文/鈴木拓也

厚生労働省の2022年の調査によれば、認知症患者は約443万人。この数は、徐々に増えており、2030年には500万人を超えると見込まれている。
ひと口に認知症といっても、さまざまな病気が原因としてあり、それは70種以上もあることはあまり知られていない。しかし、罹患者の絶対数が多いことから、認知症=アルツハイマー型認知症という認識が大勢を占める。
また、認知症の研究が進んできたのは、比較的最近のこと。そのため、医療関係者でも、詳しくは知らない人が多いのが現実だ。
それで、もの忘れが頻繁にある高齢者に対し、アルツハイマー型認知症と即断してしまう例が後を絶たない。このような誤解に基づき治療をしても、効果がないばかりか、かえって悪化してしまうこともありえる。
そうした誤解を、「早合点認知症」と呼ぶのは、認知症の専門医である内田直樹医師。内田医師は、著書『早合点認知症』(サンマーク出版 https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=4197-2)の冒頭で、次のように警鐘を鳴らす。
たとえば治療ができる認知症なのに、認知症だから仕方がない。治療法はないと早合点されていたり、ほとんど意味のない予防法が流行ったり、認知症の状態にある人の症状に対し、不適切な対応が行われていたり…… 「早合点認知症」とは、そんな現状に、みなさんに気づいてもらうための造語です。(本書4pより)
本書は、そうした事態を防ぐため、認知症にかかわる様々な情報・知識が盛り込まれている。その一部を今回は紹介しよう。
治りやすい認知症もある
認知障害の症状をもたらす病気は「70種以上」あると述べたが、なかには比較的容易に治療できるものがある。
その1つが、ビタミンB12欠乏症。偏食などでビタミンB12が不足することで、認知症の状態になる。これは、ビタミンB12を補充する治療で症状は改善していく。
同様に、甲状腺機能低下症も認知機能の障害をもたらすが、これは、甲状腺ホルモンを服薬することで回復が可能だ。
こうした病気は、血液検査でわかる。内田医師は、主要な認知症を検討する前に、まずは血液検査をすすめている。
また、高齢者のうつ病も、認知症と早合点されやすい病気だという。うつ病が、認知症の初期状態のことがあったり、うつ病の症状が認知症と似ていたりと、紛らわしい面があるからだ。
これを見分ける方法として、スクリーニング検査がある。ここ1か月、憂鬱になることがよくあったかなどを質問する簡単なもので、くわえて不眠や食欲の変化があれば、うつ病の可能性がある。この場合、精神科や心療内科に相談するのが筋となる。
このほか、せん妄や高齢てんかんなど、認知症と間違われやすい病気は少なくない。周囲の人も、「アルツハイマー型認知症ではないか」と決めつけてしまう前に、ほかの可能性がありうることを、胸に留めおくべきだろう。
スマホを活用して認知症を防ぐ
それでは、アルツハイマー型認知症と最終的に診断された場合、有効な手立てはあるのだろうか?
内田医師は、アリセプト(ドネペジル)など4種類の抗認知症薬を挙げる。いずれも効能は「認知症症状の進行抑制」だが、効果は心もとない。フランスでは、これら4剤は、作用と副作用のバランスが悪いことなどを理由に保険適用外になっている。
最近になって、レケンビ(レカネマブ)という薬が登場した。これは、既存の抗認知症薬と異なり、アルツハイマー病変の一因となるアミロイドβを除去する抗体医薬品という位置づけ。画期的な薬剤であるとともに、薬価の高さ(月約33万円)から、一時話題になった。
もっとも、実質的な効果については未知数。内田医師は、次のように記す。
しかし、認知症の発症や進行を抑える効果はまだ証明されていません。アミロイドβを減少させる点は確認されていますが、それと認知症の改善程度に相関は確認されなかったのです。(本書165pより)
脳出血や脳浮腫といった重篤な副作用の可能性も指摘され、全面的に推奨できるものではないとしている。
現状、薬物療法がさして期待できないということで、予防に注目が集まる。ただ、多くの認知症は老化に伴って起こるものなので、生涯にわたり完璧に予防するのは無理なようだ。
それでも生活習慣の改善によって、発症のリスクは減らせる。内田医師がすすめる方法の1つが、スマホの大活用。ふだん使わない様々な機能やアプリにどんどんチャレンジすることで、脳が鍛えられるというのが、その理由。また、もし認知症の状態になっても、スマホのカレンダー、タイマー、マップといった機能を使うことで、日常生活の支援になる。「未来の自分が困るのを防ぐ備えになる」という意味でも、多機能のスマホは使いこなすようにしよう。
* * *
本書にはこのほか、認知症にかかった場合の法的支援など、役立つ情報が満載。この病気に立ち向かうための、またとない好著に仕上がっている。認知症の知識をアップデートしたい方は、一度読んでみるとよいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『早合点認知症』

定価1540円
サンマーク出版
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。
