文/鈴木拓也
変形性膝関節症でひざが痛む例は少ない
少し古いデータになるが、厚生労働省の調査(2013年)によると、ひざ痛を抱えている日本人は約1800万人にものぼるという。
ひざ痛といえば、変形性膝関節症がまっさきに連想される。これは、膝の関節にある軟骨がすり減り、歩行時に膝が痛む病気。特にシニア世代のひざ痛は、たいがいが変形性膝関節症だと思っている人は多い。
しかし実は、完全に変形性膝関節症が原因というケースは、「1~2割程度」しかいない――そう言うのは、柔道整復師で「さかいクリニックグループ」の代表を務める酒井慎太郎さんだ。
これまで多くのひざ痛を癒してきた酒井さんだが、痛みを訴える本人が「自分は変形性膝関節症にちがいない」と思っていても、実は別の要因であった例を多数見てきたという。
もみほぐして頑固なひざ痛を改善
では、何がひざ痛をもたらしているのだろうか?
酒井さんは、著書『図解 今すぐ治せる! 変形性膝関節症・ひざ痛』(Gakken https://hon.gakken.jp/book/2380224900)のなかで、3大原因というものがあり、その1つとして「膝蓋下脂肪体をはじめとしたひざ周りの脂肪体」を挙げる。
膝蓋下脂肪体とは、ひざのお皿の骨などの隙間を埋めるように存在している、軟らかい組織。ここには非常に多くの神経が通っており、この組織が何らかの理由で硬くなると、神経が反応し、膝の痛みとなって現れるという。
その対策として酒井さんは、硬くなった脂肪体をもみほぐすことで、元の軟らかい状態へと戻す「基本のストレッチ」5種類を本書に掲載している。
その1つを、以下紹介しよう。
1. 床に座り、痛いほうのひざ周りに手を添える
床に座り、ひざが痛いほうの脚を前方へ真っすぐに伸ばす(反対側の脚は、軽く曲げるなど楽な姿勢でOK)。脚の力を抜き、両手の指先をひざ周りに添える。
2. 「お皿の骨のすぐ下の内側」を1分間もみほぐす
両手の親指の腹を使って、「お皿の骨(膝蓋骨)のすぐ下の内側」を約1分間もみほぐす。
硬くなった組織(膝蓋下脂肪体)を柔らかくしつつ、お皿の真下のほうに向かって歯みがき粉のチューブを押し出すようなイメージで行うと効果的。
3. 「ひざの真裏の下のほう」を1分間もみほぐす
次に、両手の人差し指、中指、薬指の指先をひざ裏に回し、指の腹を使って「ひざの真裏の下のほう」を約1分間もみほぐす。
「ひざが曲がるところ」をすぐ下の範囲を柔らかくするイメージで行うと効果的。
4. 「お皿の骨のすぐ真上」を1分間もみほぐす
最後に、両手の親指の腹を使って「お皿の骨(膝蓋骨)のすぐ真上」を約1分間もみほぐす。
硬くなった組織(膝蓋上嚢/膝蓋上包)を柔らかくするイメージで行うと効果的。
これらのもみほぐしは、可能な限りひざを伸ばし、1日1~2回の頻度で行う。力加減はイタ気持ちいいくらいを目安とする。
入浴を工夫するだけでもひざ痛は改善
酒井さんは、「基本のストレッチ」やその他のセルフケアだけでなく、生活習慣の見直しについても1章を割いている。
なぜなら大半のひざ痛は、悪い生活習慣の積み重ねで起きており、それを改善しないと「トラブルが再発してしまうのは時間の問題」だからだ。
例えば、階段の昇り降り。シニアの年代に対し、筋力維持のためにエスカレーターやエレベーターに頼らず、極力階段を使うことがよくすすめられるが、ひざ痛があるならむしろ問題となる。この点について酒井さんは、「無理に階段を使う必要はまったくない」とし、他の手段があれば、躊躇せずそちらを使うようアドバイスする。
くわえて、新たに取り入れると、ひざ痛の改善・予防につながる「新生活習慣」も記している。その1つがお風呂の入り方。ひざ痛には、体を温めて血流を良くすることが効果的。そのために、入浴時は39度くらいの湯に約10分浸かることが推奨されている。
また、この際にストレッチを行うとさらにいいとも。やり方は、背筋を伸ばして正座をした体勢を30秒間キープ。その後、両脚を崩し、浴槽内で可能な最大範囲で両ひざを30秒以上伸ばす。
ここで紹介したセルフケアは、本書に盛り込まれているもののごく一部。酒井さんは、最初は1、2種類でもいいので、とにかく始めることが大切であると力説する。どれもやってみると簡単なものだし、習慣化しやすい。長年のひざ痛から解放されたいと願うすべての人に、おすすめしたい1冊である。
本書内イラスト:秋葉あきこ
【今日の健康に良い1冊】
『図解 今すぐ治せる! 変形性膝関節症・ひざ痛』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。