アメリカで出会った3Dピクチャーがライフワークに。日々の創造力の源は、甘酒や糠漬けなどの発酵食品が並ぶ朝食だ。
【開高悦子さんの定番・朝めし自慢】
夫の赴任先、アメリカ・ミシガンで出会った不思議な絵が、その後の人生を変えた。それがオランダの画家、アントン・ペックの3Dピクチャーだった。開高悦子さんが、当時のことを語る。
「古ぼけた虫食いの額の中に立体的な絵が飾られていて、何故かその絵に釘付けになったのです」
2年半後、移り住んだカリフォルニアでも不思議な三次元の絵と出会う。やはりアントン・ペックの3Dピクチャーだった。
「その時初めて、私もこの立体画を習いたいと強く思いました」
願えば、叶うもの。そのチャンスはすぐにやってきた。友人から3Dピクチャーの講習の誘いを受けたのだ。
3Dピクチャーとは文字通り、スリーディメンション・ピクチャーで、立体画のこと。その歴史は古く、17世紀のイギリスで流行し、それが移民とともにアメリカに渡り、20世紀になってアメリカ各地に駐在していた日本女性の手により改良、普及していったという。
開高さんも講習をきっかけに何かに駆り立てられるように作品を創りつづけ、よりオリジナリティを求めるようにもなっていた。
昭和63年、帰国。時あたかもシャドーボックスや3Dピクチャー流行の兆しがあった頃である。
「シャドーボックスが単焦点なのに対し、私が作る3Dピクチャーは多焦点。絵の持つ遠近を考え、前だけでなく後ろにも膨らみを持たせ、臨場感のある立体画に構築するのが私の編み出した手法です」
発酵食品の効用
日本における3Dピクチャーのパイオニアは、9時~18時までアトリエにこもる。多忙な毎日だが、創作の源と健康の秘訣は、朝食の玄米ご飯と発酵食品である。
「玄米ご飯は玄米3合に大豆半合、小豆半合、塩少々を入れて炊きます。これを1食分ずつ冷凍。大豆にはたんぱく質、小豆には食物繊維が豊富で、私の健康主食です」
朝食に登場する発酵食品は、自家製の甘酒やヨーグルト、糠漬けなど。加えて、納豆には粘りを強くするために砂糖少々を入れ、夫君が80回かき混ぜるのが決まりだ。
発酵食品には腸内環境を整え、免疫力を高めるなどの効用があるという。
原画作家と組むことで、3Dピクチャーの世界が広がる
3Dピクチャーは同じ原画を複数枚用意し、それをパーツごとに切り抜き、表情をつけて再構築し、平面の絵を立体(3D)にしていく工芸である。開高さんの場合、趣味の写真を生かし、その作品を原画とすることが多い。ただ、33年前に教室を開いてからは、イラストレーターや切り絵画家などに原画を依頼することもある。
「一流の原画作家と組むことで、生徒の創造力が広がるからです」
作品には額装の技術も欠かせない。信頼している額装店がなくなったことから独学で勉強してきたが、2年前からフランス額装教室に通っている。
「フランス額装とは、作品と額縁の間(マット部分)をフランスの伝統的な技法で装飾することです」
あくまでも主役は作品だが、名脇役のマット部分を作家の手で作りあげることで、より高級感や手作り感を味わえるという。
きたる3月3日~5月12日まで「切り出されるいのち~きりえ&3Dピクチャー~高木亮 開高悦子 二人展」を開催予定。会場:蕨市立歴史民俗資料館(電話:048・432・2477)
※この記事は『サライ』本誌2024年1月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆 )