットにされてしまったんですね。
A:いかに幕府の要請とはいえ、続けて将軍の息子を藩主にすえられて、藩内がざわつかないわけがありません。家臣同士の対立が表面化したそうです。その対立は幕末までひきずって、やがて「佐幕派」「恭順派」と藩論統一ができなくなったようです。
I:家斉の息子を養子に入れたことで藩内がぐちゃぐちゃになったのですね。
松平定信実妹種姫が嫁いだ紀州藩
A:さて、『べらぼう』で高橋英樹さんが演じた紀州藩主治貞ですが、父の宗直は、第8代将軍徳川吉宗の従兄弟で、1995年の大河ドラマ『八代将軍吉宗』では柄本明さんが演じていた人物です。将軍家とは近縁で、治貞は第9代将軍家重と「はとこ」という関係になります。養子の治宝(はるとみ)の正室が『べらぼう』でも登場していた種姫(演・小田愛結)ということになります。
I:種姫は、もともと将軍家治(演・眞島秀和)の嫡男家基(演・奥智哉)に嫁ぐといわれていた姫ですね。松平定信の実妹でもあります。家基の死後、紀州藩の世子治宝との縁組が成立します。田安家の姫ですが、将軍家治の養女としての縁組となったため、紀州藩は物入りだったそうですね。
A:家臣の俸禄が半減したそうです。これはちょっと辛いですよね。そして、当欄前回でも指摘しましたが、紀州藩徳川家にも明治になってから一橋治済の子孫が養子に入ります(徳川頼倫)。ここでも「一橋」に奪われたということになります。
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