独自の割烹料理を生み出して30数年。今も進化する料理人の活力の源は、卵とチーズ、多種類の野菜を欠かさない朝食だ。

【鈴木好次さんの定番・朝めし自慢】

前列左の大皿から時計回りに、クロワッサン、クロワッサンベリー、ミックスリーフとミックスビーンズ、パプリカ、人参のサラダ、ブロッコリー、ゆで卵、トマト、野菜のピクルス(大根・胡瓜・人参・紫カリフラワー)、チーズグラタン(イタリアンパセリ)、果物(島バナナ・苺・蜜柑)、コーヒー(下画像参照)。パンは『グテ』学芸大学店(電話:03・5724・3258)のクロワッサン2種が気に入っている。サラダにはドレッシングをかけずに、それぞれの野菜の持ち味を楽しむ。
環境に優しいコーヒー豆の買い付けと、熟練の焙煎技術が至福の1杯を生み出す
スペシャルティコーヒー「グアテマラ」150g1296円。直営店または公式オンラインストアで購入でき、学芸大学店・用賀店・荻窪店・鎌倉店では50gからの量り売りも可。
ウッドベリーコーヒー学芸大学店/東京都目黒区鷹番3-1-5 電話:03・6712・2164
仕込みが終わった午後2時頃に昼食。外食することもあるが、店で食べる時は蕎麦が定番。愛食は北海道石臼挽き蕎麦粉100%の「プレミアム十割そば」。薬味は大葉と柚子、それに山葵に代えて七味唐辛子で食す。
東京・豊洲市場から戻った後、朝食は午前9時半から10時。「カミさんが用意しておいてくれた朝ごはんを、店でいただきます。私は家では包丁を握ったことがありません。朝も夜もカミさん任せです」と鈴木好次さん。

東急東横線・学芸大学駅から徒歩数分、商店街を抜けた住宅地の一角にその店はある。和食の名店、『割烹すずき』である。

「食材選びに妥協せず、私の眼で選んだその日の最高の食材を、友人宅にいるような寛いだ雰囲気の中で楽しんでもらっています」

という店主の鈴木好次(すずきよしつぐ)さんは、福島県生まれ。15歳で上京し、住み込みで寿司店に入ったのが15年に及ぶ修業の始まりだった。東京の大森、銀座、自由が丘と寿司修業行脚は続き、30歳で独立。学芸大学駅近くの現店舗とは異なる場所で、まずは居酒屋をオープンした。だが、寿司の師匠はいても、和食のその人はいない。

福島から上京し、東京・大森の『美家古寿司』で修業していた17歳の頃。昭和45年元旦、先輩との記念写真で、手前が鈴木さん。「修業時代は人の3倍くらいは働きましたねえ」と、当時を懐かしむ。
34年前、知人からの“学芸大学に美味しい店を作ってほしい”とのひと言で、現在地に割烹料理店を開店。写真は開店間もない『割烹すずき』で長男と一緒に。以来、数多の客がこの暖簾をくぐった。

「寿司屋でしか修業をしていないので、魚の目利きはできますが、料理はできない。それから試行錯誤の日々が始まりました」

まず書物から情報を得て、ジャンルを問わず食べ歩きをして料理のヒントを体得。菓子や惣菜を買った時などは、原材量表示から何を使っているのかを読み取り、添加物だけを除外して試作してみる。さらに和食の師匠ともなってくれたのが、請われて開いていた料理教室の生徒たちだ。

「教室のおかげで、料理の幅が広がった。身近にある旬の食材や残り食材などを使って新しい料理を作り、生徒さんと一緒に食べる。そうして遠慮なく感想や意見を交換しながら、私ならではの割烹料理が完成したように思います」

落ち着いた雰囲気を醸し出す『割烹すずき』。
東京都目黒区鷹番2-16-3 電話:03・3710・3696 営業時間:12時~14時、18時~22時 定休日:月曜 昼夜ともに料理はおまかせコースのみで、要予約。

割烹料理人の朝は洋食

朝は早い。季節を問わず、午前5時起床。6時くらいの電車に乗って、仕入れのために東京・豊洲市場に向かう。その日、納得した食材を仕入れ、移動時間と合わせて往復3時間。9時近くに店に戻り、朝食はそれからだ。

割烹料理人とはいえ、朝食はパンにコーヒーという洋食である。

「カミさんが健康を気遣って、卵やチーズといった動物性たんぱく質に、多種類の野菜や豆類を揃えた朝食を用意してくれます」

昼食は軽く麺類などで腹六分目。腹を満たしすぎると、料理への意欲が半減するからだ。夜は自宅に戻ってから、幸子夫人が作る晩ご飯を食す。これは和・洋・中を問わない。料理人の食生活は、夫人の手に委ねられている。

店近くの碑文谷公園を散歩する。「季節を感じながら歩くことで、新しい料理のアイデアを得ることも度々です」と鈴木さん。1日1万歩が目標で、豊洲市場への往復だけで8000歩近くにはなるという。
2001年、料理教室の生徒の王由由(おうゆうゆう)さんと『おけいこ大好き 和食の12か月』を共著。基本的な和食の他、出汁の取り方や道具類、薬味や調味料なども解説。王さんは生活雑貨の店を経営。エッセイストとしても活躍中だ。

予約時最後に「美味しいものを作ってお待ちしております」

付け台のある檜のカウンターより一段低い板場に立つ鈴木さん。カウンターに座れば、鈴木さんの繊細な包丁捌きを間近で見ることができる。カウンター6席、個室のテーブル席4~5名。昼:6000円、夜:1万3000円、1万5000円~。弟子はとらず、鈴木さんがひとりで切り盛りしている。

『割烹すずき』の料理は、一にも二にも素材に愛情を注ぐことだ。

「愛情は食べる人ではなく、素材にかける。野菜はもちろん、魚や肉も大地の恵みです。それをいただくのだから、その良さを存分に引き出すのが愛情をかけるということ。素材の持ち味や香り、旨味を引き出せれば、組み合わせは自然に浮かぶものです」

それらの素材に出汁を効かせ、過剰な調味料や飾りは入れない。あくまでも素材第一主義である。

鈴木さん渾身の創作料理「大根と車海老とウニのミルフィーユ仕立て」。淡泊な大根と濃厚なウニの組み合わせで、そこに車海老の赤が春の華やぎを添える。大根は加賀の源助大根を使い、フレンチを思わせる盛り付けだ。

その割烹料理を供する空間もまた、独自の美学に貫かれている。

「店ではあるけれど、自分の部屋でお客様をもてなすという気持ちです。だから、店内には好きで集めた骨董品を配し、料理を盛り付ける器は京都などで見つけたアンティークも利用しています」

春の定番「筍と菜の花の炊き合わせ」、木の芽を添えて。菜の花の黄色の蕾が、ひと足早い春の訪れを告げる。料理で季節を先取りするのも、和食ならではの特徴だ。器は京都で見つけた、アンティークの漆椀。

寿司店での修業時代から、休日には美術館などで器や絵画を鑑賞し、感性を磨いた。それが今、進化し続ける料理はもちろん、店の設えにも生かされている。
 
予約の最後に「美味しいものを作ってお待ちしております」──この言葉に“おもてなし”のすべてが込められている。

※この記事は『サライ』本誌2024年4号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆)

 

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