文/鈴木拓也

写真はイメージです。

足腰が弱くなったり、耳が遠くなるなど、老化をはっきりと自覚するのは、たいがいは高齢者と呼ばれる年代になってからだろう。

しかし、その例外が1つある。

それは目の老化。早ければ40代になると、老眼というかたちで目の老いを認識するようになる。

これがコロナ禍で拍車がかかったと指摘するのは、二本松眼科病院の平松類副院長。外出を控え、スマホやパソコンに触れる機会が急増したことで、目の老化が一気に進んだ高齢者が増えたという。

もともと人間の目は、近くのものを長時間見つめたり、夜間に明るい光を見ることには適していないそうだ。それが、画面を見続ける生活が続くことで、目の不調が引き起こされ、老化も加速することになる。

「私の患者さんでも、こういう方は結構います」と、平松副院長は著書『名医が教える 新しい目のトリセツ』(エクスナレッジ)で述べている。目の老化は、古くて新しい健康上の課題といえそうだ。

高齢者になると増える目の病気

年をとると、目の不調リスクは老眼に限らない。

平松副院長は本書で、そうした病気をいくつか挙げている。なかでも一番恐ろしいのが、緑内障。これは、視神経が障害されて視野が欠けていき、失明に至ることもある。しかも70歳以上では10人に1人が罹るそうで、決して珍しいものではない。

また、患者数としてより多い病気に、水晶体がにごる白内障がある。こちらは、水晶体を人工のレンズに置き換える手術が普及してきて、前ほど深刻な病気とは思われなくなっている。しかし、手術によって目が元の状態に戻るわけではないと、平松副院長は注意を促す。

もう1つ、60歳以上に多いのが黄斑変性(加齢黄斑変性)。網膜の中心部に出血やむくみが起こって目が見えにくくなる病気だ。これは、別名「目の生活習慣病」といわれ、脂肪の摂取が多くて、野菜嫌いの人が罹りやすいことが知られている。今の60代は、食生活が和食から洋食へと変わってきた世代で、そのせいで患者が増えているという。

「何でもできます」と言う医師はあぶない

不運にも、こうした病気が疑われる場合、まずは眼科で診断を受けることが先決となる。

ただし、眼科医ならどこでもいいわけではないようだ。

平松副院長は、「私は何でもできます」と言うような医師は避けよとアドバイスする。というのも、そうした医師は、「人にまかせられない」という気持ちが強く、苦手な分野も全部引き受けようとするのがその理由。これについて、本書では次のように書かれている。

むしろ「自分はここまでしかできないから」といって、すぐに専門医を紹介してくれるのがよい医者です。
具体的にいえば、町の眼科クリニックなら、大きな病院と連携していて、手術が必要な場合とかは、紹介状を書いてくれるのがよい眼科医です。(本書105pより)

ちなみに、手術もできる眼科医だから優秀とは限らないそうだ。また、「白内障手術をやたらすすめる医者」には要注意だとも。すでに記したように、手術を受けたからといってまったく元の見え方に戻るわけではない。それで、後悔する人は多いそうだ。そのため、白内障については、生活に支障をきたし、手術をしたほうがメリットは大きいかどうかの自己判断が求められる。

セルフケアで目の老化を遅らせる

平松副院長は、目の健康にいい日常的なセルフケアにも触れている。

最も簡単なのは「遠くを見る時間を増やす」。現代人はどうしても手元ばかりを見る時間が長いが、それでは近視や老眼を悪化させてしまう。

そこで、離れた場所に目を向けるようにする。それは、自然の景観でも、高層ビルが林立するビル街でもいいし、夜景でもかまわないそうだ。

また、100円ショップの老眼鏡を使ったセルフケアも紹介されている。使用するのは、度数が+2のもの。普段から眼鏡やコンタクトレンズをしている人は、その上にこの老眼鏡をかける。すると、ピントがまったく合わないぼやっとした視界になる。このとき、目は「ピントを合わせるのをあきらめる」が、これが、(水晶体の周りにある)毛様体筋を緊張から緩め、ピント調節機能が改善されるという。

さらに、食生活においても、目によい栄養を摂ることもすすめられている。

その1つが、「天然のサングラス」といわれる、抗酸化物質のルテインだ。

紫外線が目に入ると、目の細胞を酸化させてダメージを与え、白内障を進行させたりする。この酸化防止に役立つのが、抗酸化物質。ルテインは、まさに「目のためになくてはならない抗酸化物質」で、白内障、緑内障、黄斑変性などの目の病気に対して効果が認められているという。

このルテインを多く含む食材は、主に野菜。ケール、モロヘイヤ、ヨモギが断トツに含有量が多く、その後に小松菜やほうれん草が続く。ただ、ケールやヨモギは毎日たくさんは摂りにくいので、青汁やサプリメントの力も借りる。最初の摂取目標は1日10mg。1~2週間続けたら、週に2~3回の摂取でも不足は解消されるそうだ。

世の中には、目の健康維持に関する情報が数多く出回っているが、古かったり、間違っているものも少なくない。本気で目の健康を考えたければ、本書を一読されることをすすめたい。

【今日の健康に良い1冊】
『名医が教える 新しい目のトリセツ』

平松類著
定価1430円
エクスナレッジ

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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