
2025年4月から、65歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長制度)の義務化と、「高年齢雇用継続給付」の減額が実施される。
「高年齢雇用継続給付」とは、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける、60歳以上65歳未満の人が受けられる条件付きの給付金だ。
2025年3月31日以前なら、15%を限度として支給されるが、4月1日以降の場合、10%に減額される。
直樹さん(61歳)は「僕は58歳のときに娘が生まれました。僕のように定年間際に親になる人もいるだろうから、この制度の改正で予定が変わる人も多いと思う。子供は可愛いけれど、お金はかかりますからね」という。
再雇用は「会社に捧げた人生」の答え合わせ
直樹さんは現在、住宅関連会社の営業部で働いている。22歳で大学を卒業してから、38年間勤務し、60歳で定年退職した後、再雇用の道を選んだのだ。
「数年前まで、うちの会社は再雇用された人は、契約書の精査などをする部署に配属されていました。明らかに責任がない楽な仕事を与えられ、大幅に目減りする給料を得て、5年間座っているだけという状態になる。貢献した社員に“ゆっくり働いてください”という会社の配慮だとはわかるのですが、あの状況はいじめともいえる状態だと思いますよ」
直樹さん自身も、再雇用された社員に軽蔑の眼差しを向けたことがある。
「当時、営業部で役員候補だった先輩が、子会社の取締役にもなれずに、“あの部屋”に配属されることになったんです。先輩は、会社の金を私用に使って、女性がいる店に行っていました。さらに、その先のサービスを提供するお店にも行っているという噂もあった。抜群の売り上げを上げており、リーダーシップもあったと思いますが、“定年下剋上”はできなかった」
そんな彼に、「はぁ、あそこの部屋に入りましたか」という視線を向けたという。
「いずれ自分も歩く道だと、50歳当時の自分はわからなかった。若いというのは傲慢なものです。人間は死ぬまで学び続けなければいけない」
その後、人手不足の関係もあり、その状況は改善され、それまで仕事をしていた部署で定年後も働き続けられるようになった。
「でも、会社はよく見ている。元の部署に配属されるのは、朗らかで柔軟性があり、寛容な人ばかり。プライドが高かったり、性格に問題がある人は、“あの部屋”に送られる。再雇用は“会社に捧げた人生”の答え合わせのようなものだと感じます」
直樹さんは幸いにも、現役時代を長く過ごした営業部に配属されることになった。
「僕は大学の工学部を卒業して、地方支社に5年、設計に5年、営業に5年、資材調達に5年、広報部に5年いて、最後に営業に配属されました。やはり、営業が水に合っていましたし、お客様と直接話すことはとてもやりがいがありました。部下の“やらかし”のフォローをするのも血が騒ぎましたし、とにかく仕事が好きだったんです」
当然のように出世して、部長として定年を迎えた。部下から慕われ、頼りにされている実感はあった。
「役員になれると言われたこともあったのですが、僕は結婚のタイミングを逃して、ずっと独身だったんです。それがネックになったみたいです。でも一人で生きるには十分なお金もあるし、60歳定年で華々しく送られて会社を去り、現役時代とは関係ない仕事をしようと思っていたんです」
【まさかの再雇用は、彼女の妊娠がわかったから……次のページに続きます】
