文/鈴木拓也
ある程度の年齢になって、よく見られる身体の不調に、ひざの痛みがある。
医療機関に行くと、「ひざの軟骨のすり減りが原因」などと医者に指摘され、「変形性膝関節症」と診断される。
変形性膝関節症は、シニア層のひざ痛の病気として非常によく知られ、ひざ痛の9割がこの病気のせいらしい。
……という通説を真っ向から否定するのは、さかいクリニックグループの代表・酒井慎太郎さんだ。
確かに、変形性膝関節症でひざが痛む例はあります。
ただし、変形性膝関節症という病気が「100%の原因」となって、ひざが痛むケースは、実のところは9割どころか、1~2割程度しかありません。
と、著書『痛みの元凶を自分で治す ひざ痛ほぐし1分ストレッチ』(徳間書店)で力説する酒井さんだが、では現実にひざが痛むのはなぜか?
それは、「ひざ周りで硬くなったコブと、ひざ下のねじれ、そしてひざの曲がり」の3つが原因だと、酒井さんは同書で説く。いずれもレントゲンに映らない異常であり、既存の検査では見つかりにくい病因だ。酒井さんは、多くのひざ痛患者さんに接してきての経験と、医師らとの意見交換もふまえ、こうした結論を得るに至ったという。
もしかすると、あなたのひざ痛も、上記の「3大元凶」のせいかもしれない。以下、本書をもとに、ひざ痛への対処法を紹介していこう。
セルフチェックで原因を特定
もしあなたが、ひざ痛に悩まされているのなら、以下のセルフチェックをやってみよう。
まず、床に座って脚を前に伸ばす。これができない場合、片足を低めの椅子に預け、ひざをまっすぐに伸ばす。
次に、両手の親指を使って、ひざの前面の3ヶ所―ひざのお皿の骨のすぐ下の内側(やや左)、お皿の骨のすぐ真下、お皿の骨のすぐ真上を順番に押し、痛みや硬さがないかを確認する。
さらに、両手の人差し指~薬指の指先をひざ真裏の下の方に回して同様に押し、痛み、硬さ、腫れがないかを確認する。もう一方の脚も同様に行う。
以上のセルフチェックは、ひざのこぶの有無をチェックするもので、硬いとか痛みがあれば、ひざ痛の真犯人は、そのこぶ(専門用語で膝蓋下脂肪体)である可能性が高い。
本書には、3大元凶の残る要因である、ひざのねじれや曲がりのセルフチェック法もあるが、長くなるので、こぶが原因だとして話を進めよう。原因がわかったら、次はセルフケアによって症状を改善していく。
ストレッチでひざ痛の元凶を解消
酒井さんが編み出したセルフケアは、いずれもストレッチ。「基本のストレッチ」と「追加のストレッチ」が4種類ずつ、合わせて8種類ある。この中から元凶別に合ったストレッチを、「できるだけ毎日実践し、効果が現れやすい3週間後まで続ける」ようアドバイスされている。
ひざのコブが元凶であったなら、実践するのは、「ひざこぶほぐし」、「ひざ押しストレッチ」、「テニスボールストレッチ」の3種類を中心に。その1つ「ひざこぶほぐし」は、次の要領で行う。
1.床に座って脚の力を抜いたら、ひざが痛い方の脚を前方へ真っ直ぐ伸ばし、ひざ周りに両手の指先を添える。
2.両手の親指を使って、お皿の骨(膝蓋骨)のすぐ下の内側を、約1分間もみほぐす。硬くなったコブ(膝蓋下脂肪体)を柔らかくしつつ、お皿の真下のほうに向かって押し流すようなイメージで行うと効果的。
3.2の体勢を取ったまま、今度は両手の人差し指、中指、薬指の指先をひざ裏に回し、約1分間もみほぐす。ひざの真裏の下(ひざが曲がるところのすぐ下)の範囲を柔らかくするイメージで行うと効果的。
4.同じく2の体勢を取ったまま、両手の親指を使って、お皿の骨(膝蓋骨)のすぐ真上を約1分間もみほぐす。
こうしたストレッチ法以外に、痛みが現れにくくなる階段の降り方や、痛みの解消に役立つ歩き方など、日頃の生活習慣でひざの痛みを改善していく方法も載っている。合わせて行っていくと、治りが早くなるはずだ。
* * *
本書の体験談には、整形外科医から変形性膝関節症と診断され、様々な治療・指導を受けてきたものの改善せず、最終的には手術をすすめられた70代の女性の事例がある。この女性は、酒井さんのクリニックに週1回通院しつつ、あとは自宅でストレッチを行ったことで、ひざ痛が見事に解消したという。もしあなたが、医師に診てもらっても良くならないひざ痛を抱えているなら、こうしたストレッチ法を試してみてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『痛みの元凶を自分で治す ひざ痛ほぐし1分ストレッチ』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。