文/鈴木拓也
パソコンや携帯メールの普及で、肉筆で手紙を書くのがめっきり減ったという人は多いのではないだろうか。しかし、だからこそ普段会えない人に手紙をしたためるのは、相手との距離を縮めるよい機会となる。
「字が下手で…」という方でも、昨今の「美文字ブーム」のおかげで、すばやく上達できるテキストがいろいろ刊行されている。今回はそのなかから、大東文化大学文学部書道学科講師の根本知先生が著した『美文字の法則 さっと書く一枚の手紙』(さくら舎)を紹介したい。
本書では、便箋1枚におさまる短めの手紙を文例とし、そこで使われている文字をいくつか取り上げ、上手に書くためのポイントが解説されている。ペン習字帳のように、お手本を見てなぞり書くのではなく、美文字の「法則」を理解してもらうことを主眼とした点に特徴がある。
例えば、最初に出てくるは以下のお礼状。
ここで取り上げる法則は、すべての基本になるという「一画強調」と「一対強調」で、以下の説明がある。
一画強調とは文字通り「一本の画を強調する」ということです。本文の文字でいうところの「景」、「生」、「筆」、「上」などで、「生」でいえば最終画の横線を長く書き、他の横線は控え目に書きます。一対強調とは左払い、右払いのペアを強調するということで、「春」、「大」、「今」など、左右の払いを見えない横線と見立てて強調して書きましょう。
(本書23pより引用)
パソコンのフォントに見慣れると、無意識のうちに真四角の形に収めがちになるが、肉筆ではそれにとらわれず強調をつけるのが、うまく見せるコツだという。
次の例は、簡潔な添え状。
ここでは、多くの漢字の一部として含まれる「口」の処理をどうするかが解説される。注意すべきは下部の接筆(画と画が接する部分)で、「口」や(口に縦線が入った)「中」であれば左側は下に出し、右側は右に出す。「口」の中に横線が入った文字(日、田など)なら、左側・右側ともに下に出す。
もう1つ重要なのが「三」を含む漢字。頭語(拝啓、拝復など)で必ず書くことになるほか、「玉」や「祥」など「三」の出番は意外と多い。
よく見れば、三本の線が単に横に引かれているのではないことに気づくはず。
一本目はやや右上がりに反る、二本目は右上がりにまっすぐ、三本目は右上に上がったあと戻るように反ります。特に最終画のアーチのように反る線は、文字の安定にもつながるので重要です。
(本書29pより引用)
この法則は、「手」、「立」、「上」といった漢字にも生かせるので、知っているのと知らないのとでは、文章の見映えはだいぶ変わるはずである。
本書では、このように美文字を書くための法則やテクニックが、惜しみなく盛り込まれ、大変有用な1冊となっている。練習帳で繰り返し書いてもなかなか上達しないのは、美しく見せる決まり事を知らないまま、なぞっているからにほかならない。まずは本書を熟読され、美文字の法則を把握すれば、より早く上達できるはずである。
【今日の1冊】
『美文字の法則 さっと書く一枚の手紙』
(根本知著、本体1,300円+税、さくら舎)
文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。