文/鈴木拓也
日本での糖尿病患者は、いまや予備軍も含めて約2,000万人もいるとされる。年代別に見ると、男女ともに60代以降の患者数の割合が多くなり、例えば60代男性の患者比率は21.8%、女性だと12%を占める。症状が重くなると、糖尿病網膜症による視力低下・失明、糖尿病腎症に伴う人工透析治療など、日常生活を脅かすほどのリスクがあるのは周知のとおりだ。
現状、いったん糖尿病になると、これを完治させる薬や療法はない。だから糖尿病になってしまった人は、食事や運動による血糖値のコントロールがとても重要になる。
そうした血糖値コントロールのための運動の1つにウォーキングがあるが、「ウォーキングだけを一所懸命に行えば糖尿病をコントロールできるかといえば、残念ながらその答えはNGです」と言うのが、パーソナルフィットネストレーナーで介護予防運動指導員でもある宮本正一さん。ウォーキングのような有酸素運動だけでなく、筋力トレーニングといった筋肉に負荷をかける「レジスタンス運動」も併せて必要なのだという。
自身20年を超える糖尿病患者である宮本さんは、セルフケアとしてこのレジスタンス運動を取り入れることで、還暦を過ぎた今も、インスリン注射や薬剤の力を借りずに元気に日々を過ごしている。
宮本さんは、トレーナーという仕事柄、それなりの自己鍛錬を通じて体脂肪率12%台のアスリート体型を維持しているが、そこまでしなくとも、宮本さんの考案した「かんたん体操」で、誰でも血糖値の管理ができるという。
この「かんたん体操」とは、股関節の体操や腕立て伏せといった、まさに簡単な8種類の体操を週2~3回、短時間行うというもの。運動が苦手、筋トレは未経験という人でも容易に始められ、習慣化しやすいうえに効果が大きいというメリットがある。
かんたん体操の基本メニュー
宮本さんが提唱する「かんたん体操」の基本メニューは以下の通りだ。
【ベースとなる体操3種】
①股関節の体操
②下半身の体操
③上半身の体操
これら3種の体操は、体幹を鍛えるとともに、準備運動も兼ねる。
【メインとなる体操5種】
①腕立てふせ
②太ももを鍛える「ランジ」
③下半身・体幹を鍛える「スクワット」
④ふくらはぎを鍛える「カーフレイズ」
⑤腹筋
これら5種の体操は、体の大きな筋肉を鍛え、体全体を強化するために有効である。
この基本メニューを週2~3回行う。それぞれの具体的なやり方については、宮本さんの著書『自分で血糖値を下げる! 糖尿病に効く「かんたん体操」』(洋泉社)にて図解入りで説明されている。
この「かんたん体操」によって適度に筋力をつけるのが、なぜ重要なのか。それは「筋肉はブトウ糖の最大の受け入れ先」だからと宮本さんは述べている。
外部から摂り入れた飲食物に含まれる糖質は、体内で消化・分解されてブドウ糖となるが、そのブドウ糖はグリコーゲンという形でまずは肝臓、そして筋肉に蓄えられる。だから筋肉が十分にあれば、血液中のブドウ糖を多く取り込め、血糖値を安定して下げておくことができる。つまり筋肉はブドウ糖の貯蔵庫なのだ。
逆に加齢や運動不足などで、筋肉が少なくなると、血液中のブドウ糖を取り込めなくなり、血液中に余剰なブドウ糖が多くなりがちになる。そのため、血糖値コントロールには「かんたん体操」による筋肉の鍛錬が柱になると宮本さんはいう。また、「かんたん体操」には、昨今話題のサルコペニア(加齢・病気による筋肉量の減少)の予防にもなり、一石二鳥という。
本書では、筋力がついてきて「かんたん体操」がラクにできるようになったら、その次のステップとして行う中級・上級の「かんたん体操」も掲載されている。くわえて、併用して行う「らくらくウォーキング」など、ひと工夫の入った有酸素運動も盛り込まれている。
医師に糖尿病と診断されたが、できるだけ薬に頼らずアクティブに生活を送りたい方には、ぜひチャレンジしてほしいメソッドと言えよう。
(※インスリン注射を受けている、薬を飲んでいる、あるいは合併症のある方は、運動して低血糖などが起こるリスクがあるため、必ず医師に事前相談を。)
【今日の1冊】
『自分で血糖値を下げる! 糖尿病に効く「かんたん体操」』
http://www.yosensha.co.jp/book/b331300.html
(宮本正一著・周東寛監修、本体1,300円+税、洋泉社)
文/鈴木拓也
翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。