取材・文/わたなべあや

「認知症」というとアルツハイマー病がよく知られていますが、「認知症」とは病名ではありません。「状態」のことを「認知症」と言うのです。アルツハイマー病以外にもさまざまなタイプの認知症があり、なかには予防や治療できる認知症もあります。

認知症とは何なのか、大阪医療センター 脳卒中内科部長の橋川一雄先生にお話を伺いました。

■さまざまな認知症がある

認知症とは病名ではなく、「状態」のことを表しています。認知症という状態を引き起こす原因疾患によって、アルツハイマー病やレビー小体型認知症(れびーしょうたいがたにんちしょう)、脳血管障害による認知症などの病名がついているのです。

では、そもそも認知症とは何なのでしょうか。

認知症になると、物忘れすることが多くなったり、判断力や決断力が低下したりして、電車のICカードなどの使い方が分からず乗車できない、よく知っている道なのに迷うといったことが起こります。そのため、介助が必要な状態になるのです。

この場合の介助とは身体的介助ではなく、たとえ身体が動いても介助なしでは社会生活を送れないということを意味します。従って、認知症であるかどうかは社会構造の変化に伴って変わるのです。現代社会は複雑になり、日常生活にも多くの約束事や手順が必要となったため認知症の割合が増加してきました。

そしてひとくちに認知症と言っても、たとえば……、

・アルツハイマー病
・脳梗塞など脳血管障害による血管性認知症
・レビー小体型認知症
・パーキンソン病に合併する認知症
・自分の欲求を抑制できなくなる前頭側頭型認知症

などの代表的疾患があります。これらはゆっくり進行し、現段階では根本的治療法がない疾患です。

ところが、

・慢性硬膜下血腫
・甲状腺機能低下症
・正常圧水頭症

なども認知症に似た症状を示すことがあります。これらの疾患は、認知機能が低下しても原因になっている病気を治療することで、症状が劇的に改善することがあるのです。

症状からはどの疾患なのか区別することが困難な場合が多く、広い意味ではこれら治せる疾患も認知症に入れることができます。このような認知症は、《治せる認知症》と言っていいでしょう。認知症を疑ったら根本治療がないとあきらめず、まず専門医を受診することをお勧めします。

■アルツハイマー病と双璧をなす血管性認知症

認知症といえばアルツハイマー病というくらいアルツハイマー病はよく知られていますが、実は、その次に患者さんが多く、アルツハイマー病と双璧をなすのが血管性認知症です。

アルツハイマー病の場合、まず物忘れをすることが多くなるのですが、自分が分からないことを気づかれないようにする言動「取り繕い」をすることがあります。今日の曜日を聞くと、「仕事もないから毎日が日曜で、日付なんか気にしてない。それって当然じゃない?」という返事が返ってきます。そして、家族の人に向かって同意を求めるのも特徴のひとつです。

脳血管障害による認知症の場合、アルツハイマー病患者に見られる、謙虚とも言えるような「取り繕い」は多くはありません。むしろプライドが高くなり、怒りっぽい、頑固といった面が前面にぐっと出てきます。また遂行機能障害といって、たとえば新しいテレビの操作方法が分からないと、覚えようとしない、もういいと言って諦めてしまうこともあります。面倒くさいという言い訳をして、出来ないことを自ら認めないことが多いのです。また、片麻痺などの身体的要因から介助が必要となっているときは、認知機能低下に注目されず、周囲から「こんなものだ」と思われていることも多くあります。

症状は、脳の血管が詰まった場所によって異なります。障害の場所によって出来ることと出来ないことが混在していることから、以前はまだら呆けなどと言われてきました。

アルツハイマー病と脳血管障害による認知症は、いったん発症すると今のところ治す手だてがありません。アルツハイマー病など一部の疾患では進行を多少遅らせる薬はありますが、治すことはできないのです。特に、進行してしまった認知症の治療は、将来的にも極めて難しいと考えられています。

■生活習慣病をコントロールして認知症を予防しよう

「治る認知症」を除けば、進行してしまった認知症の治療は困難です。そのため、認知症を予防しようという動きが、研究者の間で主流になっています。

従来、アルツハイマー病などの疾患は、脳に異常蛋白が溜まるために起こるとされ、糖尿病、高血圧症や高コレステロール血症などの、生活習慣病が関与する血管性認知症とは異なると考えられてきました。しかし、最近の研究では、糖尿病などの生活習慣病がある人は、アルツハイマー病になりやすいことが分かっています。つまり、認知症の2大疾患である、アルツハイマー病と血管性認知症の両者に生活習慣病が関わっているのです。

アルツハイマー病と脳梗塞などの脳血管障害による認知症。生活習慣病は、2つの認知症に共通のリスクです。つまり、生活習慣病をコントロールすると、両者になりにくくなることになります。動脈硬化や糖尿病、高血圧、メタボ、腎臓病などの生活習慣病の治療を受けることが、今できる認知症の発症あるいは進行の予防手段と言えるのです。

談/橋川一雄(はしかわ かずお)
国立病院機構大阪医療センター 脳卒中内科科長兼地域連携推進部長。昭和28年大阪生まれ。昭和51年に大阪大学工学部を卒業後、翌52年に大阪大学医学部に入学。昭和58年に大阪大学医学部を卒業後、同大学附属病院や市立柏原病院で初期研修を受け、昭和61年から大阪大学第一内科・放射線部にて脳卒中の臨床および脳血流SPECTを使った脳循環代謝の研究に従事。平成13年7月に京都大学大学院高次脳機能総合研究センターの助教授となり、福山秀直教授の下でSPECTやPETによる脳機能の研究を行った。ここでは主に認知症を対象としていた。平成18年に国立病院機構大阪南医療センターで脳卒中の臨床に復帰し、平成24年には脳卒中センター部長に就任。平成26年に国立病院機構大阪医療センターに移動となり、現職。元々脳卒中の脳循環代謝が専門領域であったが、最近では認知症にも範囲を広げて臨床に当たっている。

取材・文/わたなべあや
1964年、大阪生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。2015年からフリーランスライター。最新の医療情報からQOL(Quality of life)を高めるための予防医療情報まで幅広くお届けします。趣味と実益を兼ねて、お取り寄せ&手土産グルメも執筆。

 

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