文/鈴木拓也

写真はイメージです。

昔から「芸術家は長生き」と言われるが、狂言師もその例に漏れない。

60代で現役は当たり前。70代、80代でも元気に活躍している人は少なくない。

例えば、茂山千作(四世)氏は、93歳で逝去する半年前まで、その父の茂山千作(三世)氏も86歳まで現役であった。3歳でデビューした野村万作氏に至っては、芸歴90年にして、今なお舞台に臨む。

狂言師にご長寿が多いのは、「伝統的な表現技法に基づいた所作や生活習慣が影響しているから」と説くのは、茂山千三郎氏。

茂山氏によれば、狂言師独特の呼吸法、姿勢、歩き方が、実は健康維持に役立っているという。そして、これらを「日本発!の新しい健康メソッド」として体系化したのが「和儀(わぎ)」だ。

茂山氏は、出張講座などで和儀を教えるほか、著書『カラダが20歳若返る! 和儀 医師もみとめた狂言トレーニング』(秀和システム https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798073071.html)を上梓。この健康法の普及に、精力的に努めている。

今回は、本書より和儀のエッセンスを紹介しよう。

一番の基礎となるのは呼吸

和儀の三大要素は、呼吸、構え、摺り足だという。

なかでも呼吸は基礎となる要素で、これが最初の一歩となる。

その仕方の詳細は本書に譲るが、みぞおちの丹田に意識を集中する深い腹式呼吸を行う。

呼吸といえば、大概の人は「吸って、吐いて」という順番を意識するが、この呼吸は吐くことから始まる。

胸は閉じず、視線は正面を向き、背中にくっつくようなイメージで腹を凹ませ、口から息を吐き切る。このとき、決して力は入れないのがポイント。吐き切ったら、腹と背中を膨らませながら、鼻から息を吸う。これを繰り返す。

これだけで、副交感神経が優位となってリラックスできるが、効果はそれだけではない。茂山氏は、次のように記している。

和儀に限らず、深い呼吸は心と体を結びつけ、瞑想状態に近い集中力を高める効果があります。精神的なストレスが軽減されると同時に、注意力が向上するため、仕事や学習の効率もアップします。(本書41pより)

身体の軸を意識した姿勢をとる

茂山氏は、猫背や反り腰など、姿勢の悪い人が増えていることを指摘する。

対して、狂言の姿勢(構え)は、「身体の軸」を意識するもので、これが本来の自然な姿勢だとする。

身体の軸とは、百会(ひゃくえ)と呼ばれる頭頂から、体の中心を通って会陰に至る直線を指す。

壁にもたれ、かかと、尻、肩甲骨を壁につけた状態で、百会がまっすぐ上に向いている姿勢をとってみよう。これで、身体の軸が見いだせるそうだ。ここからさらに、身体の軸は垂直にしたまま、ひざを軽く曲げて腰を落とす。また、胸を開き、顎の位置を意識する。これが正しい姿勢となる。この姿勢で動作をするときは、丹田も意識する。

この姿勢の効用は多岐にわたる。例えば、

腰をまっすぐに落とすことで、腰椎が自然な位置に保たれ、骨盤底筋がきたえられ、腰痛の予防や改善に効果があります。さらに、この姿勢は下半身の筋肉、とくに大腿四頭筋やハムストリングス、臀筋を鍛える効果があります。基礎代謝の向上や脂肪燃焼にも寄与します。(本書56pより)

この姿勢と前節の呼吸を組み合わせることで、健康状態の改善が期待できる。

全身の健康状態が向上する摺り足

三大要素の最後は摺り足だが、これは、足を高く上げない、滑らせるような歩行のこと。

現代人の歩き方は、足の各部に大きな衝撃が加わり、関節・筋肉に余計な負担がかかるものだという。このため、関節炎や軟骨の摩耗による慢性痛、ときには足首の捻挫も引き起こしやすくなる。

逆に摺り足は、そうしたリスクとは無縁。それだけでなく、下半身が自然と鍛錬され、肌の若さを保つ効果などが挙げられている。

本書には、解説動画へのリンクも含め、摺り足のやり方が詳しく説明されている。基本的なところをざっくりまとめるとすれば、まず正しい姿勢を保ち、身体の重心を丹田に置く。床に直線をイメージし、その線を踏むことなく両足の親指がこすれる程度にまっすぐ左右の足を前に出す。このとき床から足を離さず、体が先に行き、足が後からついてくるイメージで歩く。

習慣づければ、骨盤の位置が正しく保たれ、内臓が本来の位置に安定し、消化・排泄がスムーズになって全身の健康状態が向上するそうだ。

現代的な生活に慣れ切った我々にとって、三大要素をマスターするのは少し難しいかもしれない。だがそれだけに、健康面で得られるものは大きい。興味が湧いたなら一読され、実践してみるといいだろう。

【今日の健康に良い1冊】
『カラダが20歳若返る! 和儀 医師もみとめた狂言トレーニング』

茂山千三郎著
定価1540円
秀和システム

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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