文/鈴木拓也
20年以上連れ添った夫婦が離婚する、いわゆる「熟年離婚」が増えている。
厚労省の調査では、2020年には全離婚件数に占める熟年離婚の割合は5組に1組と、過去最高の割合に及んだという。
増えた理由として、女性の社会進出など複数の要因が背景にあるが、見過ごせないのは夫婦間のコミュニケーションのまずさが発端となるものだ。
ひところ、「夫源病」という言葉が流行したが、夫の言動が潜在的な離婚原因となる事例は少なくない。夫の言い分もあろうが、言葉づかいの配慮のあるなしが、夫婦関係を左右するのは間違いない。
その「配慮」のコツを、書籍『お父さんのための言いかえ図鑑 家族関係がすっきりポジティブに変わる』(笠間書院 https://shop.kasamashoin.jp/bd/isbn/9784305710116/)にまとめたのは、一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構の代表理事、大野萌子さんだ。
大野さんは本書の冒頭で、夫婦でも「言葉にしなければわかりあえない」という認識は大前提と語る。
そこを疎かにしてしまいがちな男性諸氏には痛い話だが、今からでもリカバリーするのは遅くはない。そのコツをいくつか紹介しよう。
妻を全否定する「いつも〇〇だ」表現
本書は、夫の問題発言を、どう言いかえればいいのか、具体的に指南する構成となっている。
例えば、
妻:あ、エコバッグ持ってくるのを忘れた!!
夫:お前、いつも忘れ物ばっかりしてるよね。うっかりしすぎじゃないの。
(本書32pより)
こうした言い方に心当たりがあるのなら要注意。というか、すぐに改めた方がいい。この「いつも〇〇だ」表現は、「相手のすべてを否定するような印象」を与えてしまう、最悪のネガティブワードだからだ。
では、どう言えば好ましいのか。大野さんは、以下のようにアドバイスする。
「次は忘れないように、買い物に出るときには声かけるね」など、相手を責めるのではなく、自分も協力するよという姿勢を見せることで、同じように忘れ物を指摘しても、印象はがらりと違ってきますよね。(本書35pより)
夫としては、忘れ物の多さが気になっていて、それを改善してほしいとの思いがあるはず。ならば、なじるような口調でなく、どうすれば忘れ物を減らせるかを一緒に考える姿勢が大事になる。この場合、「声かけるね」という提案によって、妻の側も素直に聞き入れる気持ちになるわけだ。
妻が愚痴るのは、まず共感が欲しいから
共働き世帯では、仕事にからんだ話が、ミスコミュニケーションの火種になることもある。
仕事から疲れて帰ってきた夫に、妻が愚痴をこぼしてきたら、どう対応すべきだろうか。以下は、その悪い例。
妻:パートの人手が足りなくて、すっごく忙しいの。もっと人を増やしてくれたらいいのに……。
夫:そんなに大変で嫌なら、辞めればいいだろ。
(本書194pより)
大野さんは、夫のこの発言のいちばんの問題は、「言葉と気持ちが一致してない」ことだと指摘する。この場合、夫の気持ち(本心)は、「今、疲れているからその話は聞きたくない」となる。しかし代わりに、助言ともいえないつっけんどんな返答をして、妻の不興を買っている。
また、妻は、職場の問題に対して、夫からの解決策を期待しているわけではない点にも注意したい。実は、求めているのは夫の共感だけなのである。
ふさわしい受け答えとしては、「忙しくて大変なんだね」と、まずは妻への共感の気持ち表す。すると、妻は話を続けるだろうから、タイミングを見計らってアドバイスをするのはOKだ。
もし、その余裕がないのであれば、「ごめんね。今日は疲れているから、今は詳しくは聞けそうもないかな」と本心を正直に打ち明ける。このように大野さんは説く。
「ザ・昭和のお父さん」では二度と相談されない
本書は、子どもとのコミュニケーションについても1章割いている。
例えば、将来の進路に関して話し合いになったとき、次のような会話になっていないだろうか。
子:俺、学校を出たら、ゲームデザイナーになろうと思うんだ。
父:お前は何もわかってないな。世の中そんなに甘くないよ。安定している公務員がいちばんだよ。
(本書164pより)
大野さんが、「ザ・昭和のお父さん」とするこの対応がなぜ問題なのかは、親が若い頃の固定観念に基づいて全否定するからだ。これでは、二度と父親に相談してこなくなるだろう。
ここは、まずいったん受け止め、「どうしてそれがやりたいの?」などと、掘り下げるのが大事。
仮に現実味のない夢物語であっても、突き放すのはNG。「なかなか稼ぐのが大変な仕事らしいよ」というふうに、現実的な側面を見せよう。その上で、多少とも可能性がありそうなら、「じゃあ、とりあえず一緒にゲームショーに行ってどんな仕事か見てみようか」といった感じで、前向きに関わる。これだと親子の関係も上向き、悪いことはない。
上の例に限らず、父が子に接するときは、上から目線で相手をコントロールする言動を取りがち。大野さんは、それでは反発を呼ぶだけで、まず子どもとリアルに向き合って、話を聞くことが重要だとする。
* * *
もし、妻がどことなく冷淡で、会話も素っ気ないと思うなら、ふだんどんな言葉を発していたか考えてみるべきかもしれない。もしかすると、夫の「不適切な」一言が積み重って、相手をかたくなにさせている可能性がある。思い当たる節があれば、本書を一読され、改めるべきところは改めてはいかがだろうか。
【今日の暮らしに役立つ1冊】
『お父さんのための言いかえ図鑑 家族関係がすっきりポジティブに変わる』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。