文/鈴木拓也
叱られた犬は反省するのか
日本では縄文時代から飼育され、猫と並んで最もなじみの深いペットである「犬」。
ただ、存在が身近すぎるがゆえ、学術的な研究はあまりなされず、その習性についてはもっぱら人間の主観で語られてきた。
しかし、今世紀に入って研究が一気に進展。犬に関する様々なことが、科学的に解明されている。
また、それに伴って今まで常識とされてきたことが、いくつも覆されてもいる。例えば、飼い主に粗相を叱られると、犬はうなだれて「反省する」という「常識」。これは研究の結果、誤りであることがわかっている(ただし恐怖心は感じている)。
こうした犬に関する新常識を、書籍『犬にウケる最新知識』(ワニブックス【PLUS】新書)としてまとめたのは、鹿野正顕さん。「人と犬の関係学」の専門家として、飼い主に役立つ知識を数多く提供している。
犬も嫉妬するのか、しないのか
2頭の犬を飼っていて、片方の犬ばかりをかまっていると、もう一方の犬が、飼い主に怒ったように吠える。
これは、もしかして嫉妬されているのだろうか?
それとも、飼い主の思い込み?
実は、「犬も嫉妬する」が正解。
鹿野さんは本書で、米国で行われた研究を紹介している。それは、13頭の犬を対象としたもので、「模型の犬がおやつをもらう」のを見た一部の犬は、嫉妬の感情を司っている脳の偏桃体が活発に働いたという。対して、「おやつがバケツに入れられる」のを見たときは、脳内の変化はなかった。また、オークランド大学の研究では、飼い主が精巧な犬のぬいぐるみをかまうと、離れたところでつながれた飼い犬は、主人へと近づこうとリードを強く引っ張った。しかし、「フリース製の丸い筒」が相手だと、リードを引っ張る力は弱まったという。
このことから鹿野さんは、「ライバルとなる相手と飼い主が交流」していると、犬は嫉妬の感情を持つとし、次のアドバイスを記している。
多頭飼いの場合、一緒に遊んだり散歩をしたり、ひとまとめにしてしまうことがありますが、個々の犬にとっては飼い主さんを独占したい気持ちが強いのです。時間に余裕のあるときは、それぞれの犬と向き合う時間を設け、嫉妬心を和らげてあげましょう。(本書31pより)
「お預け」で犬を叱るのは危険
犬の食事に関しても、最近はさまざまな知見が得られている。
鹿野さんが一例に挙げるのは「お預け」。しつけの一環として、そうする飼い主は多いかもしれないが、実はNG行為だという。特に、飼い主からOKが出る前に食べようとした犬を𠮟りつけるのは、「非常に危険」であるとも。その理由を次のように解説する。
犬はいいことと悪いことの判断ができません。飼い主に叱られても反省するのではなく、恐怖心を感じるだけです。「目の前に置いてある食べものは食べられないのではないか」と不安になり、ときには餌を守ろうとして飼い主に攻撃的になる「食物関連性攻撃行動」に発展してしまうこともあります。(本書95pより)
逆に、犬に好きなものを食べ放題にさせることも考えもの。甘やかして育てられた犬は、「肥満の割合が高い」という研究結果もあり、人と同様に犬の肥満も万病の元だ。犬は、太らないように自制するという考えは働かないので、飼い主が食生活をコントロールする必要がある。
外が見える状態での留守番はNG
本書では、犬の「留守番」についても1章割かれていて興味深い。
そこで紹介されている、犬の留守番に関する日米比較調査では、日本の飼い主の方が留守番をさせる頻度が高く、かつ留守番の時間も長いという。
飼い主の側にもやんごとなき事情はあるにせよ、社会性が高い犬にとって長時間の留守番は、「大きなストレス」であると、鹿野さんは指摘する。留守番が続けば、問題行動につながる恐れがあり、乏しい刺激のせいで「脳の神経細胞(ニューロン)が死んでしまう」リスクもあるとしている。
また、飼い主が、「退屈しのぎになる」とよかれと思ってしていることが、逆効果になることも。それは、カーテンを開け放して、外が見える状態で留守番をさせること。「これは完全にNG」で、理由を次のように説明している。
犬はなわばり意識が強いため、自分のなわばりである家の近くに他の犬や見知らぬ人が近づくと、警戒して吠えることで近づかせないようにします。
外を歩いている犬や人はただ通り過ぎて(勝手にいなくなって)いるだけですが、吠えた当人(愛犬)は「自分が吠えたことで追いやった」と学習するため、再び犬や人が通り過ぎるのを見ると日に日に過剰に吠えるようになってしまうのです。(本書140pより)
それとは逆に、室内のケージやサークルに閉じ込めてしまうと、今度は犬にとっては「ストレスMAX」に。
では、どうすればいいのかといえば、室内のものを誤食しないよう対策を打った上で、狭い場所に閉じ込めないでおく。そのうえで、カーテンを閉めたり、目隠し用のフィルムを窓に貼るなどして、外が見えないようにしておく。さらに、留守中の睡眠時間が増えるよう、事前に運動させることも効果的だという。
本書にはそのほか、犬の散歩、遊び、排泄、健康管理など、エビデンスにもとづく多くの情報が網羅されている。愛犬との幸せな生活のためにも、一読して知識をアップデートしておくといいだろう。
【今日の愛犬家に役立つ1冊】
『犬にウケる最新知識』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。