日本におけるフラワーデザインの第一人者。その花への情熱は、自ら育てたハーブや野菜が登場する朝食が支えている。

【網野妙子さんの定番・朝めし自慢】

中央の大皿左から時計回りに、トースト、お庭サラダ(ミニトマト・三つ葉・大葉・水前寺菜
・ヤマモモ・胡瓜・レタス・オレガノ)、ゆで卵、紅茶(スペアミント)。大皿の外左から時計回りに、果物(クラウンメロン)、ホワイトバルサミコ酢、オリーブオイル、ピランソルト、ブルーティー。オリーブオイル、ホワイトバルサミコ酢、ピランソルトはドレッシングの他、オリーブオイルはトーストに、ピランソルトはゆで卵にも。ブルーティーは、ドライの蝶豆(ちょうまめ)の花に湯をさして冷やしたもの。味や香りはあまりないので、水代わりにいただく。

8時半起床。「ベランダの野菜やハーブの手入れをしてから、朝食は9時頃。夫は八ヶ岳(長野県)の山荘にいることが多く、朝はひとりでいただきます」と網野妙子さん。10時には会社のスタッフが出勤してくる。

長野県蓼科高原で網野さんが育てている有機JAS認定のバラから作る3点。右上から時計回りに、冷凍と煮たバラの花は熱湯をかけてローズティーに。バラジャム(問い合わせ:アミノ 電話:045・835・5880)は紅茶に入れて。

“ソラフラワー”をご存知だろうか。タイ王国の水田に自生する、ソラセノーという植物の茎から生み出される芸術花である。これを開発し、その普及に情熱を注いでいるのが、フラワーデザイナーの網野妙子さんである。

「スポンジ状の白い茎を乾燥させ、桂剥きにしたソラシートが素材。これから新しい花を創作したり、専用の化粧水を吹きかけることで柔らかさを出すこともできます」

網野さんがソラフラワーの普及活動に力を入れるのには、もうひとつの理由がある。それは国連が掲げるSDGs(エスデイージーズ・持続可能な開発目標)の実現にも繋がるからだ。

「この植物は地球のCO2をたくさん吸収して育ち、これから作るソラフラワーは天然の植物素材ですから、最終的には土に還ります。また、この栽培でタイの農家は潤い、ソラシートを作る内職は、タイの体の不自由な人たちの経済的自立を促しもするのです」

それ故にタイ発の、日本のフラワーデザイン文化として世界に発信していきたいのだという。

網野さんデザインのソラフラワーをあしらったウェディングドレスとブーケ。
網野さんが開発したソラフラワーは繊細な軽やかさで、しっとりとしなやかな風合いだ。優しく温かみのあるオフホワイトが特徴。専用の染色化粧水で好きな色合いに仕上げることもできる。

暮らしの基本はオーガニック

1951年、静岡県生まれ。幼少時より華道に親しんだが、転機となったのは1983年から8年間のドイツ滞在だった。

「私はドイツの人たちに生け花を教えながら、ミュンヘン工科大学付属花卉(かき)学校のプロフェッサーから多くのことを学びました。ドイツでは1952年に花卉学校が設立されていますが、その源は生け花の理論から始まっている。今も生徒を連れて度々ドイツを訪れますが、現在でもドイツの花卉業界は盆栽、生け花、アレンジメントが3つの柱になっています」

そう語る網野さん宅のベランダには、数々のハーブや野菜が育ち、また四季の果実が実る。

ドイツから帰国後、30年前から育てている野菜やハーブは100種類以上にのぼる。これを旬の時期に収穫し、ドライや冷凍で保存。「私が栽培しているのは食べられるものばかり」(笑)と、朝食用のハーブを摘む網野さん。

「栽培方法は“お花つながり”で、世界中の友人から自然に学びました。私の朝のサラダは、すべてこのベランダ菜園で賄えるんですよ」

名づけて“お庭サラダ”。これが朝のメインで、加えてトーストとゆで卵、フルーツが定番献立だ。

格別な健康法はないが、食べ物から化粧品、シャンプーにいたるまでオーガニックであること。そして、植物と触れ合っていることが元気の源だという。

今朝、摘んだのはローズマリー、パイナップルミント、ペパーミント、レモングラス、ミニトマト、青ミカン、蝶豆の花など。肥料は化学者の夫が開発した「有機入り複合肥料サトウキビのちから水」のみだ。

華道とアレンジメントを融合し、独自のデザイン哲学を確立する

『MAFD AMINO(マフドアミノ)』の自宅アトリエでのレッスン風景。生花のバラで作るブーケスタイルを教える。「香りを味わいながら、花の色と形を愛でながら、斜め斜めへと挿してください」という網野さんの声が響く。

小学5年生から学んだ池坊の華道と、8年間のドイツ暮らしで得たアレンジメントの知識。これらを基礎に、網野さんはヨーロピアンスタイルのフラワーデコレーションを確立。ドイツから帰国後は、『MAFD AMINO(マフドアミノ)』(モダンアート オブ フラワー デコレーション)を主宰し、個人レッスンを開始する。それは現代のライフスタイルに合った心地よいフラワーアレンジメントの提唱で、それまでの正面だけを重視するアメリカンスタイルとは一線を画すドイツスタイルであった。

「私がドイツから帰国した1990年代初めは、日本でも花の人気は生け花からアレンジメントに移行する時期でしたが、そのほとんどがアメリカンスタイルでした」

以来、独自のデザイン哲学とスクール展開で圧倒的な支持を得て、卒業生の講師資格取得者は3000人以上を数える。

生け花からアレンジメント、プリザーブドフラワー、そしてソラフラワー。それぞれの第一線を歩み、新しい分野の開発にも情熱を注いできた。それもこれも花を愛し、活かしたいからである。

毎年、東京ドームで開催の「世界らん展日本大賞」のメインデモンストレーターとして作品紹介をする網野さん(左からふたり目)。同展ではアートディレクター、審査員としても活躍。
10年に一度、オランダで開催される「国際園芸博覧会」。2012年、政府の要請により日本代表として参加し、着物と帯を使った展示で絶賛を浴びた。来年の同博にも参加予定。
著書多数。『ソラフラワーズアレンジの基本と応用』は、基礎知識から花の作り方までソラのすべてがわかる一冊(左)。『木の実とスパイスの飾り花 トロッケンゲシュテック』は、ドイツで出会った木の実などを使った飾り花の、宗教に根付いた奥深さを紹介する。

※この記事は『サライ』本誌2021年11月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。
( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )

 

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