でき得る限り、減農薬で育てた自家農園の野菜。これら季節ごとの野菜料理が並ぶ朝食が、こども園園長の元気の秘訣だ。

【森 往子さんの定番・朝めし自慢】

前列中央から時計回りに、ご飯、切り干し大根の煮物(人参・さつま揚げ)、梅干し、ほうれん草のお浸し(鰹節)、甘酒、焼き鮭、茹でブロッコリー、卵焼き、たらこ、苺、味噌汁(大根・豆腐)。切り干し大根は、“いのやま農園”で育てた大根から作った自家製。味噌汁用の味噌も森さんの手作りだ。
森さん手作りの米味噌。3月~5月頃に仕込み、10月~11月頃には食べられる。味噌造りは森さん指導の下、毎年、年長の園児らも体験。給食に使う味噌は卒園生の置き土産だ。
蔵人が心を砕いてつくった麹と八海山水系の極軟水のみが材料。アルコールを含む酒粕や甘みを出すための砂糖は一切使っていない。従って、米本来のやさしい甘みが引き出されている、体にやさしい美味しさだ。
「麹だけでつくったあまさけ」825g・ 864円、1箱(12本入り)1万368円。八海醸造/新潟県南魚沼市長森1051 電話:0800・800・3865
森家や園の水は、熊本・阿蘇の白川水源の湧水から生まれた自然回帰水を使用。上質の軟水で、料理用には生水器を付けている。
問い合せ:タイセイ 電話:092・524・1888

休日の朝は同じ敷地内に住む長女の美佐子さん、その長男で孫の聡一朗さんと一緒に食卓を囲むこともある。「都合のいい人たちが集まって、賑やかなブランチになることも度々です」と、食卓に着く森往子さん。

「失礼します。お借りしたものをお返しに来ました」

と、大きな声でスタッフルームに一礼する男児。年長クラスのひとりだろうか。その大人顔負けの礼儀正しさに感嘆していると、

「ここではのびのびと開放的に遊ぶのはもちろんですが、言葉と作法を大切にしています。日本人としての道徳心、正しい生活習慣を身につけてもらいたいからです」

と、「認定こども園いのやま」の森 往子(みちこ)園長が語る。

昭和25年、福島県に生まれた。小学6年の時に一家で横浜に移住。横浜女子商業学校(現・中央大学附属横浜中学校・高等学校)卒業後、農協に勤務する。そこで知り合った夫君と20歳で結婚。

「ふたりの娘を産む時しか休んだことがありません。9人家族の農家の嫁として目まぐるしい日々を送ってきました」

地主だった義父は昭和56年、3000坪という広大な土地を生かして幼稚園を開園。森さん50歳の時、転機が訪れた。前園長である義父の、“後はお前に任せる”というひと言で園長職を引き継ぐことになったのである。

“いのやま農園”の旬の野菜

幼稚園という未知の世界を知るために、まずは学校に行こうと鎌倉女子大学児童学部児童学科に入学。幼稚園教諭資格と併せて小学校教諭の資格も取得する。さらに65歳の記念にと、保育士の資格も得た。日々子どもたちと触れ合うなかで痛感したのは、食育である。

鎌倉女子大学の卒業式で、学友や教授と一緒に。学友らは22歳、森さん(後列左からふたり目)は54歳。50歳で経験した大学生活はすこぶる有意義だった、と当時を振り返る。

「子どもたちに母親の手作り弁当も食べさせたいので、当園では週2日はお弁当、3日が給食です」

園の給食。ある日の献立は雑穀入りご飯、味噌汁、若鶏の照り焼き、切り干し大根の胡麻サラダ、伊予柑。園児には520キロカロリーが目安だ。野菜は“いのやま農園”で育てたもの。

幸いなことに園には義父が残してくれた梅林や“いのやま農園”がある。子どもたちは梅もぎや野菜を種から育てて収穫する喜び、味噌造りなども体験する。こうして食への感謝と命の尊さを学ぶのだ。森家の朝食には、その“いのやま農園”の野菜や自家梅林の梅で作る梅干しが欠かせない。

「梅干しは義母から教わった昔ながらの塩っぱい味ですが、最近は氷砂糖を粉にして3回ぐらいに分けて入れ、塩味を和らげています。野菜は自給自足で、買ったことがありません」

生命力あふれる旬の野菜が、園長の健康を支えている。

“いのやま農園”でブロッコリーを収穫する井上光弘さん。農園は森さんの夫君と井上さんが管理し、自家用や園の給食用の野菜はほとんど賄える。農園は4か所あり、園児らの体験学習の場としても利用されている。
学校法人森学園を支えるスタッフらと一緒に園庭で。中央が園長の森往子さん、前列右から5人目が長女で理事長の森美佐子さん、前列左から6人目が副園長の前田幸さん、後列左端が娘婿の施設長・森洋二さん。スタッフは全員揃うと50人ぐらいになるという。

日本の伝統、文化、芸術、日本人の誇りも伝えたい

「園児みんなが私の愛しい宝物」という森さんは、どのクラスにも1日1回は顔を出す。園児らは園長先生が大好きで、元気に挨拶したり質問したり。年長クラスで。

義父が開園した認可幼稚園は平成21年に保育園を併設し、「認定こども園いのやま」として再出発した。さらに昨年2月には、児童発達支援・放課後等デイサービス「こども発達支援ビーンズキッズ&ジュニア」も開始。0歳~6歳までの350人が学んでいる。

「吉田松陰に“学とは人たるゆえんを学ぶべし”という言葉がありますが、当園で大切にしているのは先人たちが残してくれた伝統、文化、芸術、そして日本人としての誇りも受け継ぐことです」

前園長は“どんど焼き”や“ 雛祭り”“ 端午の節句”などの伝統行事を欠かさなかった。森さんはそれらに加えて、茶道の稽古と音楽会を取り入れたという。

「子どもたちは4月に茶道の心である“ 和敬清寂”という言葉に初めて触れ、和=仲良くすること、敬=感謝の気持ち、清=心も身体もきれいにすること、寂=我慢することなどを、3年間の茶道の稽古を通して学ぶのです」

音楽会では友達と心をひとつにして美しいハーモニーを奏でる。その練習の過程で仲間と協力して頑張ることを覚えるという。

森家の茶室で月に1回、年長クラスを対象に茶道の点前を教えている。例年、2月頃に保護者を招いて卒園記念茶会を開催。年少・年中組には専門家による空手の稽古があるという。
15年くらい前から毎年2月下旬、神奈川・鎌倉芸術館で子どもたちによる「いのやま音楽会」を開催。参加するのは2歳~6歳児で、専門家を招いての指導が行なわれている。

※この記事は『サライ』本誌2022年6月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。 ( 取材・文/出井邦子 撮影/馬場 隆)

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