文/鈴木拓也
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ゴルファーの寿命が長い理由
ある医学調査によれば、スウェーデンのゴルファー(約30万人)の平均寿命は、ゴルフをしない同国人より約5年も長かったという。
適度なスポーツは健康に良いとはいうが、ゴルフに関してそこまで差がつくのはなぜなのだろうか?
1つの大きな可能性として「バイオレットライト」を挙げるのは、慶應義塾大学医学部の坪田一男名誉教授だ。
バイオレットライトとは、太陽光に含まれる光の1種。その波長は360~400ナノメーターで、紫外線とブルーライトの間に位置する。子供の近視予防になると話題になっており、聞いたことがあるかもしれない。
この光は、近視予防だけではなく、「うつ病、パーキンソン病、認知症、睡眠障害など、さまざまな病気」の改善効果もあるのではと、坪田名誉教授は著書の『「外にいる時間」があなたの健康寿命を決める』(サンマーク出版 https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=4186-6)で説く。
なぜバイオレットライトは、人の健康にプラスの影響を与えるのだろうか? 今回は、本書をもとに、この光の活用法について紹介しよう。
光が身体に及ぼす意外な影響
人間の目は、光を感知する受容体、いわばセンサーを9つ持っている。このうち4つは、視覚型光受容体といって、外の世界を視覚として感知する働きがある。
残りの5つは、光で活性化はするが、脳内で視覚情報として認知するためのものではない。その役割を、坪田名誉教授は次のように説明している。
健康を維持し、体を整え、外界に適応し、ストレスを緩和し、睡眠を誘導し、危機感と安心感をもたらすなど、視覚情報を介さず直接的に光の情報を使って生存確率を上げるための受容体なのです。(本書55pより)
例えば、その1つであるOPN4はサーカディアンリズム(体内時計)をつかさどり、ブルーの光によって活性化する。夜間にスマホのブルーライトを浴びると覚醒しやすいのは、この受容体が関わっているせいだ。また、マウスの実験では、OPN4を刺激すると記憶力が良くなることがわかっている。
それ以外の非視覚型光受容体もブルーの光で活性化するが、唯一の例外がOPN5。これはバイオレットライトを感知することで活性化する。OPN5は、目や皮膚などのサーカディアンリズムの調整を行うほか、発達期の血管成長を助けたり、体温の調節に関与するのが基本的な役割。そのおかげで、睡眠の質が良くなったり、うつ症状が軽減されるといった健康効果として現れる。
ちなみに近視は、眼球内の血流が悪くなる(虚血)ことで起こるが、OPN5は血流を保持して近視を抑制する。バイオレットライトは、このような仕組みで近視を予防するのである。
1日2時間、日の光のあたる場所にいよう
コロナ禍で世界的にステイホームが推奨された時期、近視やうつ病など健康を害する人が急増した。
坪田名誉教授は、その一因はバイオレットライト不足にあると指摘する。
ステイホームでも、たいがいの人は窓を通して太陽光は浴びていたはず。なのになぜ、バイオレットライトが不足するのか?
実はこのバイオレットライト、ほとんどの窓ガラスを透過しないのだという。近代建築や車の窓ガラスは、紫外線を含めて400ナノメーター以下の光はカットしてしまう。そのため、窓辺で過ごしていてもOPN5は活性化しない。LED電球もこの波長の光は発しないので、終日ステイホームをしていれば、バイオレットライト不足による健康問題が生じるわけだ。
そこで坪田名誉教授が提唱するのが、「おそとぼっこ」。つまり、外に出て日の光を浴びるのが、簡単かつ確実なOPN5活性化法になる。といっても、ゴルファーのように半日も屋外にいる必要はない。「1日2時間がひとつの目安」だという。
デスクワーカーだと、この時間の確保も難しいかもしれない。そこで、1日の間に細かく日に当たる時間を作るよう、いくつかのアドバイスがある。
その1つが、朝起きたら「まず窓を開ける」。悪天候だと難しいが、日が照っているなら大きく窓を開け放って身体を日の光にさらす。OPN5以外の受容体も活性化され、健康に良い1日のスタートを切れる。
また、通勤時はバイオレットライトをたくさん浴びるチャンス。地下通路は避けるなどして、極力日なたのもと、顔を上げ気味に歩く。勤務時も、外部の人とアポイントがあるなら、早めに到着して近辺を散歩する、休憩時間もちょっと外に出てみるなど、いくらでも工夫はできる。坪田名誉教授ご本人は、テラスにデスクを持ち込んで即席のテラスオフィスを設けたという。
休日も、アウトドア活動に親しむなど、バイオレットライトを浴びる機会を増やす。コロナ禍以降、屋外で何かをする機会が減ったという人は、特に意識して外に出るべきだろう。
* * *
これまで多くの健康に関する本を紹介してきたが、本書で説かれているメソッドほどシンプルなものはない。「今年こそ、何か健康にいい習慣を身につけたい」という方は、一読・実践されることをすすめたい。
【今日の健康に良い1冊】
『「外にいる時間」があなたの健康寿命を決める』
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定価1760円
サンマーク出版
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。
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