文/鈴木拓也

超高齢化社会を迎え、認知症やフレイルなどシニア特有の身心の問題を、予防・改善するという情報が、世の中にはあふれかえっている。
なかでもウェイトを占めるのが、食事(栄養)面のケアだ。例えばフレイルに対しては、十分なたんぱく質とビタミンDやカルシウムが含まれる食事を心がける、認知症に対しては地中海食がおすすめ等々、さまざまだ。
そうした情報が多いせいか、見落とされているのが水の重要性。実は、そうした病の進行には、水分摂取が関係しているという。
そう説くのは、リハビリ型デイサービスのリハプライドを全国展開するリハコンテンツ(株)の代表取締役、山下哲司さん。リハプライドでは、栄養、運動、自然排便にプラスして「水分摂取」の基本ケアでアプローチ。多くの要介護者が、自力歩行ができるようになるなど、目覚ましい回復を見せているという。
何の変哲もない水がどうして効果的なのか?
それについて山下さんは、著書『なぜ水を飲むだけで「認知症」が改善するのか』で詳しく述べている。今回は、そのポイントをかいつまんで紹介しよう。

のどの渇きを感じにくくなるシニア世代

シニアの人体の約5割は水分からなる。これがほんの数%不足するだけで心身に変調をきたし、10%も減れば死に至る。
一方、排泄によって1日に約1.5リットル、汗腺からは汗として、口からは呼気として約1リットルの水分が出ていく。つまり、毎日2.5リットルの水分が失われている計算になる。
その分だけ飲食によって摂取できていれば問題はないのだが、シニアについてはそれが思うようにいかない要因があると、山下さんは説く。その1つが、のどの渇きが感じにくくなるという問題だ。

さらに高齢になると、のどの渇きを感じる脳の部位である「口渇中枢」の機能が低下して、「自分はのどが渇いている」という感覚を察知しにくくなります。つまり、のどが「渇いていない」のではなく、「渇いているかどうかがわからない」という状態になりやすいということ。そのため水分の摂取に対しても無頓着になりやすく、どうしても水分不足になりがちなのです。(本書46pより)

また、加齢によって筋肉の総量が減っていくと、身体の水分量も減る。これは、「身体組織のなかでももっとも水分を蓄積できるのは筋肉で、脂肪の2~2.5倍の水分量を保持できる」から。年齢とともに身体機能が低下するのは、必要量の水分が蓄積できないというのが根本原因としてある。
「だからこそ、高齢者は水をたくさん飲むべきなのです」と、山下さんが力説するのは、一つにはこのためだ。

データが語る認知症と水分の深い関係

山下さんは、「認知症を家族が治す」という勉強会で発表されたデータを、本書でまとめている。それには、認知症患者の水分・栄養の摂取量、それに運動時間や排便回数を増やしていくというケアの結果が記されている。
ケアを行って半年後、80%もの家族が「認知症の症状が消失した、もしくはほとんど消失した」と証言しているという。
山下さんは、症状の劇的な改善にもっとも影響を及ぼしているのが、水分だと結論づけている。

1日の平均水分摂取量を1263ミリリットルから1709ミリリットルと約450ミリリットルも増やしたことが、認知症の症状改善、消失に大きく貢献していることは、このデータからでも十分に見て取れます。(本書65pより)

自立支援介護の第一人者である竹内孝仁教授(国際医療福祉大学大学院)の「十分な水分摂取を行うだけで認知症の高齢者の8割は、その症状が消失し“治る”」という言葉も引き合いに、山下さんは、水の重要性を訴える。
本書では、水のリラックス・ストレス解消効果や便秘解消効果などにも言及。高齢者が抱えやすい健康問題と水との深い関係がよく理解できるようになっている。

目安は1日1.5リットルの摂取

それでは、介護要らずの健康体を維持するために、どれほどの水分を取るべきなのだろうか?
山下さんは、具体的に「1日1.5リットル」という数字を出している。
前述したとおり、毎日およそ2.5リットルの水分が出ていくわけで、これと同量の水分を日々摂取する必要がある。料理の食材から約1リットルは確保できるそうで、足りない分が1.5リットル。季節や心身の状態を見て加減する必要はあるが、おおむねこの分量を飲み物で摂る計算になる。
1.5リットルといえば、2リットル入りペットボトルの四分の三。分割して飲むにしてもそれなりの量だが、純粋に水だけを摂らねばならないわけではないので、ご安心を。

もちろん、飲むのならば「水」がもっとも望ましいのですが、必ずしも水でなくてもかまいません。ジュース、ウーロン茶、コーヒー、紅茶、牛乳など、何でもOKです。唯一、NGなのはアルコール。(本書113pより)

日本酒やウイスキーなどのアルコール飲料がダメなのは、利尿作用が大きいため。とくにビールは、1リットル飲むと利尿作用によって1.1リットルの水分が奪われてしまう。断酒する必要はないが、飲むのなら、それ以上の水を飲むよう心がける。なお、コーヒーや緑茶にも利尿作用はあるが、アルコールほどではないので、気にしなくてもよいという。

*  *  *

本書には、硬水か軟水かなど飲むべき水の選択基準や家族にいる高齢者に水を飲んでもらうコツなど、実践しやすい水の健康法が網羅されている。日頃、水の量が足りないのではと感じている方は、参考にするとよいだろう。

【今日の健康に良い1冊】

『なぜ水を飲むだけで「認知症」が改善するのか』
山下哲司著・竹内孝仁監修
本体1500円+税
KADOKAWA

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文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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