腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘルニアなどによる症状がなかなか治らない場合、手術をすすめられることがあります。
でもできれば手術はしたくない……。と思われる方が多いのではないでしょうか。
今回は、手術を選択する前に生活習慣を見直したり、運動療法に取り組んだりして症状を改善する方法について解説します。
腰や脚に痛みやしびれがあらわれて病院にかかると、検査で脊柱管の狭窄や腰椎椎間板のヘルニアなどが見つかることがあります。
まったく背骨などに異常が見つからない場合もありますが、いずれにしろまずはお薬や湿布などが処方されて、しばらく様子をみることになります。
薬や湿布で治ればいいのですが、治らない場合は強いお薬に変更したり、ブロック注射などの治療を試みたりすることになります。
それでも治らなければ、手術を提案されることもあるでしょう。
かつては私(筆者)もそういった患者の一人でしたが、手術をせずに、いろいろな取り組みをすることで痛みやしびれから解放されました。
例えば、今までの治療は、薬や湿布(薬物療法)にくわえて、病院によってはマッサージやけん引、電気治療(物理療法)などをおこない、それで効果がなければ手術という流れになります。(下図)
しかし、それにくわえて生活習慣を見直したり、運動療法に取り組んだりすることで、手術以外の選択肢が増えます。
なにより自ら治療に取り組んでいくということは、症状の改善に大きな影響、効果があるのです。
生活習慣の見直し
生活習慣についてはどのようなことを見直していけばよいのでしょうか?
日本整形外科学会から2019年5月に「腰痛診療ガイドライン 改訂第2版」(以下、ガイドライン)が発刊されていますが、その中に一部該当する内容がありますのでご紹介します。
- 体重過多と肥満が腰痛の危険因子であり、標準体重の維持が腰痛の予防に関連するという報告がある。
- また日常的な運動をしている人と、運動をしていない人を比べると運動していない方がより腰痛を発症しやすい。
- 腰痛の予防には健康的な生活習慣、穏やかでストレスが少ない生活が推奨される。
つまり食べ過ぎず適度な運動をして体重を維持したりストレスを減らしたりする生活が腰痛の改善や予防につながるということです。
一般的な健康的生活とまったく同じですね。
「そんなことわかっちゃいるけど……」
様々な理由でそのような生活がなかなかできない、という方も当然いらっしゃると思います。
しかし、そのままではいけないということも充分に理解されていらっしゃるのではないでしょうか。
まずは無理のないところから、ひとつでも生活習慣を改善してみてはいかがでしょう。
筆者の腰痛トレーニング研究所(https://www.re-studio.jp/)では、まずは次のようなことからはじめることをおすすめしています。
〇湯船につかってあたたまり血行をよくする(10分以上を推奨)
〇体重増加や肥満がある場合、食事を少し減らす
〇長時間おなじ姿勢でいない(なるべく座りっぱなし立ちっぱなしでいない)
〇睡眠時間を増やす
〇休日を増やす
〇ストレスを発散する
〇歩行で痛みが少ない場合は、歩く機会を増やす
〇ストレッチをおこなう
〇腹式呼吸によるインナーマッスルトレーニングをおこなう
それぞれについて解説していきます。
湯船につかってあたたまり血行をよくする(10分以上を推奨)
腰痛などの治療の基本は血行の改善です。そのために湯船につかってあたたまるというのはとても有効な手段なのです。
湯船が苦手でシャワーだけですませてしまう方も多いのですが、それだけでは身体の深部があたたまらず、充分に血行が改善しません。できる範囲でかまいませんので、湯船につかるようにしましょう。
体重増加や肥満がある場合、食事を少し減らす
運動で消費するカロリーはすごく少ないので、体重を減らすにはかなりの運動量が必要になります。
それよりも少しでも食事を減らして摂取カロリーを減らす方が、圧倒的に体重減につながります。
運動は運動で取り組んだ方がもちろんいいですし、必要なのですが、食事を減らすことも考えてみましょう。
長時間おなじ姿勢でいない(なるべく座りっぱなし立ちっぱなしでいない)
ヒトの筋肉は、長時間おなじ姿勢を保つのが最も苦手です。
そのため、座りっぱなしや立ちっぱなしでいると疲労が蓄積し、筋肉がこり固まって血行が悪くなります。
30~60分に一度くらいは席を立ったりして身体を動かしましょう。
睡眠時間を増やす/休日を増やす
睡眠不足や休日が少ないと身体の疲れがとれず、疲労が蓄積します。するとやはり筋肉がこり固まったり、体内で小さな炎症が続いたり血行が悪くなったりして痛みの原因となります。
また睡眠不足や休暇の少なさはストレスの増加にもつながると言われています。逆にしっかり睡眠をとるだけでもストレスの緩和になります。
睡眠時間や休日をしっかり確保して疲労やストレスをためないようにしましょう。
ストレスを発散する
ストレスが痛みの発症や悪化の原因となることがわかってきました。
ごく簡単に説明すると、ストレスにより脳がダメージを受けてしまい、痛みに過敏になってしまうのです。
例えば腰でおこっている痛みが本当は20くらいだとしても、ストレス状態にある脳は、それを100の痛みだと感じてしまう、というようなことがおこってしまうのです。
また、ストレスと体重の増加や肥満には関連があるとも言われていますので、その面でも腰痛などのリスクになります。
そのために適度にストレスを発散し、脳のストレスレベルを下げることが腰痛改善にも有効なのです。
ストレスの発散は、趣味や自分が楽しいと思うことであれば、(飲酒以外なら)なんでもかまいません。
歩行で痛みが少ない場合は、歩く機会を増やす・ストレッチをおこなう・腹式呼吸によるインナーマッスルトレーニングをおこなう。これらは運動療法にもつながりますので、次項で説明していきます。
これらをできる範囲で取り入れて、生活習慣を改善していくことが腰痛改善につながっていきます。
運動療法に取り組む
運動療法というと敷居の高さを感じてしまうかもしれませんが、ハードなトレーニングをおこなうのではなく、ちょっとした体操などでリハビリをすることを指します。
本連載ではそのような情報を発信し続けているわけですが、誰でもできる安全で簡単な運動を根気よく続けていくことで、腰痛や坐骨神経痛の改善ができます。
歩行で痛みが少ない場合は、歩く機会を増やす
もっとも手軽にできる運動は歩くことです。ただし腰や脚の痛みがある場合は、歩くことでかえって痛みが増したりすることがありますので注意が必要です。
歩いてもひどく痛んだりしない場合には、積極的に歩くことをおすすめしています。
どれくらい歩いたら良いかですが、1日の平均歩数が5000歩以下の場合なら、プラス1000歩くらいを目安に歩いてみましょう。
例えば平均3000歩くらい歩く方は、4000歩くらいを目安に増やすのがいいでしょう。
大人が普通に歩くと10分で1000歩前後ですから、10分ほど歩く時間を増やせばいいだけです。
それを1~4週間続けて大丈夫そうならまた1000歩増やす、また休日などには8000~10000歩ほど歩くことを取り組んでみてください。
歩くことで心拍が上がり、血行が良くなります。また歩くことは有酸素運動で体重減にもつながりますし、ストレスを緩和する効果もあります。
当然筋力体力も少しずつアップしますので、腰痛を改善するには大変おすすめです。
ぜひ無理のないペースで取り組んでください。
ストレッチをおこなう・腹式呼吸によるインナーマッスルトレーニングをおこなう、につきましては過去の記事が参考になります。
以下のページを参考に取り組んでみてください。
1日5分で腰痛を解消! 寝たままできる効果絶大な5つのストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第117回】(https://serai.jp/health/1141936)
腰・お尻・太ももの裏|痛む部位別におこなう腰痛・坐骨神経痛改善ストレッチ【川口陽海の腰痛改善教室 第100回】(https://serai.jp/health/1096269)
姿勢を良くして腰痛改善! 背骨のニュートラルポジションとは? ニュートラルポジション獲得エクササイズ(その1)【川口陽海の腰痛改善教室 第128回】(https://serai.jp/health/1168532)
姿勢を良くして腰痛改善! 背骨のニュートラルポジションとは? ニュートラルポジション獲得エクササイズ(その2)【川口陽海の腰痛改善教室 第129回】(https://serai.jp/health/1170961)
自宅・室内で腰痛改善! 足踏み運動で下半身の筋力アップ!【川口陽海の腰痛改善教室 第118回】(https://serai.jp/health/1143858)
この記事があなたの腰や脚の痛みを改善する一助になりましたら幸いです。
拙著「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい」が、全国書店にて発売となっています。
お読みいただけると幸いです。
文・指導/川口陽海 厚生労働大臣認定鍼灸師。腰痛トレーニング研究所代表。治療家として20年以上活動、のべ1万人以上を治療。自身が椎間板へルニアと診断され18年以上腰痛坐骨神経痛に苦しんだが、様々な治療、トレーニング、心理療法などを研究し、独自の治療メソッドを確立し完治する。現在新宿区四谷にて腰痛・坐骨神経痛を専門に治療にあたっている。著書に「腰痛を治したけりゃろっ骨をほぐしなさい(発行:アスコム)」がある。
【腰痛トレーニング研究所/さくら治療院】
東京都新宿区四谷2-14-9森田屋ビル301
TEL:03-6457-8616 http://www.re-studio.jp/index.html