文/鈴木拓也
身体に過度な負担をかける習慣の正体
年を重ねると増えてくる、ちょっとした不調。
例えば、肩がこる、腕が上がらない、腰痛がつらい、眠りが浅い、イライラしやすいなど。
方々の医療機関で受診したり、いろいろなセルフケアを試しても改善せず、ずっとこの症状に悩まされるのかと途方に暮れる人は少なくない。
だが、もしかするとその原因は、「脳の勘違い」にあるかもしれない。こう説くのは、木野村朱美さん。
木野村さんは、身体調整技法「アレクサンダー・ テクニーク」の日本における第一人者。これまで約1万人の身体の不調を改善してきた、その道の大ベテランだ。
耳慣れない方も多いかもしれないが、この技法は、身体の無駄なクセ・緊張に気づき、無駄な力を解いて、本来あるべき姿勢・動作を導くというもの。海外では、一般の人の不調改善のみならず、著名な俳優や音楽家のパフォーマンス向上にも応用されている伝統あるメソッドだという。
では、「脳の勘違い」とは何か? 木野村さんは、最新の著書『「調子いい!」がずーっと続くカラダの使い方帖』(日東書院本社)で、次のように記している。
私たちはふだん、自分の動きを意識することはなく、ほぼ無意識のうちにカラダを動かしています。しかし、実際には自分のカラダの機能や役割、位置について、意外にたくさんの勘違いをしていて、それが筋肉や関節に過度な負担をかけてしまっています。(本書10pより)
本書には、勘違いにもとづく無駄ながんばりについて、陽子さんの例が載っている。架空の人物だが、なにかしら当てはまる人は多いだろう。
腕の「本当のつけ根」を意識する
先の例で陽子さんは、「腕のつけ根は肩だと思っている」とある。大半の方もそう思っているかもしれないが、実は違う。下のイラストをご覧のとおり、胸骨の上を始点に身体前面の中心から始まっているのだ。
にもかかわらず、肩から先が腕だという「脳の勘違い」があると、腕を動かす際に「鎖骨が動かないように肩まわりの筋肉を力ませて固め、動かそうとすると痛い首、肩、腕になって」しまう。
この勘違いを修正するレッスンを、木野村さんは教えている。さっそくやってみよう。
本当のつけ根を意識しながら肩を上下前後に動かす。胸骨を支点に肩が動いているのを感じたら、今度はわざと肩から腕だと思って動かして、違いを感じてみる。何度かくり返して脳にインプットする。(本書37pより)
これだけで、高い所にあるものに手が届きやすくなり、洗濯物を干すとか、窓拭きをするといった動作も、疲れることなくたやすく行えるようになっているはずだ。
シンプルな方法で深い呼吸を身につける
人は、1日に約2万回も呼吸をしているが、現代人は呼吸が浅いとは、よく言われる話。体内への酸素吸入量が不足すると、疲労感、だるさ、イライラ、手足の冷えなど、さまざまな問題が起こる可能性が出てくる。
これも「脳の勘違い」が原因のことがあるという。先に読み進める前に、ご自身の肺の大きさがどれくらいか想像してみよう。
もしかすると両胸のすぐ内側にあって、ぶどう一房より大きいくらいと思った人もいるかもしれない。しかし、実際は肋骨と背骨に囲まれた空間(胸郭)いっぱいに広がっている。肺の上は鎖骨より上まであり、両肺合わせ 6リットル(ペットボトル3本分)もの酸素を取り入れることができる。
本書では、この勘違いを修正する方法も紹介されている。
1. 頭はふんわりと背骨の上にのせる
2. 肋骨が動き、カラダの厚みと幅が狭くなっていくのを感じながら、ゆっくり鼻から吐く
3. 肋骨が動き、カラダの厚みと幅が広くなっていくのを感じながら、ゆっくり鼻から吸って、肋骨の内側、上下前後いっぱいに、背中まで空気を入れる(本書56pより)
ふだん起きているときだけでなく、寝る前もこの呼吸をやってみよう。やがて、脳の勘違いが修正され、深い呼吸が当たり前になってくると、自律神経も整い、イライラが減り、集中力が増してくることを実感するだろう。
このように、「アレクサンダー・ テクニーク」は、整体法やヨガといった身体の動きとはまた違ったアプローチで、不調を改善していく。いろいろなセルフケアをやってみたけれど、効果が見えなかった方は特に、本書を読んで実践することをすすめたい。
本書内イラスト:梶浦ゆみこ
【今日の健康に良い1冊】
『「調子いい!」がずーっと続くカラダの使い方帖』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。