文/鈴木拓也

写真はイメージです。

現代は「大老害時代」

最近、「老害」という言葉をよく聞くようになった。

本来の辞書的な意味は、組織のトップが高齢化しても地位を固守し、その弊害が起きること。近年、その意味が拡大し、年上が年下に身勝手な言動をして、迷惑をかけること全般を指すようになった。

ところで、老害の張本人はごく一部の人で、性格的なものと考えがちだ。しかし実は、誰でも老害を起こしうると言うのは、加藤プラチナクリニックの加藤俊徳院長。

加藤院長は、著書『老害脳 最新の脳科学でわかった「老害」になる人 ならない人』(ディスカヴァー・トゥエンティワン https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-3096-8)で、老害は脳の働きの衰えが原因だとする。

人間の脳は、加齢とともに衰えていくが、生活習慣による衰えもある。例えば、リモートワークが近年普及したが、そのせいで対面コミュニケーションが減り、脳の衰えが加速している人が増加している。ほかにも様々な要因があって、現代は「大老害時代」なのだという。

もしかすると、あなたも老害予備軍かもしれない。例えば、部下の発言になぜかいらいらするとか、新しい業務にチャレンジするのが億劫だったりすることはないだろうか? 

イエスなら、老害脳となりかけている可能性がある。そして、その防止策も本書で説かれている。

めんどくさがりも老害の始まり

加藤院長によれば、人間の脳は、その役割に応じて大きく8つのエリアに分かれるという。

それらのエリアを「脳番地」と呼び、思考系脳番地、感情系脳番地、記憶系脳番地などと名前がついている。

例えば、思考系脳番地は、物事を考えて判断するなど、高度な思考機能を司る。感情系脳番地だと、喜怒哀楽や好き嫌いの感情を生み出すほか、他人の感情を感じることもできる。このように脳は、脳番地ごとに分担してそれぞれの機能を果たしている。

脳が衰えるといっても、すべての脳番地が一斉に衰えるわけでなく、大抵は特定の脳番地から衰え始め、固有の特徴が現れる。例えば、思考系や感情系の脳番地が衰えてくると、何か課題に直面した時に、「めんどくさい」と感じやすくなる。

そのままにしておくとどうなるか? 加藤院長は次のように記している。

「めんどくさい!」を連発して、そのまま何も行動しなければ、脳がサボり、固着することだけを好むようになります。すると、何でも自分の考えだけで判断を下すようになり、新しい物事について調べたり、疑った視点で思考を深めたりするようなプロセスをおっくうと感じるようになります。これは、ワーキングメモリーの劣化を示すサインです。(本書160pより)

やがて、職場で部下が提案してきた企画に否定的になったり、感情的で怒りっぽくなるなど、老害として顕在化する。

加藤院長は、脳の老化は「55歳から強まり、65歳ぐらいで急に加速」すると言う。さらに、それ以前の年代で、脳の老化はすでに始まっているとも。

では、処置なしかというと、そんなことはない。加藤院長は、脳番地別に脳の老化を遅らせる方法を記している。

例えば、思考系脳番地なら、新しいことに出合ったなかで、ちょっとでも関心が湧いたものがあれば、それに注目。もう少し深く突き詰めてみることが、すすめられている。それで、結局は飽きてしまっても構わないそうだ。

感情系脳番地については、ちょっと意外な方法がある。それは自分で自分をほめることだ。

まずは自分で、自分のいいところを10個リストアップしてみましょう。可能ならさらに10個挙げてみましょう。そして、定期的に振り返りながら自分をほめてみます。
その際のポイントは、すでに完全に終わった実績、10割完了したことではなく、8~9割はうまく行っているがまだ完成を見ていない内容をできるだけ入れることです。
過去の栄光を振り返るだけではなく、未完成ながらもよくここまで来た、あと少し頑張ろう、残りも必ずできる……と思えれば、さらに学びを受け入れ、脳を若く保つことができるはずです。(本書194~195pより)

また、感情系脳番地の老化に限らず、質の良い睡眠をとることが強く推奨されている。今の日本人の働き盛りは、約4割が睡眠不足というデータがあるそうで、これが老害脳さらには認知症発症のリスクも増す。そこで、「無呼吸のない良質な8時間睡眠を取る」ようアドバイスがなされている。

* * *

本書には、上で紹介した内容のほか、老害脳の人からの攻撃をうまくかわすテクニックなど、老害が蔓延する今を生き抜くための処方箋が詰まっている。自分の老害化を恐れている人も、誰かからの老害に悩む人にも役立つ1冊として、一読をすすめたい。

【今日の健康に良い1冊】
『老害脳 最新の脳科学でわかった「老害」になる人 ならない人』

加藤俊徳著
定価1485円
ディスカヴァー・トゥエンティワン

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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